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東の狂犬は、万年Eランクにしか懐かない  作者: 揚げ太郎
【第2章】バケモノと呼ばれた少女
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格下による、格上のための特別授業

とりあえずツバキを連れて、パーティ行動についてどうレクチャーすべきか頭を捻る。

俺は十数年、基本的にソロでの雑用がメインだ。理論は分かっていても、実戦での連携を教えるとなると心許ない。

そんな時、ギルドの片隅で出発の準備を整えているCランクパーティ、ガルムたちの姿が目に入った。

リーダーのガルムは礼儀正しく、パーティのバランスも非常にいい。東都市でも信頼の厚い「お手本」のような連中だ。ツバキが基本を学ぶには、これ以上ない相手だろう。

俺は意を決して、ガルムに声をかけた。

「ガルム! 久しぶり」

「トビーさん! ご無沙汰しております」

ガルムは足を止め、いつものように爽やかな挨拶を返してくれる。

「この前の変異種騒動、大変でしたね。トビーさんも獅子奮迅の活躍をされたとか!」

「いや、俺なんて必死に逃げ回ってただけだよ」

真っ直ぐなガルムの瞳を前にすると、少しだけ良心が痛む。先日の騒動での働きで、俺の評価は「便利な雑用係」から「運のいい雑用係」に変わった程度だ。ギデオンさんが特別報酬を出してくれたのはありがたいが、周囲に無理をさせているのではないかと、申し訳ない気持ちになる。

「おい、おっさん! こんな弱そうな奴らと組むのか?」

――頼むから、君は一度だけでいいから「黙る」ということを覚えてくれないだろうか。

俺が心の中で頭を抱えた瞬間、ガルムが緊張した面持ちでツバキを見つめた。

「彼女が、噂の……」

「ああ。ガルム、単刀直入に言うよ。ギデオンさんからの依頼で、ツバキにパーティ戦のイロハをレクチャーすることになったんだ。……悪いんだが、君たちのパーティの知恵を貸してくれないか?」

「それは構いませんが……。正直に申し上げて、ツバキさんと我々では、あまりに能力差がありすぎると思うのですが」

ガルムが困惑したように、恐る恐ると言葉を繋ぐ。

彼の懸念は正しい。実戦レベルのスピードについてこれる冒険者は、今の東都市には一人もいないだろう。西都市にはAランク冒険者がいると聞くし、連携の細部は向こうでぶっつけ本番で合わせてもらうしかない。

ここは割り切って、模擬戦を通じた「座学」で意識付けをしてもらうことにした。

「いや、そこまで難しく考えなくていい。模擬戦の中で、各役割がどう動いているのか、パーティの視界がどうなっているのか。そのイメージを彼女に伝えてやってほしいんだ」

「なぁ! なんでアタシがこんな、トロい連中に合わせる練習をしなきゃいけないんだよ!」

ツバキが不機嫌そうに声を荒らげる。

こいつがへそを曲げると、一気に話がややこしくなる。俺は内心の溜息を隠し、彼女の性格に合わせた「餌」を投じることにした。

「ツバキ。西都市にはお前と同じ『Aランク』と呼ばれる本物の冒険者がいるんだ。これからする訓練は、そんな強い奴らと一緒に戦うための『ルール』を覚える作業なんだよ」

「……そんな強い奴がいるのか? アタシ、そいつらと手合わせしてみたいぞ!」

好戦的なスイッチが入ってしまった。慌てて軌道修正を試みる。

「とにかくっ!ルールを覚えれば強い奴と仲間になれるし、仲間とより強い奴に挑むことが出来るようになるんだ!」

「より強い奴に……。フン、それなら仕方ないな」

どうやら納得してくれたらしい。ツバキは鼻を鳴らし、ガルムに向き直ると「おい! そのルールってやつ、アタシにいろいろと教えてくれ!」と、いつもの調子でお願いをしていた。

現金な奴だと思う反面、その真っ直ぐさに少しだけ救われる。

出発までの残り一週間。この狂犬がどこまでルールを覚えられるだろうか。

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