強引な師匠
レオンハードさんは、万年Eランクの俺が相手でも嫌な顔一つせず、真摯に情報交換に応じてくれた。
彼らとの会議で、西都市の変異種スライムがいかに悪辣な手口を使っていたかを改めて理解する。
レオンハードさんはあえて討伐の凄惨な様子は避けて話していたようだが、その表情には、やはり割り切れない悔恨の念が滲んでいた。
レオンハードさんが少し考え込んだ後、ギデオンさんに向かって慎重に口を開いた。
「……やはり、一連の変異種騒動は極めて作為的なものと考えます。しかも敵は、各都市に明確な『狙い』をつけている」
レオンハードさんは、卓上で組んだ手に力を込めながら続ける。
「突出した戦力を有さない東都市には『物量』による制圧を。仲間意識の強い西都市には『人質』を。そして、ブランディングに力をいれている南都市には『公開処刑』を。これほど各都市の弱点を的確に突くような事件が、偶然で片付くはずがありません。敵は人間社会の構造に深く精通していると考えるべきですが……一体どうやって、モンスターをそこまで統率しているのか……」
人間社会に精通している? 人類側に、敵の協力者がいるということか?
一体なんの目的で?
「これが作為的なものであれば、次に狙われるのは東か、あるいは北の可能性が高そうです。どうかお気をつけて」
「待ってください。先ほどの説明だと、東都市の作戦は『すでに失敗している』のでは……?」
俺は、ふと疑問に思ったことを投げかけた。
「ええ。敵にとって、ツバキ殿が全くの『イレギュラー』だったということです」
レオンハードさんが、鋭い視線をこちらに向ける。
「我々が把握しているだけでも、彼女はすでに三度も敵の決定的な攻撃を防いでいるのです。敵も馬鹿ではない。次は、最大の障害であるツバキ殿へ直接狙いをつけた仕掛けをしてくるかもしれません」
ツバキが、狙われる……。
いつの間にか、あの規格外の少女は、四都市を巻き込むとんでもない巨大な事件の中心に足を踏み入れてしまっていたらしい。
(俺が、あいつの役に立てること……)
俺は自分の拳をギュッと握り直した。
◆◆◆
会議が一段落し、休息をとることになった。
俺は意を決して、席を立ったボウマンさんに声をかけた。
「あの、ボウマンさん。盾職の技術について学ぶのに、何かよい教材や教本などがあれば教えてほしいのですが……」
ギルドの構造改革で役に立つことも重要だが、ツバキの横に立つと決めた以上、俺もあいつと一緒に最前線の戦場へ行かなければならない。
守備の技術を高めれば、いざという時にあいつを守る手助けになるかもしれない。
俺の問いに対し、ボウマンさんがやや俯き加減で答える。
「……盾職というのはそもそ目のなり手が少なく、その技術のほとんどは限られた師弟間の『口伝』でしか受け継がれないのです」
なるほど、なかなか閉鎖的で希少な技術なのだな。
希少な魔法使いや盾使いをバランス良く揃えているレオンハードさんのパーティは、やはりとんでもないエリートの集まりなのだと改めて実感する。
「しかし……ッ!」
ガバッ! とボウマンさんが勢いよく顔を上げ、俺の両肩をガシッと力強く掴んだ。
「貴方は運がいい! 他でもないこの私が、盾使いとしての神髄を直接伝授致しましょう!!」
「うおっ!?」
あまりの熱量と至近距離の眼力に圧されるが、Aランクの一流冒険者から直接指導を受けられるなんて、こんなにありがたいことはない。
「ぜ、ぜひお願いします! ご指導は、今日の会議が終わった後にでもつけて頂けるのでしょうか?」
チラリと視線をやると、レオンハードさんが額に手を当てて『しまった』という顔をしている。
だが、ボウマンさんは勢いよく首を横に振った。
「私にも滞在期間というものがあります。時間が惜しいので、今からすぐにやりましょう! レオンハードさん、会議の続きはお任せしますね!」
「えっ? いや、ボウマンさん!?」
そう言うが早いか、ボウマンさんは俺の肩をガッチリとホールドしたまま、ズンズンとロビーへ向かって歩き始めてしまった。
(ま、まぁ、俺が話せる一連の事件の話は全部したし、抜けても大丈夫……か?)
こうして、俺の意思とは無関係な凄まじいスピードで、Aランク冒険者・ボウマンさんによる地獄の『盾使い特訓』が幕を開けるのであった。




