娯楽の都と、致命的な誤算
四都市の中で最も煌びやかな場所、南都市。
巨大な劇場がそびえ立ち、ギルドには有名冒険者が名を連ね、通りには流行の最先端をいく店が立ち並ぶ。
観光資源の豊富さにおいて、この街は別格である。
そんな華やかな喧騒の中。
ひときわ場違いな和服姿の少女が、目を輝かせながら周囲をキョロキョロと見回していた。
「うわぁ! すげぇ! 建物が全部でかいぞ! なぁ!おっさん! 受付の姉ちゃんが教えてくれた甘味屋はどこなんだ!?」
はしゃぐ少女の後ろを、俺はひどく重い足取りでトボトボとついていく。
俺の、夢と希望に満ちた貴重な休息日が……。
一体なぜこんなことになってしまったのか。
俺は、東都市ギルドでの出来事を思い返していた。
〜数日前〜
「おっ! 南都市への遠征クエストじゃん!」
俺はクエストボードで『掘り出し物』のクエストを発見し、上機嫌になっていた。
奇特な金持ちが貴重品の運搬などを依頼してくるこの仕事は、低ランクでも受けられる上に交通費まで出る。
そして何より素晴らしいのは、「宿泊費さえ自費で負担すれば、ついでに観光ができてしまう」という点だ!
しかも行き先は、あの娯楽の都・南都市!
これはもう、「南都市で存分に羽を伸ばしてこい」という天のお告げに違いない。
「ん? おっさん、今日はなんだか機嫌が良さそうだな?」
南都市でのバカンスに思いを馳せていると、ひょっこりとツバキに声をかけられた。
「よっ! ツバキ! 突然なんだが、俺は明日から遠征クエストに行くことになってな! しばらくは単独で仕事をしてくれ給え!」
「え!? なんでだよ! パーティで一緒に仕事を受けたらいいだろう!」
ウキウキで答える俺に、ツバキが不服そうに睨んでくる。
「それがな、この仕事は一名でしか受けられない限定クエストなんだよ」
「なんだそれ!」
「すまんな。南都市は美味いものも多いからな! お土産は買ってきてやるよ!」
ツバキがぐぬぬ、と唸り声を上げる。
俺は完全に勝ち誇った気分で追撃をかけた。
「どーしても南都市に来たいなら、自腹で観光客として来るんだな! そしたら、向こうでの飯ぐらいは俺が奢ってやるよ」
まぁ、無理だろう。
普段の雑用クエストの報酬だけで、他都市の宿代や遊び代をポンと捻出できるわけが……。
「……トビー、あんたアホね」
横でやりとりを聞いていたクロエから、氷のように冷ややかな目でツッコミを入れられた。
なんでだ?
「⋯⋯⋯受付の姉ちゃん! アタシの分の南都市までの馬車と、宿の手配を頼む!!」
「お、おい! 意地になって無理すんなって!」
「支払いは、ギルドに預けてある『特別報酬金』から差し引いといてくれ!」
……とくべつ、ほうしゅうきん?
「トビー、あんた忘れてるかもしれないけど……」
クロエが心底呆れたようにため息をつく。
「ツバキは特例Aランクよ。それに、変異種のオークキングとスライム、2回の単独討伐で目玉が飛び出るくらいの特別報酬が出てるのよ」
サァァァッと、俺の全身から血の気が引く音がした。
「南都市での食事代は奢ってくれる⋯⋯だったよな?」
見上げると、そこには獲物を追い詰めた肉食獣のような、凶悪極まりない笑みを浮かべるツバキの姿があった。




