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東の狂犬は、万年Eランクにしか懐かない  作者: 揚げ太郎
【第2章】バケモノと呼ばれた少女
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Sランクへの第一歩

ツバキたちが西都市から戻って、数週間が経った。

ツバキは相変わらずの様子で、文句を言いながらもコツコツと東都市の雑用や復興クエストをこなしている。

遠征後の大きな変化といえば、クロエのツバキに対する態度が劇的に軟化していることだろう。

この前なんて、ツバキがずっと行きたがっていた街の甘味屋へ、クロエがこっそり連れ出しているのを見かけた。何があったのかは深く聞かないでおくが、ツバキにとってこの街が少しずつ「居場所」になりつつあるようで、俺もなんだか嬉しかった。

そんなある日。

ギデオンさんが、突然ツバキをギルド長室へと呼び出した。

なんでも、西都市のガッティ・ギルド長からツバキ宛てに『書状』が届いたらしい。

それを聞いたツバキは、「またなんか言われるのか……」と分かりやすく顔をしかめていたが、渋々呼び出しに応じることにしたようだ。

……で、なぜ無関係の俺まで同席しているかというと。

『おっさんもアタシのパーティメンバーなんだから、同席しろよ!』

という、ツバキの強引な要望によるものであった。

ギルド長室に入ると、ギデオンさんが俺を見てやれやれと片眉を上げた。

「トビーも来たのか。……まぁ、問題ない」

そう言って、ギデオンさんは厳重に封がされた手紙を開き、重々しい声で内容を読み上げ始めた。

『――遠方からのクエスト参加に、心より感謝する。

まず初めに、我が西都市の冒険者たちの非礼を深く詫びたい。彼らの感情的な振る舞いについては、ギルド長としてレオンハードらにも厳しく注意を与えている。この件については、どうか水に流していただきたい』

ツバキは目をぱちくりさせながら、ギデオンさんが読み上げる言葉を聞いていた。

どうやら本当に、また理不尽に怒られると思っていたらしい。だが、手紙の内容は彼女の予想を裏切るものだった。手紙はさらに続く。

『また、貴殿の類まれなる功績を改めて高く評価したい。

先述した調査団の「全員生還」という結果。加えて、未知の変異種モンスターの「二度目の単独撃破」。これらの卓越した任務遂行能力を評し、西都市ギルドとして貴殿に【Sランク推薦状】を発行する――』

「……っ!」

俺は思わず息を呑んで驚いた。

Sランク推薦状。四都市のギルド長から認められた者だけが至れる冒険者の最高峰であり、滅多なことでは発行されない代物だ。それを、あの誰よりも他人に厳しい成果主義者のガッティ・ギルド長が、自ら発行してくるとは……!

ギデオンさんから、西都市のシーリングスタンプが押された厳かな封筒を手渡されるツバキ。

「おおー! つまり、これをあと3枚集めたら、文句なしの『強い戦士』って認められるんだな!」

先ほどまでの憂鬱そうな顔から一転。

ツバキの顔がパッと花が咲いたように綻び、推薦状を太陽の光に透かして無邪気に喜んでいる。

Sランク。それは現在、世界に3人しかいない英雄たちの領域だ。

途方もない夢物語に思えるが――この規格外の強さと無邪気さを持つ侍ならば、そこに到達するのも案外早いのかもしれない。俺は推薦状を自慢げに見せびらかしてくるツバキを見ながら、そんなことを思っていた。


ー ???視点 ー

薄暗い部屋の中、宙に浮かんでいた水晶玉の一つが、パチンと小さな音を立てて砕け散った。

「……東都市に続いて、西都市の攻略も『失敗』だと?」

誰もいない空間に、男の苛立ちを含んだ独り言が響く。

「あの甘ったれた『水鏡の剣士』レオンハードが、私の造り上げた作品を討伐したとでも言うのか……? いや、理想しか見ないあいつに斬れるわけがない」

男は不快げに舌打ちをする。男の思惑を外れてイレギュラーな動きを見せている者がいる。

「……私の与り知らない『駒』が紛れ込んでいるようだな。東と西、二つの作戦を立て続けに台無しにした『見えざる手』……」

暗闇の中で、男は次の標的である南の都市の地図へ、劇薬の入った小瓶をゆっくりと押し付けた。

男の口角が、三日月のように歪んで吊り上がる。

「少々趣向を変えた作品を造ろう。……人と同じように言葉を解する、『特別製』をな」

第2章「バケモノと呼ばれた少女編」、最後までお読みいただきありがとうございました!


【明日は閑話「お菓子な握手」を掲載します! 】

閑話は、全3話となります!


明日は8時、12時、20時に更新です。

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