南都市への用事
レオンハードさん達が東都市へ到着する、数日前のこと。
ギデオンさんから、今回の西都市の使者が『レオンハード』という人物だと聞いた途端、隣にいたツバキの表情がスッと暗く沈んだのを感じた。
「……どうしても、あのピカピカ男に会わなければ駄目か? アタシは、あんまり会いたくないぞ……」
ツバキが目を伏せながら、ポツリとギデオンさんに問う。
「……そうだな。何日か滞在するみたいだから、一日だけでも顔を出してほしいんだが……」
ギデオンさんが、困ったように頭を掻きながら答えた。
以前のツバキなら、『絶対に会わない!』と即座に敵意を剥き出しにして拒絶していただろう。
それが今では、『会いたくない』と自分の感情をきちんと言葉で表現できるようになった。
それは、ツバキなりの大きな進歩なのだろう。
だからこそ、困ったように目を伏せる彼女が、ちょっと可哀想に思えてしまった。
「ギデオンさん。ツバキは最終日の顔合わせだけの出席とかでは駄目ですか? 他の日の情報共有は、俺が責任を持って対応しますよ」
「ん?」
俺の提案に、ギデオンさんが片眉を上げてこちらを見た。
「まぁ、トビーも一連の変異種騒動の現場には居合わせているからな。情報源としての体裁は十分に保たれるか……」
ギデオンさんがブツブツと妥協点を探り始めたのを見て、俺はツバキの方を振り返った。
「ツバキ。この前、ルミオン・ギルド長から言われた南都市での『友好都市のシンボル』としての仕事があっただろ? あれ、ちょうどいいからこのタイミングで行ってこいよ」
「え?」
ツバキが、不思議そうに俺を見上げる。
南都市のルミオン・ギルド長からは、「急ぎではないが、タイミングを見て時間を作って欲しい」と、ツバキへ広告塔のような仕事の依頼が来ていたのだ。
「南都市にいれば、向こうと鉢合わせることもないだろう。でも……最後の一日だけは、なんとか我慢して頑張れるか?」
俺の意図を察したツバキが、パァッと顔を輝かせてウンウンと激しく頷いた。
「そうだった! 髭のおっさん! アタシ、南都市に呼ばれてる大事な用事があるんだ! 最終日にはちゃんと帰ってくるから、しばらくよろしくな!」
ギデオンさんの了承を聞くまでもなく、ツバキは弾かれたようにギルドのロビーを駆けていってしまった。
「……随分と、甘やかすようになったこと」
カウンターの奥から、一部始終を見ていたクロエに呆れたように茶化されてしまう。
「まぁ、苦手をフォローするのがパーティだからな」
俺は気恥ずかしさから、そんな建前で誤魔化した。
あの西都市のトップであるレオンハードさんが一体どんな人なのか、俺には直接の面識はない。
だが、ツバキがそこまで苦手だと言うのなら、彼女が戻ってくるまでの間は、俺がしっかりと対応出来るよう励むとしよう。




