水鏡の剣士の誓いと、狂犬の正論
ー レオンハード視点 ー
「ツバキ殿、ここは私たちがよく使う店なんだ。会計はこちらで持つので、好きなものを遠慮なく頼んでくれ」
東都市からの派遣でやってきた、このツバキという少女。
最初は、子供一人の派遣要請など無意味ではないかと疑念を抱いていた。……だが、近くで接してみて分かった。特例Aランクというのは決して虚飾ではない。その小柄な佇まいに、一分の隙もないのだ。
「おー! ピカピカ男は気前がいいな! 魚料理はあるか?」
「……ツバキ殿。私の名はレオンハードだ。明日は共に死線を潜る仲間なのだから、せめて名前くらいは覚えてくれないか?」
「気が向いたらな〜」
全く気に留める様子のないツバキ殿に、私は少々、腹が立ってしまった。
「ま、まぁ、レオン。今日は親睦会なのですから、無礼講ということにしましょう?」
空気が悪くなるのを察したセリアに、フォローを入れさせてしまった。……これが、極東の国の流儀なのだろうか。
その後の食事会は、取り留めのない会話を交わしながら進んだ。
夜も更けてきたところで、私は明日のクエストに向けた決意を分かち合おうと、一同を見渡して声を上げた。
「――消失した村人も、音信不通のジーグたち冒険者仲間も、きっと生きている! 全員を救い出し、皆でこの街に帰るぞ!」
私の宣言に、ボウマンとセリアが力強く頷く。
しかし、唯一人――ツバキ殿だけが、何とも形容しがたい、キョトンとした顔をしていた。
「ツバキ殿? どうかしたのかい?」
「いや、ピカピカ男は変なことを言うなと思って」
ツバキ殿は、口元に運ぼうとした箸を止め、淡々と続けた。
「だって、連絡が途絶えたのは一週間前なんだろ? なら、生きてる可能性はほぼゼロなんじゃないか?」
一瞬、耳を疑った。……あまりにも不謹慎な、耳を汚す言葉だ。
「西都市の冒険者は、屈強で勇敢な戦士だ!! 容易く命を落としたりなどはしない!!」
「屈強も勇敢も、関係ないだろ。一週間も魔物の巣で生き延びるなんて、まともな理屈じゃない。それにその理屈なら、守る力のない村人たちはとっくに全滅してなきゃおかしいぞ」
「…………っ!!」
ツバキ殿の言葉を遮るように、私は思わず拳を机に叩きつけていた。ガタン、と食器が鳴る。
「西都市の冒険者は……屈強で、勇敢だから、簡単には死なないんだ。そして、私たちは絶対に民衆を見捨てない……!」
怒りで震えそうになる声を、必死に抑えて彼女に伝える。
「……今日はここまでにしよう。明日の調査クエストは、よろしく頼むよ」
彼女とは、決して分かり合える気がしない。
そんな絶望にも似た予感を抱かせる、最悪の懇親会となってしまった。
ー ツバキ視点 ー
ピカピカ男たちは、すっかり怒ってしまったようで、アタシを置いて先に店を出ていってしまった。
(そんなに間違えたことを言ったかな……?)
一人残されたアタシは、首を傾げる。
一週間も魔物の領域で音信不通なら、とっくに死んでいると考えるのが普通だ。事実を言っただけなのに、どうしてあんなに怖い顔で机を叩く必要があったのか、アタシにはあまりよく分からなかった。
明日は、アタシにとって初めての『パーティを組んでの調査クエスト』だ。
東都市にいた一週間、おっさんと鎧の奴が口を酸っぱくしてパーティの基本だなんだといろいろ言っていたが、要するに「味方の死角をカバーする」――つまり「組んでる奴らが気づいてない敵を、アタシが素早く斬ればいい」ということは理解している。
あのピカピカ男たち、口だけじゃなくて本当に強いといいなぁ。
そんなことを考えながら夜道を歩いていると、ふと、おっさんが真剣な顔で言っていた言葉を思い出した。
『パーティ戦で一番大事なのは、どんなに泥臭くても全滅しないこと。仲間と一人でも多く、生きて帰ることなんだ』
必ず全員を救って帰ると豪語したピカピカ男の言葉と、全滅だけは避けて生きて帰れと言ったおっさんの言葉。
強いはずのピカピカ男の言葉の方が、なんだか危うく聞こえるのは気のせいだろうか。
「……まぁ、アタシが全部斬れば済む話か」
答えの出ない疑問を思考の隅に追いやり、アタシは腕組みをしながら、宿泊所までの夜道を一人で戻るのであった。




