65 現地調査
毎日投稿十一日目。
コーヒーが無いと生きていけないと、最近になって気が付いた気がします。
では楽しんでください!!
人である以上、何かしらの嗜好は存在してる。
それは遅れて青春を送る、霧太刀時雨にも通ずる人類の常識であった。
「時雨さんって、蕎麦が好きだったんだ」
「お恥ずかしながら蕎麦には目が無いモノで.....」
瞼をひたりと閉じる時雨の横には、六段分の蒸籠が重ねられていた。祐と土屋はその積み重なった塔に目線を向け、再び時雨に戻した。
((まさか、一人でこれ喰ったのか?))
全くの同時。二人は己の思考の中で同じ台詞を構築する。
だが時雨は、そんな事など露知らずと言った具合に蕎麦をずるりと啜ってみせる。
「.........まさか霧太刀ちゃんが、生粋の蕎麦好きだったとは。これは良い仲間が出来たってもんやわ」
合法の不法侵入の事など忘れたようにけたりと土屋は笑う。
異質と言えば異質な組み合わせだが、不思議とぎくしゃくとした雰囲気は無い。共々が普通ではないためなのだろう。
「お二人は、ここでお昼を食べに来たんですか?」
「本当は違う予定だったんだけど、急遽ね」
祐が胡坐をかいて、乾いた笑みを浮かべる。
閉じていた襖が整った音を発して開かれた。両手を少々広げる形で持つお盆には、同じ料理が二つ並ぶ。
「何だ。お前らはその嬢ちゃんと知り合いだったのか?───なら一緒に食べてやれ」
一人用には見えない、机に料理を置く。店主は役目を終えた、自動人形の様に定位置に脚を運んだ。
鏡合わせの様な机のそれに祐は目を向ける。艶があり、蕎麦特有の香りがぴしぴしと立つ。傍に置かれた天麩羅は、黄金に輝き無性に唾液が迸る。
粗方に食べ終えた祐の前、時雨は蒸籠を重ね続ける。
(寝る子は育つって言うけど、喰う子は育つの方が合ってるんじゃねぇか?)
祐は笊の上に転がる、蕎麦の破片を拾い続けた。
「──────あぁそうだ。鬼ちゃんには言おうと、思っとったんだやけどさ。最近の殺人事件の事だけど」
食の遅い土屋は、半分程残っている蕎麦をずるずると啜った。祐は拾う作業の、時雨は蕎麦を呑む片手間に土屋を見る。
「噂で聞いたんだけどよ。どうやら犯人は魔法使いなんじゃないかって」
その一言は片手間のそれを両手の、用事に変貌させて見せた。
人の中では馬鹿げたそれも、異能を知る二人に取れば真面目な物事である。
「その話詳しくお願いできますか?」
「えっ?....まぁええけど」
時雨が喰い付くとは、考えもしなかった土屋は面食らった表情を残す。端を蒸籠の上で、橋渡しの様に乗せると改まって咳払いなんかをして見せる。
「分かっとると思うけど。この街のセキュリティは世界一な訳。そんな中で、只の一般人が犯罪を繰り返す何て不可能な事よ。────無数の監視カメラからの推察、その場に残った微細な証拠からの特定なんかがそれにあたるんよ。
だけど今回の犯人は、そのどちらにも引っ掛からない人間なんじゃ。って言われとる」
「監視カメラにも映らず。尚且つ証拠も残さない。──────なるほど。魔法使いと言いたくなる気持ちが、何となく分かる気がします」
時雨は冷静に土屋の言葉を要約する。
ふと祐はその既知とした、言葉が脳を駆け巡った。
それは上神淋が紡いだ言葉。彼女が導き出した、懐疑の問。
「魔法使い.........魔術師か?」
祐はそう呟いた。隣に異能を知らぬ人間がいるというのに。口に手を当て汁の先に浮かぶ、自分の顔を見つめて。
「おや。怪事件に興味のない鬼ちゃんが、そこに反応するとはねぇ........」
「まぁな────なぁ土屋。それ以外になんか噂とかってないのか?何でもいいぞ」
否定の思いなど一切無いかの様、祐は頷いた。二度目に面を喰らった土屋は、けたりと微笑みよっしゃと声を出す。
「それ以外だと、犯人は殺人と言う行動に快楽を求めるって言われとる。だから今まで出た死体は、腸を返され。首を飛ばされ。四肢をもがれ。モノによっちゃあそれを道端に、オブジェみたいにしたそうや」
食事中の会話とは、間違っても思いたくない絶望的な情報は二人の思考を乗っ取った。
風船が弾けた後のような静謐。それはやけに乾いていた。
遠くで鳴る十三時を告げるアナウンスすらも届かない。
「んじゃ俺の寮はこっちだし、じゃあな二人とも」
目を糸の様に細め、笑う土屋に二人は小さく手を振る。溢れる学生の中に消えていく土屋を見届けながら、祐は口を開いた。
「魔法使いは無いと思うけど.....魔術師が居る線は、考えても良いかもね」
「そうですね。現にこの街のセキュリティ突破など虎丸さん以外、出来るとは考えにくいですし」
二つの碁石はくるりと向きを変えた。
二人の行く先は、口を合わせずとも決まっていた。
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初見でしたら第零話から読んでもらえると助かります。




