東の狂犬は、万年Eランクにしか懐かない
東都市防衛戦から数日。
俺はまたしてもギルドの医務室のベッドに逆戻りすることになってしまった。
「……というわけで、ギルド所属の現役冒険者じゃないとこの医務室は使えない決まりだから。トビーのあの引退届は、こっちで勝手に破棄しておいたわ」
見舞いに来たクロエが、リンゴを剥きながらサラッと俺の引退届の『不受理』を言い渡してきた。
「いや、勝手に破棄って……手続き的にどうなんだよ」
「文句あるの? なんなら今すぐこのベッドから降りて、自費で病院に行ってもらうけど」
「……いえ、助かります。ありがとうございます」
クロエの不器用な優しさに、俺は苦笑いして引き下がった。まぁ、あの防衛戦を経て引退は撤回するつもりだったから、ちょうどよかったんだけど……。
そしてもう一つ、変化があった。
オーク大群の襲撃により、東都市の城壁や家屋は大きな被害を受けた。そのため、ギルドには防壁の修繕や瓦礫の撤去など「再建に向けた雑用クエスト」が急増している。
傷が癒えた俺も復帰後すぐにその仕事に参加し始めたのだが、なぜかツバキと『パーティ』を組んで取り組むことになってしまったのだ。
事の顛末はこうだ。
ギデオンさんによると、冒険者の最高位である『Sランク』に昇格するためには、東西南北の各都市のギルド長全員から推薦状を発行してもらう必要があるらしい。
ギデオンさんはツバキを呼び出し、「お前のその社会性と協調性のなさは大問題だ。このままでは、東都市の代表として私が推薦状を出すことは絶対にない」と宣言したそうだ。
『社会性なんて、どうやって身に着けたらいいんだよ!』と吠えるツバキに対し、ギデオンさんは『先輩冒険者と活動を共にし、背中を見て学べ』と答えた。
するとツバキは、一も二もなくこう即答したらしい。
『じゃあ、アタシはおっさんと組む!』
いや、なんでだ。しかも俺は一切了承していないのに、ツバキは俺の行く先々に勝手についてくるようになった。
勝手についてきては、「アタシが運ぶ!」と張り切って木材をへし折ったり、不機嫌になって依頼主の職人に食ってかかったりと問題ばかり起こすので、見かねた俺が折れて正式に面倒を見ることになったのだ。
「おっさん! 次の瓦礫はどこに運べばいいんだ!」
「ストップ! ツバキ、それはまだ柱が繋がってるから引っ張っちゃ駄目だ! 家ごと倒れるぞ!!」
今後、この規格外の相棒とどうなっていくのか……俺にはまだ分からない。
ー ???視点 ー
薄暗い部屋の中、宙に浮かんでいた水晶玉の一つがパチンと小さな音を立てて砕け散った。
「……東都市の攻略に、失敗した?」
誰もいない空間に、男の低い独り言が響く。その声には、純粋な疑問が混じっていた。
「あそこには、私の作品の障害となるような強力な戦士などいなかったはずだが。 東の守護者と呼ばれていたBランクの『ダルタン』程度が、最高戦力レベルだったはずだが……」
送り込んだのは、並の冒険者では太刀打ちできないオークキング。さらにダメ押しとして、独自に造り上げた『変異種』まで用意したのだ。
それらが全て討ち取られ、街が守り切られたなど、計算外にも程がある。
「……まぁいい」
男は小さく息を吐き、砕けた水晶の破片を踏み潰す。
「代わりの作品など、いくらでも造り出せるのだからな」
東の街がどうやって窮地を脱したのかは不明だが、大局に影響はない。
「さて、次の作戦を始めよう。……西都市の『守護者』は、東の連中よりも厄介で、そしてひどく脆い」
暗闇の中で、邪悪な笑みが浮かび上がる。
「あの『優しすぎる剣士』が、私の作品を前にどう踊ってくれるかな」
第1章「狂犬との出会い編」、最後までお読みいただきありがとうございました!
【明日から第2章「バケモノと呼ばれた少女編」スタート! 】
第2章は、全10話となります!
明日は12時と20時に更新予定です。




