虚無を呟く冒険者
そんな経緯で、俺は貴重品の運搬という本来の仕事を早々に終わらせた後、ツバキの南都市観光に付き合わされるハメになったのだ。
最初のミッションは、クロエが事前に教えてくれた「おすすめの甘味屋」の場所を探すことだった。
地図を確認し、なんとか店まで案内する。
俺は店の外で待っていようとしたのだが、気付けばなし崩し的にツバキと一緒に長い列に並ばされ、そのまま華やかな店内へと入店することになってしまった。
甘味屋なんて、何年ぶりだろうか……。
席に座り、渡された上品なメニュー表を開く。
――そして、そっと閉じた。
(ま、まじか……!)
甘味ってこんなに高いのか!? こんな小さな菓子のセットが!?
冷や汗を流しながらチラリとツバキの様子を見ると、彼女はすでに頼みたいものが決まっているらしく、「この店は団子が美味しいらしいぞ〜」と満面の笑みでニコニコしている。
そうこうしている内に、店員がオーダーを聞きにやってきた。
「この団子セットを二つ! 飲み物はおっさんもお茶でいいよな?」
財布の中身の計算で頭がパンクしそうな俺をよそに、ツバキが勝手にオーダーを通してしまう。
どうする!?
「……っぷ! あははっ!」
俺が顔面蒼白で必死に考えていると、ツバキがお腹を抱えてケタケタと笑い出した。
「安心しろよおっさん。ここは『飯』じゃなくて『甘味』だから、アタシが払ってやるよ」
財布の余裕からくる、圧倒的な貫禄。
「これに懲りたら、二度とアタシ相手に調子に乗らないことだな!」
フンスと得意げに胸を張るツバキに、俺はもう平身低頭、ただただひれ伏すしかなかった。
本当にすいませんでした。
しかし、流石に年下の少女に奢られっぱなしでは、大人の男としていよいよ立つ瀬がない。
夕飯こそは約束通り俺が奢るぞと意気込み、昔、先輩冒険者に教えてもらった『路地裏にある安価で美味い店』を目指すことにした。
だが――。
「おっさん、ほんとにこんな暗いところに店なんてあるのか?」
南都市の華やかな大通りから一本外れると、そこは迷路のように入り組んだ裏路地だった。
俺はすっかり道を失い、迷子になっていた。
甘味屋での失態に続き、南都市にきてから本当にいいところがないな、俺……。
「すまん、完全に迷った。一旦大通りに出て、分かる道から探し直すわ」
そう言ってため息をつき、暗い路地の角を曲がった時のことだった。
――道が、塞がれていた。
そこにいたのは、重武装をした冒険者のパーティらしき4人組だった。
しかし、様子がおかしい。
彼らは皆、壁際や地面に力なくうずくまり、ブツブツと何かを呟き続けているのだ。
「あの、大丈夫ですか?」
俺は訝しげに近づき、しゃがみ込んで一人の男の肩を軽く揺すった。
グラリ、と。
まるで糸の切れた操り人形のように、その男はそのまま横にバタリと倒れ込んだ。
「なっ……!?」
倒れた男の目は、焦点が合っておらず、完全に生気を失っていた。
それなのに、開いた口だけは休むことなく、うわ言のようにブツブツと何かを呟き続けている。
煌びやかな南都市の、光の届かない路地裏。
東都市のオーク、西都市のスライムに続き、ここでもまた『異変』が起きている。
俺の背筋に、ぞくりと冷たい悪寒が走った。




