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東の狂犬は、万年Eランクにしか懐かない  作者: 揚げ太郎
【第5章】無傷な侍
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終わらないお礼

「あ、こんにちはトビーさん! ツバキさんは?」

 ロビーで俺と目が合うなり、ニナは嬉しそうに駆け寄ってきた。

 ギルドまで押しかけてくるとは、見た目の大人しさに反してなかなか強引な子だな。

「ツバキはまだ来てないけど……一体どんな用件なんだい?」

「昨日のお礼を、まだ受け取ってもらってません!」

 ニナはフンスと鼻息を鳴らしながら、真っ直ぐな目で宣言する。

 そんなに、なんとしてでもお礼をしたいのか。

 律儀というか、少し変わった子だな。

 ……あれ?

「というか、よく俺たちがここの冒険者だって分かったね。名前まで知ってて驚いたよ」

「そうですか? お二人は街でちょっとした有名人ですよ」

 ニナは首を傾げて、さも当然のように言う。

 まぁ、万年Eランクの便利屋と、特例Aランクなんていう凸凹コンビだから、目立つことは目立つか。

「あれ? お前、昨日のバッグの奴か? どうしたんだ?」

 そこへ、タイミングよくツバキがギルドへやってきた。

「あ! ツバキさん! 昨日の御礼、なんとしてでも受け取って欲しいです!」

 ターゲットを発見したニナが、ズイッとツバキに詰め寄っていく。

「いや、だからいいって言ってるだろ」

「アクセサリーがいらないなら、ご飯を作らせて頂くとか! なにかお手伝いをさせて頂くとか!」

「知らない奴からの飯は毒が入ってるかもしれないからいらないし、手伝いと言っても、お前すごく弱そうだしな……」

「そ、そんなぁ……」

 ツバキのあまりにも身も蓋もない淡々とした拒否に、ニナの大きな瞳からボロボロと大粒の涙が溢れ出しそうになる。

 あっ……。

 さすがにマズイことを言ってしまったと気付いたのか、ツバキが目に見えてオロオロとしだした。

 助けを求めるように俺の方をチラチラと見ているが、これはお前が自分で撒いた種だぞ。

「えっと、えっと……! そ、そうだ! アタシの家の掃除を手伝ってくれ!」

 捻り出すように、ツバキが大きな声で提案した。

「掃除……ですか?」

「そう! アタシ、片付けとかそういうのは苦手で、ちょっと行き届いてない所もあったからな! 掃除を手伝って貰えたら、十分お礼になるぞ!」

 どうやらツバキも、何かしらお礼を受け取る形にしないと、この子は一生泣き止まないし引き下がらない、ということに気づいたらしい。

 特例Aランクの待遇で借りているツバキの家は、一人で住むには広すぎる一軒家だ。

 確かに掃除の手伝いをしてもらうには丁度いいかもしれない。

「……分かりました! 精一杯、お掃除でお役に立てるようにします!」

 パァッと表情を明るくしたニナは、両手で拳を握りしめ、力強く宣言をするのであった。

 こうして、なぜか俺まで巻き込まれる形で、ツバキの家の掃除手伝いにニナと共に向かうことになった。

 なんで俺まで……。

「それじゃあ、適当にそこの床や棚を拭き掃除してくれたら、それで大丈夫だぞ」

「分かりました! お任せください!」

 そう言って、ニナは腕まくりをして張り切って掃除を始める……が。

 ……なんだ? すごく、手際が悪いな。

 根本的な「掃除のやり方」を知らないのか、ひどく効率が悪い。

 見かねたツバキが、隣にしゃがみ込んであれこれとフォローし始めた。

「ったく、なにやってるんだよ。そこはこうやって拭くんだ」

「あ、すみません! こうですか?」

「違う違う、もっと端からだ」

 お礼をしにきたはずなのに、逆にツバキの負担が増えている気がするな……。

 もともとツバキは武芸者気質というべきか、意外にも身の回りの整理整頓はできる綺麗好きなようで、家の中はそれほど散らかっていなかったため、掃除の時間はそこまでかからなかった。

「よし! 十分綺麗になった! お礼はちゃんと受け取ったから、これでもう大丈夫だぞ!」

 ツバキは腰に手を当て、ニコニコとニナに告げる。

 完全に、これで面倒事終わった、と思っている顔だな。

「いいえ! まだ私の気が済みません! 他にもお手伝い出来ることはありませんか!?」

「えっ」

 ニナがズズイッと効果音が鳴りそうな勢いでツバキに詰め寄る。

 ツバキが怯んだように後ずさりし、助けを求めるようにチラッとこちらを見た。

「まぁまぁ、今日はこの辺で終わりにして、飯にでもいかないか?」

 終わりの見えない堂々巡りを断ち切るため、俺は間に入って話を打ち切らせてみようと提案した。

「お! おっさんの奢りか!?」

 途端に、ツバキが目を輝かせせて食いついてくる。

 こいつ、妙に俺に奢らせたがるな。

 まぁ、色々と世話になっているし、今日くらいは仕方がない。

「わかったよ。今日は俺が出すよ」

「やったぞ!」

 俺とツバキがそんなやり取りをしていると、ニナが急に申し訳なさそうな顔をして、慌てて断りを入れてきた。

「あ、私、ちょっとご飯は遠慮しておきます! お礼の続きは、また改めて来ますね!」

「遠慮しなくていいよ。ニナの分も俺が出すからさ」

「いいえ! お金とかそういう訳ではないので! それじゃあツバキさん、また明日!」

 そう言うが早いか、ニナは足早にツバキの家から立ち去ってしまった。

 ……お腹空いてなかったのかな?

 ともかく、こうしてその日のニナの強引な『お礼』は幕を閉じたのだった。

   ――だが、翌日。

 ギルドのロビーには、当たり前のようにニナの姿があった。

 それからというもの、連日なにかにつけて、ツバキは執拗にニナに付きまとわれるようになるのであった。

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