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東の狂犬は、万年Eランクにしか懐かない  作者: 揚げ太郎
【第1章】狂犬との出会い
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覚めはじめる夢

模擬戦を終えたツバキを、周囲の冒険者たちは遠巻きに見ていた。

俺は先ほどの非礼を詫びなければと思い、ツバキへ声をかけた。

「えっと……ツバキさん。Aランク認定おめでとう。それと、さっきは掴みかかっちゃって悪かったね」

「おぉ! ありがとう! さっきってなにが?」

「い、いや、だから急に掴みかかろうとしたことを……」

ツバキはキョトンとした顔をしたかと思えば、ケラケラと快活に笑って言った。

「ああ、なんだそんなことか! 全然構わないぞ! おっさんぐらいならアタシの脅威にならないしな!」

悪気ゼロの満面の笑みに、俺はただ引きつった苦笑いを浮かべるしかなかった。

これ以上話していても俺が惨めになるだけだ。そそくさとその場を離れようとしたが、ギデオンさんに呼び止められた。

「トビー、済まないんだが、明日にでもツバキの家探しを手伝ってくれないか?」

「えっと……なんで俺が……?」

「ツバキと少し話したんだが、書類や手続きの類が一切分からんらしい。かと言って、特例とはいえAランクが家無しで野宿というのではギルドのカッコがつかん。いつものことで悪いんだが、新人の面倒をみると思って頼まれてくれ」

ギデオンさんには、普段から報酬に色をつけてもらうなど、いろいろと俺のことを気にかけてもらっている。その頼みを無下にすることはできない。

あまりツバキには関わりたくないのが本音だが、仕方ない。

「……分かりましたよ、ギデオンさん。明日、ツバキを連れて家の仲介所を回ってみます」

「そうか! 助かるぞトビー。ツバキには今夜はギルドの空き部屋に泊まってもらうから、明日の適当な時間に迎えに来てやってくれ」

ギデオンさんに約束をし、俺は帰路についた。

安アパートのベッドに横になり、今日のダルタンさんとツバキの模擬戦を思い返す。

ダルタンさんの強さを身をもって知っていただけに、あれほどの圧倒的な差があることに底知れぬ恐怖すら覚えた。

あのような化物じみた強さを持つ者こそが『Aランク』。自分とは生きている世界が違う、遥か遠い存在であることを改めて突きつけられた夜だった。

翌日。

ツバキを迎えにギルドへ向かう途中、大荷物を背負ったダルタンさんと鉢合わせた。

「ダルタンさん、おはようございます! 凄い荷物ですね。遠征クエストかなにかですか?」

俺が明るく声をかけると、ダルタンさんは重い足取りを止め、俯き加減のまま疲れきった声で答えた。

「……冒険者、辞めるんだよ。さっきギルドにも引退届を出してきた」

「そんな。なんでまた急に……」

「昨日の模擬戦、見ただろ? 俺が今まで何十年もやってきた血を吐くような鍛錬なんぞ……あんな本物の前じゃ、まったくの無意味だったと痛感したよ」

『今までのことが無意味』。

その言葉は、万年Eランクとして足掻き続けてきた俺自身への否定にも聞こえて、どうしても認めることができなかった。

「そんなことないですよ! ダルタンさんは、Bランクまで上り詰めた本物の戦士じゃないですか! まだ諦めることなんてないですよ!」

「……諦めることない……?」

ずっと伏せられていたダルタンさんの視線が上がり、俺の目とぶつかった。

その瞳には、色濃い絶望と、ドロドロとした暗い怒りが渦巻いていた。

「そうですよ! まだこれから――」

「舐めた口をきくなよ! 万年Eランクが!!」

突如、ダルタンさんに胸ぐらを力任せに掴まれ、ギリッと凄まれた。

「諦めるな、だと? お前、昨日の圧倒的な差を見て、努力で埋まる差だと本気で思ってんのか!? そんな能天気だから、才能もないのに万年Eランクで平気な面してられるんだろうよ!」

ドンッ、と荒々しく突き飛ばされ、俺は無様な尻餅をついた。

地面に倒れ込んだ俺を冷たく見下ろすその顔は、昨日まで優しく声をかけてくれていた気さくな先輩冒険者のものではなかった。ただ、己の才能の限界に絶望し、八つ当たりをする哀れな男の顔だった。

「なぁ、トビー。お前はいつまで夢をみるつもりだ? 才能のないお前が、ギルドに所属している意味なんてないぞ」

そう吐き捨て、ダルタンさんは倒れた俺を一瞥することもなく、横を通り過ぎていく。

俺は、昨日ツバキに投げ飛ばされた時と同じように――またしても、何も言い返すことができなかった。

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