強者以外、名前を覚える必要なし?
ツバキに投げ飛ばされた俺は、恥ずかしさと背中へのダメージで頭がいっぱいになっていた。
「おい! 大丈夫か! トビー!」
ダルタンさんに手を貸してもらい、なんとか起き上がるが、上手く言葉が出ない。
「手加減はしたんだけど、痛かったか?」
ツバキの悪気のない追い打ちに、俺は何も言い返せなかった。
ダルタンさんが、大きくため息をつく。
「トビー、とりあえずギルドへ戻るぞ。ツバキだったか? ギルドに連れて行ってやる。お前もついてこい」
ギルドへ到着する頃には頭も冷静になってきたが、自分より年下の少女に軽く投げ飛ばされたという事実は、そう簡単に受け入れられるものではなかった。
ギルドへ戻ると、ダルタンさんはツバキに登録の仕方を教えてやると言い、受付へと連れていく。そして、気怠そうな雰囲気を纏う、細長い切れ目の受付嬢クロエに声をかけた。
「クロエ。極東の国から冒険者志望の新人が来た。ギデオンに繋いで欲しい。」
「ギルド長に? 突然どうしたの?」
クロエが目を丸くしてダルタンさんに尋ねる。
「俺の戦士としての勘だが、こいつ結構強いぜ。Eランクから始めさせるのは勿体ない。俺が模擬戦の相手をするから、ランク見極めをギデオンにお願いしたい。」
クロエは胡散臭いものを見るような目でツバキを見た。
「この娘が?? 本当に??」
「いいからギデオンを呼んでくれ! 模擬戦をやれば分かる!」
言い切るダルタンに圧され、クロエはギデオンさんへ取り次ぐために奥の部屋へと消えていった。
ダルタンさんは、さっき俺を投げ飛ばしたツバキを見て、そこまで高く評価しているのか。
「おお! 傷のおっさん! 気を利かせてくれたんだな! ありがとうな!」
ツバキはダルタンさんが便宜を図ってくれたとなんとなく理解したようで、朗らかにお礼を述べる。
「さっきも自己紹介したが、おっさんではなくダルタンだ」
「うーん、強い奴の名前は覚えられるんだけどなぁ。傷のおっさんはそこまででもなさそうなんだよなぁ。」
ツバキの一言に、ギルド内の空気が凍りついた。
思わず俺が口を挟む。
「お、おい! このダルタンさんは、この東都市で最強格と呼ばれてる戦士だぞ!」
俺の言葉を聞いて、ツバキはケラケラと笑い出した。
「最強格!? 傷のおっさんが!? 冗談だろ!!」
ツバキを見る周囲の冒険者たちの目も、険しく鋭いものになっていくのを感じる。
一触即発の空気だったが、そこへ東都市のギルド長・ギデオンさんが現れた。
「ダルタン、優秀そうな新人が来たそうだな。模擬戦によるランク査定とのことだが……まさか、その少女が?」
ダルタンは肯定するように深く頷き、受付の脇にあった木刀を二振り手に取ると、稽古場へと歩き始めた。
「ツバキ。本物の戦士がどれほど強いか、俺が教えてやる。」
「おー、よく分からないが、よろしくなぁ。」
ピリつくダルタンさんとは対照的に、呑気に後をついていくツバキ。
こうして、ツバキの規格外な実力を知らしめる模擬戦が幕を開けるのであった。




