赤い地獄の産声
ー レオンハード視点 ー
一晩経って、私もだいぶ冷静さを取り戻していた。
昨夜はつい声を荒らげてしまったが、ツバキ殿も現実的な可能性として「すでに皆が死んでいる」という事実を提示しただけなのだ。
もちろん、そのような最悪の事態もリーダーとして覚悟せねばならないのだろう。それでも……私は最後まで、彼らが生きている可能性に賭けたい。
調査クエストの集合場所に集まった冒険者たちを見渡す。
ツバキ殿も、遅れることなく来てくれているようだ。
「それでは、これより消失した村の調査を開始する。変異種との対峙も想定される。皆、気を引き締めて臨んでくれ!」
数組のパーティに分かれ、森の奥へと歩を進める。
私たちのパーティは、ボウマン、セリア、そしてツバキ殿を加えた4人の戦闘特化編成とした。
村が近づいてきた道中、街道を塞ぐように群れる大量のスライムを発見した。
村の周辺にいてもおかしくない低級モンスターだが、いかんせん数が異常だ。念のため、我々のパーティが先行して対処することとした。
ボウマンが強固な盾で敵のヘイトを集め、私がメインアタッカーとして敵の数を減らしていく。セリアは後方からバフ・デバフの魔法で戦況をコントロールし、私の剣に属性付与のアシストを行ってくれる。これが我々の基本戦術だ。
今回は、そこにツバキ殿の遊撃が加わっている。
(……しかし、ツバキ殿は本当に強いな)
恐ろしいまでの速度と、正確無比な剣の技量。実際に背中を預けてみて、その異常なまでの戦闘能力を肌で感じた。
スライムの大群は、数が多いという以外はおかしな点もなく、我々は難なくこれを殲滅した。
村まで間もなくという所で、念のため短い休憩を挟むことにした。
剣の血を拭っていると、ツバキ殿が目を輝かせてこちらへ近づいてきた。
「お前ら、口だけじゃなくて本当に強いんだな! アタシびっくりしたぞ!」
その裏表のない素直な称賛に、私は思わず目を丸くした。
「ボウマンが前に立ってくれるおかげで、敵の動きが凄く把握しやすいな! セリアの魔法もすごい! 補助魔法があるのとないのとじゃ、あんなに違うんだな! レオンハードの剣も流石の強さだ!」
さらに驚いたことに、彼女はあれほど覚えようとしなかった私たちの名前を、ハッキリと口にしたのだ。
「ツバキ殿……ようやく、私たちの名前を覚えてくれたんだね」
「ああ! アタシは、強い戦士の名前はちゃんと覚えられるんだ!」
屈託のない笑顔で胸を張る彼女を見て、私は自然と頬が緩むのを感じた。
昨夜は、彼女とは一生理解し合えないかもしれないと絶望しかけたが、そんなことはない。彼女はただ、戦士として不器用で頑固なところがあるだけなのだ。そう思い直した。
やがて、目的の村に到着した。
――だが、人の気配が全くない。
それどころか、肌にまとわりつくような異様な雰囲気を感じる。モンスターの気配か?
耳を澄ますと、微かに『人のうめき声』のようなものが聞こえてきた。
「……生存者がいるかもしれない!」
私は希望を胸に、気配のする広場の方へと駆け出した。
しかし、そこに生存者は一人もいなかった。
広場の中央に陣取っていたのは、巨大な一匹の『スライム』だった。
だが、普通のスライムとは全く異なる。その半透明な身体は、おびただしい血を吸ったように真っ赤に染まっていた。
そして何よりおぞましいのは、その蠢く赤い粘液の中に、生きているのか死んでいるのかすら分からない『何人もの人間』がドロドロに溶けかけながら取り込まれていたことだ。
「あ……あぁ……たす、け……」
村に響いていたうめき声。
それは生存者の声ではなく、スライムの体内で消化されかけている人間たちが発する、悲鳴にも似た『鳴き声』だったのだ。




