不向きな夢を、いつまで見るのか
ダルタンさんに突きつけられた残酷な言葉が、呪いのように頭の中でぐるぐると反芻していた。
それでも、ギデオンさんに頼まれた仕事はこなさなくてはならない。重い足取りでギルドへ向かうと、入り口で待っていたツバキがパッと顔を輝かせた。
「おー! おっさんおはよう! なんかアタシの家探しを手伝ってくれんだろ? よろしくな!」
ニコニコと無邪気に手を振るツバキ。
(……この悪意のない笑顔で、こいつは幾多の人の心をへし折ってきたのだろうな)
そんなことを思いながら、ツバキと関わるのもこれが最後だと自分に言い聞かせ、俺は彼女を不動産の仲介所へと案内し始めた。
「ツバキさんは、家の条件とか、なにか拘りとかある?」
道中、どんな家を探すか確認しようと声をかけると、ツバキは露骨に嫌そうな顔をした。
「おっさんに『さん付け』で呼ばれるとムズムズするから、呼び捨てでいいぞ! おっさん、アタシより年上だろ?」
「まぁ、そうだけど。ランク差もあるし……」
「さん付けで呼びながら、敬語は使わないんだろ? 中途半端なんだよ、おっさんは」
またしても痛いところを突かれ、俺はムッとして口をつぐむ。
「……わかったよ。それで、家の条件は?」
さっさとギデオンさんの依頼を終わらせよう。そう割り切って、再び条件を尋ねる。
「そうだなぁ。鍛錬の出来る庭が欲しいな! あと、技を盗み見される心配がない『高い囲い』があるといいぞ!」
幸い、それほど難しい条件ではなかった。仲介所へ出向き、希望条件とギルドから預かっている予算を伝えると、トントン拍子で話は進み、早々にツバキの居住地を決めることができた。
「ありがとうな! おっさん! 戦いはからっきしだけど、こういう仕事は得意なのか?」
新居の鍵を受け取りながら、ツバキが屈託のない笑顔で言った。
(……こいつは本当に、人の気を逆撫でするのが上手いな)
だが、ここで怒ってはいけない。弱い犬が吠えるようで、余計に惨めになるだけだ。
「まぁね。結構、新人のフォローとかも長年やってきたから」
「へー! そうなんだ! だったら冒険者なんかやめて、ギルド職員とかになったらいいのにな!」
――なれるものなら、とうの昔になっている。
だが、強さ至上主義のこのランク制度において、ギルドの正規職員になるには『Cランク以上』の実績が絶対条件なのだ。気怠そうに受付に座っているあのクロエだって、ああ見えてCランクのライセンスを持っている実力者だ。
「……向き不向きがあるんだよ」
自嘲気味に返す俺に、ツバキは明るくカラカラと笑って、決定的な一撃を放った。
「おっさんは、冒険者が一番不向きなのにな!」
悪意は一切ない。純粋な感想だ。
だからこそ、タチが悪く、深く胸に突き刺さる。
その日の夜。
俺は借家の硬いベッドの上で、ダルタンさんとツバキに言われた言葉がどうしても忘れられず、眠れずにいた。
(冒険者に向いてないことくらい、俺だってずっと前から分かっている……)
でも、現実的な金の問題を考えたら、万年Eランクと周囲からバカにされようが、冒険者を続けていた方が稼ぎがいいんだ。
もう、30歳を越えている。今さら冒険者を辞めて、一体どこへ行けと言うんだ。
(ギデオンさんやクロエも……本当は、俺のこと邪魔だと思ってるのかな……)
暗い部屋の中では、思考はどこまでも良くない方向へ、泥沼のように沈んでいった。
翌朝。
寝不足で重い頭を抱えながらギルドの扉を開けると、フロアの奥から、クロエとツバキが激しく言い争う声が聞こえてきた。




