プロフェッショナルなEランク
「Eランクの依頼は、草むしりやドブ浚い、荷物運びみたいな雑用ばかり。単価も安いから、基本的には『新人のチュートリアル』としてしか機能していないの。才能のある子はすぐに実戦をこなしてDランク、Cランクへと上がっていくし、才能がないと悟った子は、稼げないから早々にギルドを辞めていくわ」
「……つまり、Eランクは常に『素人の新人』しかいない状態ってことか」
「その通り。新人がやる仕事だから、どうしても質が低くて手際も悪い。だから依頼主も高い報酬を出したがらないし、結果的にただの安い労働力になっちゃってるのよ」
クロエの解説を聞き、俺はふと疑問に思った。
「……待てよ。俺はそんなに懐が潤ってる訳じゃないが、人並みに生活できるくらいにはギルドから報奨を貰えてると思うが?」
「トビーはベテランだから、同じEランクの仕事でも質が違うのよ」
クロエが呆れたように、けれど少し誇らしげに答える。
「トビーにお願いしたいっていう依頼者もそこそこいるの。指名クエストも何度か受けていると思うけど、普通、Eランクの仕事に指名なんて絶対に入らないんだからね?」
「……あの指名クエストって、そんな珍しいものだったのか」
俺は驚いて目を瞬かせた。
そういえば、あれはどういう経緯で俺に回ってきていたんだ? 一度仕事を受けた相手からのリピートなら分かるが、初対面の依頼主から指名されることもあったはずだ。
「評判を聞いての依頼だったり、依頼内容を見て、私やギデオンさんが『トビーなら間違いない』って推薦したり……ってキッカケが多いわね」
ギルドからの推薦……。
ギデオンさんにも、クロエにも、本当に俺はいろいろと気にかけて貰っていたんだと改めて痛感する。
ただ彼らの厚意を享受するだけじゃなくて、そろそろ本気でギルドに報いることを考えないとな。
常に素人しかいない階級。
質の低い仕事。
上がらない報酬。
頭の中でバラバラだった課題が繋がり、俺が役に立てることの『輪郭』が、うっすらと見えた気がした。
「ありがとう、クロエ。俺が出来ることを、ちょっと本格的に模索してみるよ」
「何かの役に立てたかは分からないけど、応援してるわ」
クロエがふわりと微笑み、受付カウンターへと戻っていく。
「退屈だったろ?」
俺は、隣に座って黙って話を聞いていたツバキに声をかけた。
「よく分かんない話だったけど、おっさんが上を目指そうとしてることは分かったぞ!」
ツバキはそう言って、嬉しそうに無邪気に笑うのだった。
――そんな話をしている中。
クロエと入れ替わるようにして、ギデオンさんが足早にロビーへやってきた。
「トビー、それにツバキ……。少し、時間はいいか?」
「ギデオンさん。どうしたんですか、そんな難しい顔をして」
ギデオンさんはひどく言いづらそうに、深く息を吐いた。
「最近の変異種騒動の頻発を受けて、都市間で直接の情報共有を行うことになってな。近々、西都市から公式の使者が来ることになったんだ」
「西都市……」
ツバキがピクリと反応し、苦虫を噛み潰したような険しい表情になる。
それを見て、ギデオンさんは更に気まずそうに目を逸らし、決定的な一言を放った。
「あぁ。その使者としてやってくるのが……どうやら、レオンハードのパーティらしい」




