特別な場所でのプレゼント
連日ニナに付きまとわれて、さすがのツバキも迷惑しているだろうと思っていたが……意外なことに、あいつはまんざらでもないらしい。
自分を慕ってくれていることが分かったのか、あるいは何度もめげずにトライしてくるそのガッツを気に入ったのか、ツバキは徐々にニナに対する態度を軟化させていった。
「なんだ、お前。今日も来てるのか」
呆れたように言いながらも、その表情は心なしか嬉しそうだ。
「今日は一体どんな『お礼』を持って来たんだ?」
などと、ニナの空回り気味な恩返しを茶化して楽しむ余裕すら見せている。
気がつけばギルド内でも、ニナはすっかり『ツバキの妹分』として認知されるようになっていた。
◆◆◆
そんなある日のこと。
ニナが半べそをかきながらギルドへ駆け込んできた。
「おい! どうした、誰に泣かされた!?」
異変に気付いたツバキが、弾かれたように駆け寄って事情を聞く。
「ま、また……露店の売り上げが入ったバッグ……取られちゃいました……っ」
「どこで、どんな奴に取られた!? アタシが今すぐ取り返してきてやる!!」
ひったくりに遭った場所と犯人の大まかな特徴を聞き出すなり、ツバキは烈火の如く怒り、一目散にギルドを飛び出していった。
――それから数刻後。
犯人らしき大男の襟首を掴んでズルズルと引きずりながら、バッグ片手にツバキがギルドへ戻ってきた。
男は白目を剥き、完全に気絶している。
この東都市で、ツバキから逃げ切るなんて絶対に不可能だな。
それにしても、この治安のいい東都市でこんなに連続してひったくりに遭うとは不運な子だ。
「お前は、何回取られたら気が済むんだ! 隙だらけすぎるぞ!」
「ひぐっ……申し訳ないです……」
説教されながら泣きじゃくるニナを見て、俺はふと疑問に思ったことを口にしてみた。
「ニナは、ご両親とは別に住んでるのか? 露店の売り上げだけで生活してるみたいだけど……」
「……両親……?」
ニナはピタリと泣き止み、きょとんとした顔をした。
「ああ。そうですね。……遠いところに、います」
あんまり触れられたくない質問だったのだろうか。
曖昧な回答が返ってきた。
俺がその微かな違和感に首を傾げていると、ツバキが大きなため息をついて言い出した。
「仕方ない。アタシが、お前の露店の送り迎えを護衛してやる」
「えっ!? そ、そんなこと特例Aランクのツバキさんにお願いするの、悪いです!」
「お前がギルドへ来る行き帰りの寄り道に、少し一緒に歩くだけだ。時間はまた決めよう」
有無を言わさぬ口調で、ツバキがどんどん話を進めていく。
「でも、それじゃあ私、本当にツバキさんにどうお礼をしたらいいか……」
恐縮して身を縮めるニナに対し、ツバキは少しだけ顔を逸らし、頬をポリポリと掻きながら気恥ずかしそうに言った。
「それじゃあ……アタシ用に作った『あくせさりー』とやらをくれ」
「……え?」
「な、なんだよ!! なんだか急に、そういうのも少し欲しくなったんだ!」
真っ赤になって怒鳴るツバキを見て、ニナは感無量といった様子で瞳を輝かせ、ツバキの胸にドンッと勢いよく抱きついた。
「はいっ!! 私、絶対にツバキさんに似合う最高の力作を準備しますね!!」
ツバキが嬉しそうに笑うのを見て、俺はよかったなと思っていた。
◆◆◆
ツバキがニナの露店の行き帰りを護衛するようになってから、ますます二人の仲は深まっているようだった。
「ツバキ姉、今日も護衛ありがとう!」
ニナの方もすっかりツバキに懐き、本当の姉のように慕っている。
その日も、夕暮れの街をいつも通りツバキとニナと三人で歩いていた。
「ツバキ姉、トビーさん。今日、少しだけ寄り道する時間ありますか?」
ふと、ニナが唐突にそんなことを聞いてきた。
「ん? アタシは構わないけど、どうした?」
「ふふっ、ひみつです! ついてきてください!」
そう言って、ニナは突然、大通りから外れた細い脇道へとズンズン進み出した。
慌ててツバキと一緒にその後を追いかけ、入り組んだ路地裏を抜けると――そこは、夕日に照らされて静かに水面を揺らす、小さな池のほとりだった。
「ここ、私のお気に入りの場所なんです!」
ニナが振り返り、笑顔でそう言った。
「はいっ! ツバキ姉! これ、約束のお礼です! ちょっと特別な場所で渡したくて!」
そう言ってニナが革のバッグから大切そうに取り出したのは、赤と黄色の少し歪な石を繋ぎ合わせた、手作りのブレスレットだった。
「おおっ! ありがとう!!」
ツバキはパァッと顔を輝かせてそれを受け取ると、嬉しそうに自分の腕に付け、はしゃぐように俺の目の前へ突き出してきた。
「どうだ? おっさん、似合うか!礼」
「はいはい、すごく似合ってるよ。よかったな」
俺が苦笑しながら頷くと、ニナは少し恥ずかしそうに袖をまくり、自分の腕にもお揃いのブレスレットが付いているのを見せてくれた。
「私とお揃いなんです! 赤は強くてかっこいいツバキ姉のイメージで、黄色は私なんだ!」
「そ、そうか……! お揃い、か……!」
ツバキは気恥ずかしそうにはにかみながら、自分の腕のブレスレットを愛おしそうに撫でた。
「あと、トビーさんにも! いつもお世話になってます」
ニナはそう言って、今度は俺に向かって、革紐にシンプルな飾りのついたネックレスを差し出してくれた。
「あ! おっさんだけ違うやつなの、ずるいぞ!」
「ふふっ。また今度、ツバキ姉にも違うやつを作ってあげるね!」
夕日だけが照らす静かな池のほとりで、なんだかひどく穏やかで、温かい時間が流れていく。
ツバキも、ニナという妹分の存在ができたことで、確実によい方向へと変わってきている。
正直なところ……俺は時折、ニナに対して『なにか妙な違和感』を覚えることがあった。
――しかし。
こんな風に一生懸命にプレゼントを用意してくれて、ツバキと無邪気に笑い合う心優しい子なのだ。
きっと、考えすぎだろう。俺の気の所為だ。
夕日に照らされてはしゃぐ二人を眺めながら、俺は胸の奥で燻る小さなわだかまりに、そっと蓋をするのであった。
――そろそろ、頃合いだよね?




