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東の狂犬は、万年Eランクにしか懐かない  作者: 揚げ太郎
【第1章】狂犬との出会い
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不向きな夢を、いつまで見るのか

ダルタンさんに突きつけられた残酷な言葉が、呪いのように頭の中でぐるぐると反芻していた。

それでも、ギデオンさんに頼まれた仕事はこなさなくてはならない。重い足取りでギルドへ向かうと、入り口で待っていたツバキがパッと顔を輝かせた。

「おー! おっさんおはよう! なんかアタシの家探しを手伝ってくれんだろ? よろしくな!」

ニコニコと無邪気に手を振るツバキ。

(……この悪意のない笑顔で、こいつは幾多の人の心をへし折ってきたのだろうな)

そんなことを思いながら、ツバキと関わるのもこれが最後だと自分に言い聞かせ、俺は彼女を不動産の仲介所へと案内し始めた。

「ツバキさんは、家の条件とか、なにか拘りとかある?」

道中、どんな家を探すか確認しようと声をかけると、ツバキは露骨に嫌そうな顔をした。

「おっさんに『さん付け』で呼ばれるとムズムズするから、呼び捨てでいいぞ! おっさん、アタシより年上だろ?」

「まぁ、そうだけど。ランク差もあるし……」

「さん付けで呼びながら、敬語は使わないんだろ? 中途半端なんだよ、おっさんは」

またしても痛いところを突かれ、俺はムッとして口をつぐむ。

「……わかったよ。それで、家の条件は?」

さっさとギデオンさんの依頼を終わらせよう。そう割り切って、再び条件を尋ねる。

「そうだなぁ。鍛錬の出来る庭が欲しいな! あと、技を盗み見される心配がない『高い囲い』があるといいぞ!」

幸い、それほど難しい条件ではなかった。仲介所へ出向き、希望条件とギルドから預かっている予算を伝えると、トントン拍子で話は進み、早々にツバキの居住地を決めることができた。

「ありがとうな! おっさん! 戦いはからっきしだけど、こういう仕事は得意なのか?」

新居の鍵を受け取りながら、ツバキが屈託のない笑顔で言った。

(……こいつは本当に、人の気を逆撫でするのが上手いな)

だが、ここで怒ってはいけない。弱い犬が吠えるようで、余計に惨めになるだけだ。

「まぁね。結構、新人のフォローとかも長年やってきたから」

「へー! そうなんだ! だったら冒険者なんかやめて、ギルド職員とかになったらいいのにな!」

――なれるものなら、とうの昔になっている。

だが、強さ至上主義のこのランク制度において、ギルドの正規職員になるには『Cランク以上』の実績が絶対条件なのだ。気怠そうに受付に座っているあのクロエだって、ああ見えてCランクのライセンスを持っている実力者だ。

「……向き不向きがあるんだよ」

自嘲気味に返す俺に、ツバキは明るくカラカラと笑って、決定的な一撃を放った。

「おっさんは、冒険者が一番不向きなのにな!」

悪意は一切ない。純粋な感想だ。

だからこそ、タチが悪く、深く胸に突き刺さる。

その日の夜。

俺は借家の硬いベッドの上で、ダルタンさんとツバキに言われた言葉がどうしても忘れられず、眠れずにいた。

(冒険者に向いてないことくらい、俺だってずっと前から分かっている……)

でも、現実的な金の問題を考えたら、万年Eランクと周囲からバカにされようが、冒険者を続けていた方が稼ぎがいいんだ。

もう、30歳を越えている。今さら冒険者を辞めて、一体どこへ行けと言うんだ。

(ギデオンさんやクロエも……本当は、俺のこと邪魔だと思ってるのかな……)

暗い部屋の中では、思考はどこまでも良くない方向へ、泥沼のように沈んでいった。

翌朝。

寝不足で重い頭を抱えながらギルドの扉を開けると、フロアの奥から、クロエとツバキが激しく言い争う声が聞こえてきた。

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