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東の狂犬は、万年Eランクにしか懐かない  作者: 揚げ太郎
【第4章】紡がれる名前
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紡がれる名前

 翌日。

 ツバキは南都市から戻ってきており、約束通り東都市ギルドへと顔を出してくれた。

 ただ、なんだか朝から俺と目を合わせようとしないなど様子がおかしい。

 やはり、これから顔を合わせるレオンハードさん達との確執を気にして緊張しているのだろうか。

 やがて、レオンハードさん達もギルドに到着した。

 彼はロビーの隅にいるツバキを目にするなり、何か覚悟を決めたような、鋭い顔つきでこちらに真っ直ぐ近づいてくる 。

「ツバキ殿。この間の西都市での合同クエストの件だが……私は未だに、貴女のあの無慈悲なやり方に心底頭にきている」

「えっ!?」

 俺は思わず声を上げた。

 昨日、あんなに憑き物が落ちたように吹っ切れた様子だったのに!?

 ツバキも戸惑ったような顔で、しかし負けじと睨み返す。

「……なんだよ。今更なにが言いたいんだ?」

「お互い、言葉よりも剣に生きる戦士だ。……模擬戦の決闘で、決着をつけよう」

 Aランク同士の決闘!?

 穏便な会議のはずが、とんでもない大ごとになってしまったぞ……。


   ――レオンハード視点――

「レオン! どうしたの急に!? 昨日の今日で決闘だなんて!」

 ギルドの裏手にある訓練場へと向かう道すがら、セリアが慌てて私を追いかけながら聞いてくる。

 私は前を見据えたまま、短く答えた。

「……これ以上、答えのない問答を自分の頭の中だけでやっていても仕方がない。私の掲げた理想と、彼女の現実。剣で、全てを確かめる」

 トビー殿の言葉を聞き、私はそう決心したのだ。

 理屈という鎧を脱ぎ捨てて彼女と向き合うには、この方法しかなかった。

「……頼むから、お互い大きな怪我はないようにな」

 立会人となったギデオン・ギルド長がため息まじりに言い、開始の合図を送る。

 その途端――視界を埋め尽くすほどの斬撃が飛来した。

(は、速い……!)

 なんとか剣で受け止めるが、息をつく間もなく、次には全く別の死角から斬撃が降ってくる。

 刃を潰した練習用の剣だというのに、手首ごと切り飛ばされそうなほどの凄壮な鋭さを感じる。

「うおおおおおおッ!」

 私も意地で反撃の剣を振るうが、ツバキ殿に掠る気配すらしない。

 それでも、私は必死に剣を振るい続かった。

(……あの時、人々の救出という選択肢を、彼女が即座に切り捨てたことが許せなかった)

 ツバキ殿の嵐のような猛攻に耐える。

(すでに死体だったのかもしれない、それでもモンスターごと罪なき人々を斬り捨てた彼女の冷酷さが許せなかった)

 振り返した私の剣は、またしても空を切る。

(――でも、私が本当に怒っていたのはきっと)

 ガァンッ!!

 けたたましい金属音が鳴り響き、私の手から弾き飛ばされた剣が、クルクルと宙を舞って地面に突き刺さった。

「……誰一人救えず、理想を貫けなかった『自分自身の弱さ』に対してだ……」

 ポツリとこぼした私の喉元には、ツバキ殿の剣先がピタリと突きつけられていた。

「……勝負ありっ!」

 ギデオン・ギルド長の声が、決着を告げる。

「……高いな、現実の壁は」

 私は独り言のようにそう口にし、大きく息を吐いてから、目の前のツバキ殿に真っ直ぐに向き合った。

「完敗だ、ツバキ殿。……それと、この前の私の非礼を、心から詫びさせてくれ」

 私は彼女に対し、深々と頭を下げた。

 自分自身の弱さを棚に上げ、彼女の在り方を否定したことへの、心からの謝罪だった。

「や、やめろよ! アタシは別に気にしてないっていうか、その……アタシも、考えが足りなかったっていうか……!」

 いきなり頭を下げられ、ツバキ殿はひどく狼狽していた。

「レオ……ピカピカ男が怒ってた理由も、今は少しだけ分かったし……」

「レオンハードだ」

 私は顔を上げ、もう一度、一人の戦士として彼女に名乗りを上げた。

「……」

 ツバキ殿は一瞬だけ逡巡するように目を泳がせる。

「改めて、よろしく頼む」

 私が右手を差し出すと、なにかを吹っ切ったように彼女は力強くその手を握り返してきた。

「ああ! レオンハード! いい勝負だったぞ!」

 私は、彼女と初めて分かり合えた。そう思えた。

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