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東の狂犬は、万年Eランクにしか懐かない  作者: 揚げ太郎
【第3章】その価値の決め方
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沈みゆく太陽、舞台上の公開処刑

   ――ゾラン視点――

 ギルド長に言われた通り、俺はあちこちで愛想を振りまきながら「東都市の特例Aランク冒険者との臨時パーティ」の可能性を匂わす発言をして回った。

 本当は、今こうして外を出歩くのは絶対に避けたかった。

 だが、あのルミオン・ギルド長の命令には逆らえない。

 最近、南都市の冒険者たちが無差別に精神攻撃を受けていると世間では騒がれているが……俺だけは、ある恐ろしい『関連性』に気がついていた。

 被害に遭っているのは無差別じゃない。

 俺と親しく交流のあったパーティが、俺と別れた直後に次々と襲われているのだ。

『次は、お前の番だ』。

 まるでそう言わんばかりの、明確な悪意と挑発。

 ギルドにも報告し、俺が狙われている可能性も共有したが、どうにもならない。

 なぜなら、この南都市には俺より強い冒険者がいないのだから。

 皆が「太陽のゾラン」を頼りにしてくれ、俺は必死にそれに応え続けた。

 皆が笑って、喜んでくれるのが心底嬉しかった。

 それなのに……俺のせいで周りの仲間がどんどん減らされ、削られていく。

 不安と恐怖で、夜も眠れなくなってしまった。

 怖くて、怖くて仕方がない。

 だが、この街には俺を守ってくれる存在など、どこにもいないのだ。

(ある程度、外堀は埋めた。東都市のAランクは頼みごとに弱い単純な性格だと聞く。きっと民衆の期待と、引くに引けない状況で依頼を受けてくれるはずだ……)

 そう一縷の望みを抱き、ギルドへ戻ろうと劇場の近くを歩いていた時だった。

「――随分と張り詰めた虚勢だね。他都市の冒険者に縋ろうだなんて」

 突如、背後から声が聞こえた。

 振り返ると、そこには影からヌルリと滲み出たような、漆黒の軽鎧に身を包んだ青年が立っていた。

 漆黒の髪、病的に青白い肌、そして光を一切反射しない漆黒の瞳。

「なっ、お前は……!?」

「こんにちは、ゾラン。――『太陽』を沈めにきたよ」

 言い終わるが早いか、青年が音もなく剣を抜き、襲いかかってきた。

「くそっ!」

 俺は背中のウォーハンマーを構え、攻撃を防ぐので精一杯だ。

 だが、こいつの重い一撃をいなす度に、なぜか心臓を直接鷲掴みにされたようなドス黒い恐怖心が異常に膨れ上がっていく。

 なんなんだ、こいつは!?

「ほらほら、どうしたんだい? 君がそうして無様に後ずさる度に、君を信じている皆が絶望していくよ?」

 青年は俺の太刀筋をあざ笑うかのように躱し、言葉の刃で俺の心を的確に抉ってくる。

 防戦一方で後退し続け、気づけば俺は、劇場の『舞台』の上まで誘導されていた。

「さて、ここからが本番だよ……。劇場にお集まりの皆様、はじめまして」

 青年は俺から距離を取ると、客席に集まってきた野次馬たちに向かって恭しく一礼をした。

「僕は、影の変異種。名前はありませんので、便宜上『シャドー』とでもお呼びください。彼のような偽物ではなく、純粋な悪意から造られた本物のモンスターです」

「モ、モンスターが……言葉を、話すだと……!?」

 俺の驚愕を無視し、シャドーは観衆に向かって優雅に両手を広げた。

「今日は皆様に、極上の余興を披露しにきました。演目は――『偽物の英雄』。どうぞ最後までお楽しみください」

 シャドーが、再び嘲笑うように襲いかかってくる。

 剣撃のスピードが、先ほどとは比べ物にならないほど上がっていく。

 一撃受けるごとに、そして観衆の悲鳴を聞くごとに、精神を削り取るような恐怖心がとめどなく膨張していく。

 腕が上がらない。足がすくむ。呼吸ができない。

(もう……耐えられない……ッ!!)

「も、もう……やめてくれぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 群衆の面前で、無様にハンマーを取り落とす。

 心が、完全にへし折れた音がした。

   ――ルミオン視点――

 ゾランが劇場で襲われていると報告を受けた私は、遠目から舞台の惨状を見下ろし、静かに扇子を広げた。

(……やれやれ。あんな一番目立つ舞台の上でやられるとはね)

 ゾランは期待外れだね。

 せっかくのポテンシャルを活かしきれず、見栄ばかりが先行した結果だ。

「ギルド長、いかが致しますか」

「……住民へ退避指示を。後は、あの『シャドー』と名乗る変異種の出方次第だね」

 南都市ギルドのブランド(価値)も、これで終わりだ。

 トップスターがあんな風に群衆の前で無様に命乞いをしたのだから、冒険者という存在そのものの威信が失墜した。

 ビジネスとして、どう損切りするかも考えないといけないね。

(さて、あそこで蹲っているゾランが討ち取られて終演かな? 私もさっさと安全圏へ避難しようか……)

 そう思い、踵を返そうとした、その時。

「……おや?」

 私の足が、ピタリと止まった。

 絶望に支配された劇場の舞台に、一つの影が乱入したのが見えた。

「……へぇ。君が、その舞台にあがるんだ」

 口角が、自然と吊り上がる。

 私は閉じた扇子でトントンと顎を叩きながら、再び舞台へと視線を戻した。

「もう少しだけ……観劇させてもらおうか」

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