きっと特別だから
レオンハードさんとツバキは、あの模擬戦の決闘を経て、完全に和解したらしい。
その後の情報共有会議では、ボウマンさんやセリアさんとも最初はぎこちない雰囲気が漂っていたが、レオンハードさんが間を取り持ってくれたことで、関係は劇的に改善されていた。
特に、あれほどツバキを恐れていたセリアさんも、「……もう一度、名前で呼んでもいいか?」と不器用に尋ねてきたツバキのいじらしい態度に、勝手な偏見を抱いていた罪悪感が勝ったのだろう。
最後の方は、彼女の方から積極的にツバキに声をかけている様子だった。
それにしても、あのレオンハードさんに完勝するなんて、どれだけ強いんだツバキは。
レオンハードさんはパーティ戦での連携が真骨頂とはいえ、単独でもAランクのトップクラスだぞ。
◆◆◆
西都市へ帰るレオンハードさん達を見送る為、俺とツバキは東都市の大門まで付き添うことにした。
全員と力強い握手を交わし、別れを惜しむ。
「トビーさん! いつか高名な盾職として、貴方の名前を聞く日を心から期待していますよ!」
「ええ! 頑張ります!」
ボウマンさんは、最後まで暑苦しくも情熱的な人だった。
俺は彼の期待に応えるように、力強く頷き返した。
「ツバキ殿。今回は完敗だったが、私はもっと強くなってみせる」
レオンハードさんが、ツバキとしっかりと握手を交わしながら真っ直ぐに告げる。
「立ちはだかる現実という壁がどれほど高くても、自分の掲げる理想を、今度は貫き通してみせるよ」
彼の吹っ切れたような、清々しい決意。
ツバキは一瞬だけ目を丸くしたが、力強く頷き返した。
「ああ! ……もっと強くなったら、また勝負だな!」
こうして、レオンハードさん達の乗る馬車は、西都市へ向けてゆっくりと出発していった。
「レオンハード、ボウマン、セリア! またなー!」
遠ざかる馬車に向かって、元気にぶんぶんと手を振るツバキ。
俺はその横顔を眺めながら、ふと口を突いて出た本音をぼやいた。
「レオンハードさん達の名前はちゃんと呼ぶんだから、いい加減、俺の名前も覚えて呼んでくれよな」
まぁ、強者以外に人の名前を覚えないツバキに、今更そんなことを言っても仕方ないけどな。
――そう思って苦笑いしていた俺の耳に。
「……ト、トビー……」
ふと、消え入りそうなほど小さな、鈴を転がすような声が届いた。
「……えっ?」
俺は耳を疑った。
「ツバキ!? お前、今……俺の名前を呼んだのか!?」
驚いて顔を覗き込ようとすると、ツバキはバッと顔を背け、俺と目を合わせようともしない。
「よ、呼んでないっ!! おっさんの空耳だっ!! もう帰るぞ!!」
そう言って強引に話を打ち切り、ツバキは早足で俺を置き去りにして先を歩いていってしまう。
顔は見えなかったが、きっと今のあいつは笑っている。
夕日に照らされたその小さな背中を見て、俺はなぜだかそう思った。




