認められない、でも分かり合える
いよいよ、レオンハードさん達の東都市での滞在も終わりに近づいてきた。
それに伴い、ボウマンさんからの地獄の特訓も今日が最後となった。
「本日の訓練は、ここまでとしましょう!」
「……ありがとうございましたっ!」
俺は全身打撲でボロボロになった身体に鞭を打ち、深く最後の礼をする。
「教えたことを反復練習することが何より重要です! トビーさんなら必ずモノにできると信じていますが、継続して取り組んでくださいね!」
それと、とボウマンさんは最後のアドバイスをくれた。
「トビーさんの防御特化のスタイル的に、今後の課題は持久力です。もし機会があれば『自己回復』の魔法が習得できないか、チャンスを探ってみてください」
魔法、か……。
これまた、限られた盾使いから技術を学ぶ以上に、俺みたいな凡人にはハードルの高い分野だ。
だが、これからの道標として頭の片隅に置いておこう。
「トビー殿。特訓、お疲れさまです」
ボウマンさんと入れ替わるように、レオンハードさんとセリアさんがこちらへやってきた。
「ボウマンが毎日のように無茶な指導をして、本当にご迷惑をおかけしましたね……」
セリアさんが、申し訳なさそうに眉を下げて謝罪をしてくる。
「いや屋! こちらが無理にお願いしたことです。本当にありがたかった」
「それにしても……トビー殿は、なぜそこまで無茶をされるのですか?」
レオンハードさんが、俺を見て不思議そうに尋ねてくる。
「ツバキのパーティメンバーですからね。あいつ、攻撃は規格外ですけど防御は苦手そう……というか、そもそも防御に回る場面があまりないんですけど。それでも、いざという時に俺が盾になって補えたらと思って」
『ツバキ』の名が出た瞬間、レオンハードさん達の間にピリッとした緊張感が走った。
「……トビー殿は、ツバキ殿が怖くないのですか?」
怖い?
俺が不思議そうな顔をしていると、セリアさんが自らの腕を抱きしめるようにして震える声で続けた。
「……だって彼女、あの西都市での合同クエストで、人の顔を浮かべていたスライムを、少しの躊躇いもなく平気な顔で斬り捨てたのですよ……? いつ……その冷酷な刃が、味方であるこちらに向くか……」
「ありえませんね」
俺は、きっぱりと断言した。
「え……?」
「あ息は、人が好きですよ。不器用で乱暴ですけど、誰よりも純粋です。だから、自分の力で皆の為になろうと、あいつなりに必死に足掻いてるんです。……そんなあいつを、俺は放っておけない」
俺の言葉に、レオンハードさんが苦々しい表情を浮かべた。
「……それでも、あんな無慈悲なやり方を『正義』だと認める訳にはいきません」
「認めなくてもいいんじゃないですか?」
「……えっ」
「レオンハードさん達の信念が間違っているとは思いません。でも、相手のやり方を認められないからといって、それが『ツバキと分かり合えない』と決めつける理由になりますか?」
俺の問いかけに、レオンハードさんは雷に打たれたように目を大きく見開き――やがて、フッと自嘲するように息を吐いた。
「『認めなくてもいい』……か。そうですね。私は自分の掲げる理想や正義という鎧に縛られ、随分と窮屈な見方をしていたようです」
レオンハードさんは、何処か憑き物が落ちたような、清々しく吹っ切れた顔をしていた。
――ツバキ視点――
南都市での『シンボル』としての仕事が予定より早く終わったので、アタシは真っ直ぐに東都市へと帰還した。
家に戻る前に、ギルドの訓練場で時間を潰してから帰ろうと思っていたところ……そこには、ボロボロになったおっさんと、あの『ピカピカ男』たちの姿があった。
面倒なことになりそうだと思い、アタシは反射的に物陰へと身を隠した。
その時、おっさんの声が風に乗って聞こえてきた。
『あいつは、人が好きですよ』
『――そんなあいつを、俺は放っておけない』
ドクン、と。胸の奥が大きく跳ねた。
なんだか、ポカポカとするような不思議な気持ちでいっぱいになった。
「な、なんだ!? なんだ!?」
ひどく戸惑ったアタシは、たまらず訓練場に背を向け、猛ダッシュで家へと逃げ帰るのであった。




