チキンなニューヒーロー
ーー ツバキ視点 ーー
「我が名は、マスク・ド・チキン! 貴様のファンへの対応の悪さ、目に余るッ!」
半裸にニワトリの仮面を被った変態が、ビシッとポーズを決めて何か言っている。
……しかし、ただの変質者かと思いきや、鍛えられた身体と、ブレのない体幹からして、それなりに強そうなので対応に困る。
「……なんだ変態。アタシに喧嘩を売りにきたのか?」
取り敢えず、刀の柄に手をかけながら絡んできた目的を聞く。
「っ!! い、いや! 別にそういう訳ではなくてな……!」
アタシが睨みつけると、変態は急にタジタジと尻込みしだした。なんなんだこいつは。
周囲を取り囲んでいた奴らも、この奇妙な乱入者に妙にざわついている。
「……なぁ。今の声って」
「うん……本人、あれで正体隠せてると思ってるんだろうか……?」
「しっ! 言っちゃダメだ。きっと彼なりの事情があるんだよ……」
なんだかよく分からないが、戦う気も起きない。
「そんなに文句があるなら、お前が対応してやれよ」
アタシはため息をつき、変態と集まってきた奴らをその場に残して去ることにした。
やっぱり、南都市の仕事は変なことばっかりだ。
◆◆◆
ーー ゾラン視点 ーー
くっ! しまった!
俺としたことが、ファンサービスの基礎の基礎を叩き込む前に、あっさりと逃げられてしまった。
「あの……マスク・ド・チキン、さん? あなたは、新しい冒険者なのですか?」
残されたギャラリーの一人が、ひどく困惑したような……それでいて、どこかホッとしたような、生温かい複雑な視線を俺に向けて尋ねてきた。
いけない! ファンを不安にさせてどうする!
「あぁ! 私はこの南都市で新しく活動を始めようと思っていてね! これからギルドへ登録しに行くところなんだ!」
俺が声を張り上げてポーズを決めると、ギャラリーたちは顔を見合わせ、やがてクスッと嬉しそうに笑った。
「そうですか……。それじゃあ、私たちの『新しいヒーロー』への期待も込めて、握手をお願いしてもいいですか?」
「あ! 私もお願いしたいです!」
「俺も! サインもらっていいですか、チキンさん!」
「お、おおっ! もちろんだとも!」
あの日失ったはずの歓声が、確かな温もりを伴って俺の手を包み込んでいく。
俺は求められるがままに、持てる限りの最高のファンサービスをこなした。皆、なぜか涙ぐみながら俺の手を強く握り返してくれた。
胸の奥に、忘れかけていた熱い高揚感が満ちていくのを感じる。
俺は高揚した気持ちのまま、半裸にニワトリ仮面というスタイルのまま、ギルドへ『マスク・ド・チキン』として冒険者登録に向かうのであった。




