不穏なギルド
冒険者たちの息があることは確認できたが、放っておける状態ではない。
幸い近くに診療所があるようだったので、彼らをそこへ運ぶことにした。
一度に四人は無理だ。
俺は一人ずつ肩を貸し、暗い路地裏から大通りへと連れ出すことにした。
だが、大通りの眩い陽光の下に出た瞬間、それまで無反応だった男が狂ったように暴れだした。
「やめてくれ! 光を……光を当てないでくれぇぇ!!」
男は俺を力任せに突き飛ばすと、逃げるように再び暗い路地裏へと戻ってしまった。
そしてまた壁際にうずくまり、生気のない瞳でブツブツと何かを呟き始める。
呪いか、それとも強力な精神攻撃でも受けたのか。
「……ツバキ。とりあえず、南都市のギルドに向かおう」
これは単なる急患ではない。
ギルドが動くべき管轄案件だと俺は判断した。
南都市のギルドは、他の都市とは一線を画している。
「冒険者のブランディング」に並々ならぬ力を入れており、所属する冒険者たちは皆、磨き上げられた装備に身を包んだスター気取りだ。
その華やかさに惹かれ、四都市で最多の冒険者数を誇っている。
建物も王宮を思わせるほど巨大で、行き交う職員の数も東都市とは比べ物にならない。
受付嬢へ、路地裏で異常な状態で倒れていた冒険者たちの件を報告すると、彼女は一瞬だけ困惑したような表情を見せた。
だが、すぐに仮面のような事務的な笑顔に切り替わる。
「報告ありがとうございます。連絡を受けた場所には、救助チームを派遣いたします」
「……他にも、同じような状態の冒険者がいるのか?」
「Eランク冒険者様にお教えできることはございません。ご協力ありがとうございました」
これは手厳しい。
まあ、他所の都市の事情だ。
深追いして余計なトラブルに首を突っ込むのも賢明ではないだろう。
「おっさーん、報告終わったかぁ? 終わったなら飯に行こうぜ、飯に!」
退屈そうに柱に寄りかかっていたツバキに声をかけられる。
すると、受付嬢の視線がツバキで止まり、その表情が劇的に変わった。
「あの……もしかして、東都市の『狂け』……いいえ、『特別戦力』のツバキ様でしょうか?」
「ん? アタシのことを知ってるのか?」
言いかけた「狂犬」という単語がひどく気になったが、ツバキの名も随分と広まっているらしい。
「その武勇、かねがね噂で伺っております! 実は、少し込み入ったお話をさせていただきたいのですが……」
受付嬢は、チラリと俺を冷ややかに一瞥した。
『役立たずのEランクは席を外せ』。その目が雄弁に物語っている。
俺は小さく溜息をつき、ツバキに向き直った。
「ツバキ。今日はここで解散だ。俺は宿に戻ってるから、話を聞いてきなさい」
「おいっ! 飯を奢る約束はどうしたんだ!?」
ガシッ、と。
ツバキに力任せに腕を掴まれ、引き留められる。
相変わらず、この子は空気を読むということができないらしい。
「そちらの受付嬢さんが、お前に相談があるみたいだよ?」
「なんでだ? アタシは今、休暇中だ。ギルドの依頼なんて関係ない。おっさんがアタシとの約束を守るのが先だ!」
変なところでスイッチが入ってしまった。
こうなると、ツバキはテコでも動かない。
困り果てた受付嬢が、助けを求めるように俺を見てオロオロしている。
「……分かったよ、飯に行こう。受付嬢さん、俺の相棒はああ言い出すと聞かない。何かあればここに」
ツバキと宿泊している場所の連絡先を書いて渡す。
「おっさん! はやく!」
ツバキに急かされて、ギルドを後にする。
せっかくの南都市での休暇だというのに、またしても面倒事に巻き込まれつつある。
嫌な予感だけは、ランク以上に冴え渡っていた。




