一瞬の決着、規格外のAランク
ダルタンさんの戦いが見られるとあって、訓練場には大勢のギャラリーが押しかけていた。
「ねぇ。あの女の子、そんなに強いの?」
いつの間にか隣に来ていたクロエが、物珍しそうにツバキを見ながら尋ねてきた。
「いや……俺は一瞬で投げ飛ばされたから、よく分からないんだ……」
「投げ飛ばされた? なんでまた?」
「いや……それは、その……」
理由を言い淀む俺に、クロエはすっと冷めた目を向けた。
「うっわ。トビー、そういう趣味? 怖っ!」
そう言い残すと、クロエは俺から距離を置くように、そそくさと別の場所へ移動してしまった。
完全な誤解だが、弁明すればもっと情けない話になるため、黙って項垂れることしかできなかった。
訓練場の中央では、木刀を手にしたダルタンさんとツバキが距離を取って向かい合っている。
ギデオンさんが見届け人として進み出ると、場内が水を打ったように静まり返り、ピンと張り詰めた緊張感に包まれた。
「これより、新人冒険者ツバキのランク査定を目的とした模擬戦を始める。両者構えて……」
ダルタンさんが鋭い呼気と共に木刀を正眼に構える。一方のツバキは、だらりと木刀を下げたまま欠伸を噛み殺していた。
「始め!!」
ギデオンさんが開始を宣言した、その刹那――決着は着いていた。
「なっ! な……」
誰も、何が起きたのか視認できなかった。気がつけば、踏み込んだツバキの木刀が、ダルタンさんの首筋の横でピタリと寸止めされていたのだ。
「よし! 一本! これでいいか?」
驚愕に目を見開いて固まるダルタンさんをよそに、ツバキはさっさと木刀を下ろして終了を宣言する。見届け人であるはずのギデオンさんも、口をあんぐりと開けたまま硬直していた。
「不意打ちなどが認められるかぁ!!」
屈辱で顔を真っ赤にしたダルタンさんの怒号が、訓練場に響き渡る。
「不意打ち? がら空きだったから突いただけだぞ?」
しかし、ツバキは心底不思議そうに首を傾げた。
「黙れ!! もう一度勝負だ!! 構えろ!!」
「えー? これ以上やる意味ないぞ」
ダルタンさんは、ツバキが構え直すよりも早く猛然と突進し、全体重を乗せた木刀を振り下ろした。
「傷のおっさんの方が、よっぽど不意打ちじゃないか」
だが、ツバキはその凶刃を片手で軽く受け止めながら、うんざりしたように吐き捨てた。
そこからの光景は、もはや模擬戦などと呼べるものではなかった。ただの『稽古』だ。
それも、歴戦の戦士であるダルタンさんが、新人冒険者であるツバキに一方的に「稽古をつけてもらっている」という異様な構図。
やがて、ダルタンさんが大きく息を切らしながら、ついに膝から崩れ落ちた。
「もう終わりか? 根性もないな」
ツバキは息一つ乱さず、涼しい顔で這いつくばるダルタンさんを見下ろしている。
ギャラリーたちは皆、信じられないものを見るような目で唖然としていた。無論、俺も同じだ。
「ヒゲのおっさん! もう終わりでいいだろう? 私のランクはどれくらいだ?」
ツバキが無邪気に、ギルド長であるギデオンさんに向かって問いかける。呆然としていたギデオンさんは、乾いた喉から絞り出すように答えた。
「……特例だ。Aランクとする……」
「おお! なんか凄そうだな! やった!」
査定結果を聞いて、ツバキは一人ぴょんぴょんと飛び跳ねて無邪気に喜んでいる。
だが、彼女の規格外の強さと残酷なまでの才能の差を叩きつけられた訓練場は、ただただ静まり返るばかりだった。




