期待される戦果、すれ違う背中
ー クロエ視点 ー
西都市ギルドの最奥にある重厚な扉を抜け、私はツバキと共にギルド長・ガッティと対面していた。
何度会っても、この人には慣れない。
神経質そうに押し上げられた眼鏡の奥から、射抜くような冷たい視線がこちらを値踏みしている。ピクリとも笑わない口元と、隙のない立ち振る舞い。四都市で一番の『成果主義者』と呼ばれるだけの威圧感があった。
「クロエ嬢、ツバキ嬢。この度は、遠方からのクエスト協力に感謝する」
抑揚のない事務的な労いの言葉に続き、今回のクエストの説明が始まった。
「事の発端は、都市の外れにある村の住人が、こつ然と姿を消したことから始まる。異変調査のために当ギルドのBランク冒険者パーティを派遣したのだが……彼らからの連絡が、一週間前から途絶えているのだ」
Bランク冒険者だけでパーティを組める西都市の層の厚さにも驚きだが、それほどの腕利き集団が音信不通になるなんて、一体何が起きているというのか。
「先日、東都市で変異種が確認されたことから、当件も変異種絡みであると想定している。我が都市の最高戦力チームを投入し、総力で対処に臨む方針だ」
傍らに立つレオンハードさんが、力強く頷いている。
「しかし、変異種がどのような特性を持っているか、未だ予想ができない。そこで、オークキングの変異種を単独討伐したというツバキ嬢にも、ぜひ協力していただきたいのだ」
ガッティ・ギルド長が、鋭い目でツバキを見つめる。
するとツバキは、ドンッと自信満々に自分の胸を叩き、ふんぞり返って答えた。
「東都市の『特別戦力』であるアタシに任せておけ! 彫刻メガネ!」
(……っ!!)
隣で控えていたレオンハードさんが、信じられないものを見るように目を剥いた。
「も、申し訳ありませんっ! 礼儀を知らない失礼な物言いをする冒険者で……!」
私は慌てて頭を下げ、ガッティ・ギルド長へ平謝りした。
「……構わぬ」
返ってきたのは、氷のように冷たく端的な返事。怒っているのかどうかも分からない。
「ツバキ嬢に求めるのは『戦果』のみだ。……その腕前、期待しているぞ」
ストレスで本当に胃に穴が開きそうになった面談を終え、私はツバキに手配した宿泊場所と、明日のクエストの集合場所の地図を押し付けた。
「私は西都市のギルドで待機しているから、なにか報告があったら来てちょうだい。じゃあね」
私の任務はここまでだ。あとは、明日の合同クエストが無事に成功することを祈るしかない。
ー ツバキ視点 ー
「それじゃあ、ここが宿泊場所、こっちが明日の集合場所よ」
受付の姉ちゃんから、何枚かの紙の束を押し付けられる。
なるほど、この都市ではアタシの戦果に期待しているらしい。
それなら、明日のクエストでアタシの圧倒的な強さを存分に見せつけてやる! そうすれば、みんなアタシのことを認めるはずだ。
そう意気込んで顔を上げた時には、受付の姉ちゃんは足早に背を向け、さっさとどこかへ歩き出していた。
「あ……」
(……一緒にご飯ぐらい、食べるかと思ったんだけどな……)
遠ざかる背中を見つめながら、アタシは少しだけ肩を落とした。
受付の姉ちゃんは、アタシのことが凄く嫌いらしい。あのクエストで、おっさんを置いて帰った一件から、向けられる視線が物凄く厳しくなったのだ。
今まで、恐れられたり、遠ざけられたりしたことは何度もあった。けれど、あんな風に明確な『嫌悪』という感情を真っ直ぐぶつけられたのは初めてのことで、どう対応していいのか分からない。正直、あの姉ちゃんはちょっと苦手だ。
渡された地図を見つめ、一人でご飯を食べに行こうかと思案していると――。
「ツバキ殿!」
不意に声をかけられ振り返ると、あのピカピカ男が爽やかな笑顔で立っていた。
「明日のクエストを前に、親睦を深めたいと思ってね。よければ、私のパーティメンバーと一緒に、これから夕食でもどうかな?」




