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東の狂犬は、万年Eランクにしか懐かない  作者: 揚げ太郎
【第6章】 ただいまと言える場所
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温もりという息苦しさ

  ――ツバキ視点――

 アタシは宿屋の部屋に荷物を置き、重い息を一つ吐き出してから、待ち合わせ場所である入口へと向かった。

「お! 早かったな」

「それじゃあ、向かいましょうか」

 すでにトビーと、トビーの妹が待っており、アタシたちはそのままトビーの実家へ向かうこととなった。

 道中、トビーと妹は昔の思い出話に花を咲かせ、とても楽しそうに笑い合っている。

 ……トビーは、アタシと違って『帰る居場所』がある人間だったんだ。

 なぜだか分からないが、アタシはその当たり前すぎる事実に、ひどくショックを受けていた。

 アタシにも故郷に兄がいたが、あんな風に笑い合って他愛のない話をした記憶なんて、ただの一度もない。

 他の家族だってそうだ。

 父も母も、強すぎたアタシを気味悪がり、いつも腫れ物に触るように、いない者として扱っていた。

 『武者修行』という名の事実上の追放を言い渡されたあの日だって……アタシは愚かにも、家族に褒めて貰える呼び出しだと思っていたのだ。

 皆、アタシから離れていく。

 アタシを慕ってくれたニナだって。

 『ツバキ姉には……心が……ないんだね……』

 ふいに、ニナの首が落ちた時の、あの呪いの声が耳の奥で響いた。

 ……アタシには心がないから。ただ刀を振るうしか能がない『バケモノ』だから、いつも一人ぼっちになるんだろうか。

 トビーの実家までの短い道中、アタシは泥のように重く冷たい思考を、ずっと一人で抱え込み続けていた。

 トビーの実家に着くと、優しそうなトビーの父と母が温かく出迎えてくれた。

 湯気を立てる温かい料理が並び、夕食を囲む空気はひどく温かい。

 でも、その温もりが、アタシにとっては息苦しくて仕方がなかった。

 自分だけが、この温かな場所にいるべきではない『異物』のような気がして、居座れば居座るほど辛い気持ちが胸を締め付けていく。

「……ちょっと、馬車に揺られて疲れた。悪いけど、アタシはもう宿屋に戻るぞ」

 これ以上ここにいるのは辛い。

 逃げるように立ち上がったアタシを、トビーの妹が引き留める。

「えーっ、そんなぁ。ツバキちゃん、もうちょっとゆっくりしていけばいいじゃない」

「いや、でも……」

「ツバキちゃんみたいな可愛い子が来てくれて嬉しいのよ。なんだか、『妹』ができたみたいで!」

 ――ドンッ、と。

 心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。

 『ツバキ姉! 今日も護衛ありがとう!』

 脳裏に、満面の笑みでブレスレットを差し出してくる、あの少女の顔が鮮明にフラッシュバックする。

「うるさいっっっっっ!!!」

 自分でも驚くような悲痛な絶叫が、アタシの喉から弾け飛んでいた。

 アタシの怒声は、温かな家族の団欒を無残に斬り裂いていた。

 やっぱりアタシは、心のないバケモノなんだ。

   ◆◆◆

   ――トビー視点――

「うるさいっっっっっ!!!」

 突然の悲鳴のような絶叫に、俺の家族は言葉を失い、温かかった食卓の空気は一瞬にして凍りついてしまった。

 しまった……っ。

 少しでもツバキの療養になればと実家の夕食に誘ったが……完全に裏目に出てしまった。

「ツバキちゃん……?」

 何が起きたのか分からず、ピノンが戸惑いながらも心配そうに声をかける。

 その声にはっと我に返ったツバキは、自分のしでかした事に気付いたのか、サァッと血の気を引かせた。

「あ……っ、その……アタシ、違う……ごめんっ!」

 深く傷ついた子供のような顔で短く謝絶すると、ツバキは椅子を蹴り倒すような勢いで立ち上がり、そのまま家から駆け出して行ってしまった。

「ちょっと、私……初対面なのに馴れ馴れしくしすぎたのかしら……?」

 嵐のように去っていったツバキの背中を見つめ、ピノンがひどく気に病んだ様子で俯く。

「いや、違うんだ。お前は悪くない」

 俺は慌てて、家族に向けてザックリとした事情を説明した。

「実は最近、あいつが実の妹のように可愛がっていた娘と死別したばかりでな……。そのショックで、今はちょっとナーバスになってるんだ。悪い、せっかくの夕飯だったのに」

「そんな……そうだったのね。ごめんなさい、私そんなことも知らずに無神経なことを」

「だから、ピノンは気にするな。……たぶん宿屋に戻ったと思うから、ちょっと様子を見てくるよ」

「私も行くわ」

 俺とピノンは急いで身支度をして宿屋に向かった。だが、宿を留守番していたピノンのハンジに確認しても、ツバキはまだ戻ってきていないという。

「どこに行ったんだ……。ちょっと俺、村の周辺を探してくる」

「兄さん! 外は真っ暗よ!?」

「土地勘のないあいつを、このまま一人にしておけないからな」

 ピノンの制止を振り切り、俺は松明を片手に、夜の闇に沈む村の周辺を走り回った。

 いつもなら、あの規格外の強さを持つツバキが野盗やモンスターに襲われて危険な目に遭うことなんて、全く想像もつかない。心配するだけ無駄だ。

 だが……今は、物理的な危険じゃない。あいつの精神的な状態が心配なのだ。

 どこだ!? どこなんだ、ツバキ……っ!

 冷たい夜風を切って走りながら、無我夢中で村中を探し回るのであった。

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