「正解」なき旅路
――レオンハード視点――
「東都市への使者を、私達のパーティが……ですか」
私は、ガッティ・ギルド長からの直々の依頼に思わず顔をしかめてしまった。
最近の変異種の頻発は確かに異常だ。
しかも東、西、南と順に襲撃されており、そこには明確な悪意と作為的なものを感じる。
そのための情報共有として、最も多く変異種と交戦している冒険者に直接話を聞きに行くという意図も理解できる。
問題は――その冒険者が、他でもない『ツバキ殿』であるということだ。
「私は以前の合同クエストで、ツバキ殿に対して激しい拒絶の意思を示しております。私が行ったところで……」
『きっと彼女は話を聞き入れてくれない』。そう続けようとした言葉を、ガッティ・ギルド長が冷たく遮った。
「この西都市で、一番の脅威と最前線で相対しているパーティはどこだと思っている? その未曾有の脅威についての情報を、人づてで済ませるつもりか?」
眼鏡の奥から、射抜くような鋭い視線で睨みつけられる。
「合同クエストの件は前にも伝えたが、私からツバキ君へ公式な謝罪も入れている。組織のトップに頭を下げさせたのだ。……今さら、その個人的な確執を蒸し返すなよ」
有無を言わせないという強固な意思が、言葉の節々に氷のように冷たく散りばめられていた。
「……分かりました。準備ができ次第、東都市に向かいます」
私には、ただ承諾する以外の道は残されていなかった。
◆◆◆
準備が整い、私はボウマン、セリアと共に馬車で東都市へと向かっていた。
車内は重苦しい沈黙に包まれており、二人も心なしかひどく緊張している様子だ。
「……ねぇ、レオン? 私、あの子にどう接したらいいか分からないわ。あの子が私達を助けてくれたのは事実だけど、あんなに残酷なことを平気で……」
変異種スライムとの凄惨な戦いを思い出したのか、セリアが青ざめた顔で口元を覆った。
私はセリアの震える背中を優しく擦りながら、静かに声をかける。
「無理はしなくていい。主なやりとりは、全て私が行う。それに、あの日のツバキ殿の選択は決して間違いではなかった……そう思うしかないんだ」
間違いではなかった。でも、あれが『正解』だったとはどうしても思えない。
では、あの絶望的な状況下での真の正解とは一体なんだったのか?
いくら自問自答を繰り返しても、私の中に明確な答えは出ないままだった。
「……果たして、あの子とまともに情報共有なんて出来るんですかね?」
ボウマンが窓の外を眺めながら、ひどく投げやりな口調で呟く。誰に問う訳でもない、彼自身の不安の吐露だった。
「変異種の脅威が増していることは紛れもない事実だ。今回の遠征で、何としても成果は得なければならない」
私は自分自身に言い聞かせるように呟いた。
重い車輪の音を響かせながら、馬車は避けられない因縁の待つ東都市へと、着実に近づいていくのであった。




