表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東の狂犬は、万年Eランクにしか懐かない  作者: 揚げ太郎
【第2章】バケモノと呼ばれた少女
16/28

水鏡の剣士の誓いと、狂犬の正論

ー レオンハード視点 ー

「ツバキ殿、ここは私たちがよく使う店なんだ。会計はこちらで持つので、好きなものを遠慮なく頼んでくれ」

東都市からの派遣でやってきた、このツバキという少女。

最初は、子供一人の派遣要請など無意味ではないかと疑念を抱いていた。……だが、近くで接してみて分かった。特例Aランクというのは決して虚飾ではない。その小柄な佇まいに、一分の隙もないのだ。

「おー! ピカピカ男は気前がいいな! 魚料理はあるか?」

「……ツバキ殿。私の名はレオンハードだ。明日は共に死線を潜る仲間なのだから、せめて名前くらいは覚えてくれないか?」

「気が向いたらな〜」

全く気に留める様子のないツバキ殿に、私は少々、腹が立ってしまった。

「ま、まぁ、レオン。今日は親睦会なのですから、無礼講ということにしましょう?」

空気が悪くなるのを察したセリアに、フォローを入れさせてしまった。……これが、極東の国の流儀なのだろうか。

その後の食事会は、取り留めのない会話を交わしながら進んだ。

夜も更けてきたところで、私は明日のクエストに向けた決意を分かち合おうと、一同を見渡して声を上げた。

「――消失した村人も、音信不通のジーグたち冒険者仲間も、きっと生きている! 全員を救い出し、皆でこの街に帰るぞ!」

私の宣言に、ボウマンとセリアが力強く頷く。

しかし、唯一人――ツバキ殿だけが、何とも形容しがたい、キョトンとした顔をしていた。

「ツバキ殿? どうかしたのかい?」

「いや、ピカピカ男は変なことを言うなと思って」

ツバキ殿は、口元に運ぼうとした箸を止め、淡々と続けた。

「だって、連絡が途絶えたのは一週間前なんだろ? なら、生きてる可能性はほぼゼロなんじゃないか?」

一瞬、耳を疑った。……あまりにも不謹慎な、耳を汚す言葉だ。

「西都市の冒険者は、屈強で勇敢な戦士だ!! 容易く命を落としたりなどはしない!!」

「屈強も勇敢も、関係ないだろ。一週間も魔物の巣で生き延びるなんて、まともな理屈じゃない。それにその理屈なら、守る力のない村人たちはとっくに全滅してなきゃおかしいぞ」

「…………っ!!」

ツバキ殿の言葉を遮るように、私は思わず拳を机に叩きつけていた。ガタン、と食器が鳴る。

「西都市の冒険者は……屈強で、勇敢だから、簡単には死なないんだ。そして、私たちは絶対に民衆を見捨てない……!」

怒りで震えそうになる声を、必死に抑えて彼女に伝える。

「……今日はここまでにしよう。明日の調査クエストは、よろしく頼むよ」

彼女とは、決して分かり合える気がしない。

そんな絶望にも似た予感を抱かせる、最悪の懇親会となってしまった。


ー ツバキ視点 ー

ピカピカ男たちは、すっかり怒ってしまったようで、アタシを置いて先に店を出ていってしまった。

(そんなに間違えたことを言ったかな……?)

一人残されたアタシは、首を傾げる。

一週間も魔物の領域で音信不通なら、とっくに死んでいると考えるのが普通だ。事実を言っただけなのに、どうしてあんなに怖い顔で机を叩く必要があったのか、アタシにはあまりよく分からなかった。

明日は、アタシにとって初めての『パーティを組んでの調査クエスト』だ。

東都市にいた一週間、おっさんと鎧の奴が口を酸っぱくしてパーティの基本だなんだといろいろ言っていたが、要するに「味方の死角をカバーする」――つまり「組んでる奴らが気づいてない敵を、アタシが素早く斬ればいい」ということは理解している。

あのピカピカ男たち、口だけじゃなくて本当に強いといいなぁ。

そんなことを考えながら夜道を歩いていると、ふと、おっさんが真剣な顔で言っていた言葉を思い出した。

『パーティ戦で一番大事なのは、どんなに泥臭くても全滅しないこと。仲間と一人でも多く、生きて帰ることなんだ』

必ず全員を救って帰ると豪語したピカピカ男の言葉と、全滅だけは避けて生きて帰れと言ったおっさんの言葉。

強いはずのピカピカ男の言葉の方が、なんだか危うく聞こえるのは気のせいだろうか。

「……まぁ、アタシが全部斬れば済む話か」

答えの出ない疑問を思考の隅に追いやり、アタシは腕組みをしながら、宿泊所までの夜道を一人で戻るのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ