許せぬファン対応
ーー ゾラン視点 ーー
歓声の上がる方へ人混みを掻き分けて進むと、そこには東都市の特例Aランク――『ツバキ』と呼ばれていた、あの侍の少女がいた。
そうか。彼女を東都市と南都市の『共同シンボルのスター』として扱うとルミオン・ギルド長が言っていたな。
どうやら今日は、お披露目も兼ねて街の巡回をしているらしい。
(……少し前までは、あれが俺の役目だったのにな)
胸の奥に、泥のような暗い嫉妬と寂しさが渦巻くのを感じる。
「ツバキさーん! 握手お願いします!」
「嫌だ」
「ツバキさん! サインお願いしたいです!」
「そんなものない」
「ツバキちゃん! 差し入れ受け取って!」
「得体の知れないものはいらん」
……身も蓋もない。
なんだあのファンサービスの無さは!!
俺は、あまりの対応に思わず頭を抱えた。
違う、そうじゃない! 握手は両手で包み込むように! サインは無くても笑顔でウインクの一つでも飛ばす! 差し入れは中身が何であれ、まずは胸に抱きしめて感謝を伝えるんだ!
あーしろ、こーしろ! と勝手に指示を出したくなってしまう。
これではファンも悲しむだろう……とハラハラしながら様子を見ていたが、どうやらそういう訳でもないらしい。
「あの孤高な感じ、たまんないよな!」
「しかも無茶苦茶強いらしいぞ? 強力な変異種を何体も単独で討伐してるんだと!」
……あれがいいのか!?
南都市のファンたちの熱狂ぶりに、俺はどうしても納得がいかなかった。
確かに、強さは本物であると俺自身も直接目にしている。ビジュアルも端麗だ。だが、ファンへの扱いというのは、本来そういうものではないだろう!
今すぐ飛び出して指導してやりたい。しかし、地位を失った今の俺には、そんなことを抗議する資格も勇気も……。
ギリギリと奥歯を噛み締めながら悩んでいた俺の視界に、ふと、露店で売られている『動物を模したお面』が飛び込んできた。
……これだッ!!
◆◆◆
ーー ツバキ視点 ーー
合同シンボルの仕事として、とにかく街を見廻りしてくれと言われただけで、何をしていいかよく分からない。
ただ歩いているだけなのに、顔も知らない奴らが次から次へと馴れ馴れしく話しかけてくるのも、本当に意味が分からない。
(早く終わらないかな……東都市に帰りたいぞ……)
面倒くささにため息をついていた、その矢先。
背後から、やたらとよく通る声で呼び止められた。
「おいッ! 貴様!! ファンに対してその態度はなんだ!!」
なんだ、喧嘩か?
退屈していたし、ちょうどいいと振り返ってみると――そこには、ニワトリを模した仮面を被り、なぜか上着を脱ぎ捨てた『半裸でガタイのよい変態』が、ビシッとこちらに指を突きつけて立っていた。




