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東の狂犬は、万年Eランクにしか懐かない  作者: 揚げ太郎
【第4章】紡がれる名前
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悪意の輪郭

   ――レオンハード視点――

 あの後、ギデオン・ギルド長とトビー殿に宿屋まで送ってもらい、そこで解散となった。

 道中、ボウマンがトビー殿に対して「盾職がいかに魅力的か」について熱く語り続けていた。いつもの悪い癖が出たようだ。

 ツバキ殿は現在、南都市で『東都市との友好都市シンボル』としてのクエストを行っており、最終日の会議にしか出席できないらしい。

 それを聞いたセリアは、心底ホッとしたような表情をしていた。かくいう私も、きっと彼女と同じような顔をしていただろう。

 翌日。

 東都市ギルドに到着すると、ロビーの片隅で何やら熱心に書き物をしているトビー殿を見かけた。

「おはようございます、トビー殿。朝から精が出ますね。一体なにを?」

 声をかけると、トビー殿がパッと書き物を中断して挨拶をしてくれた。

(しまった、邪魔をしてしまったか……)

「いや、ちょっと薬草採取の注意点やら、効率的なポイントを紙に書き出していまして」

 なんでそんなことを? という私の疑問が、あからさまに表情に出ていたようだ。

 トビー殿が苦笑しながら説明してくれる。

「俺、Eランクの仕事を無駄に長いことやってるもので、普通のEランクよりちょっとだけ仕事の手際がいいみたいなんです。まぁ、周りは素人の新人ばかりなので当たり前なんですけど……。それで、自分のように『ちょっと出来のいい仕事』ができる人間を増やせたら、ギルドにとって意味があるかな? って、やり方を模索してるんですよ」

 Eランクの仕事の意義。……恥ずかしながら、今まで考えたこともない視点だった。

 私は、脅威となる強力なモンスターの討伐等で、都市の平穏を守っているという強い自負がある。

 しかし、街のインフラや人々の日常を下支えするクエストも、社会において絶対に欠かせない仕事だ。その水準が底上げされれば、それは確かに都市への多大な貢献となる。

「……トビー殿は、非常に視野の広い方なのだな」

 私が感心してこぼすと、彼は照れくさそうに頭を掻いた。

「まさか。こんなに長くEランクに居座ってる物好きが、俺しかいないってだけですよ。……すいません、今日は変異種騒動の情報共有でしたよね。ギデオンさんのいるギルド長室で行いましょうか」

 その後、ギデオン・ギルド長を交え、ギルド長室で変異種についての本格的な情報共有が行われた。

 トビー殿からは、東都市を襲った『変異種オークキング』と、南都市に現れた『シャドー』と名乗る人型のモンスターについての詳細な報告を受けた。

 私からは、西都市で遭遇した『変異種スライム』について共有したが……ツバキ殿がどのように討伐したのかについては、感情的になってしまうことを恐れて意図的に伏せて語った。

 それにしても、南都市のトップランカーであるゾラン殿が一方的に敗北したなど、最初は到底信じられなかった。

 だが、トビー殿から当時の状況を聞き、私は戦慄と共に一つの理解に至った。

 ゾラン殿は、自らの本領を発揮できないシチュエーションへと『意図的に』嵌められたのだ。

 その考えに至った瞬間、背筋にゾクリと悪寒が走った。

(……まさか。あの時、私もそれを狙われたのか?)

 敵は、各都市のトップ冒険者の性質や弱点を、あまりにも正確に把握している。

 だとしたら、あの西都市の合同クエストで、罪のない村人やゾーイ達があんな惨劇に巻き込まれたのは……私の『戦士としての矜持』を逆手に取るためだったのではないか。

 知性を持った変異種の、底知れない純然たる悪意。

 それに思い至った私は、ただ深く寒気を覚えることしかできなかった。

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