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退魔の英雄  作者: 明太子
外界之魔陰
71/81

61 内界での二戦。

毎日投稿三日目。

随分と祐視点が多かったですが、今回と次は時雨視点になると思います。


では楽しんでください!!

 七月三日。

 拾九番街第七学区八番下水路。

 この単語の羅列を耳にしたところでこれが、何処ぞの人間の所在地だと誰が思うのだろうか。ましてやそれが世界で最も優れた研究者の住処だと誰が考えるのだろう。

「いい加減、自分で(ごみ)を捨てるという概念を覚えた方が良いと思いますよ」

七十リットルゴミ袋の端を束ねる時雨は呆れた顔でそう葉加瀬に告げる。

 七月に入ってから寝る時間も含め研究机に嚙みついている葉加瀬は、点火前の煙草を咥えながら適当な相槌を打つ。机の上に乗る手書きの資料は葉加瀬を囲む壁の一部と化し、吸殻は新手の現代芸術と成り替わる。

「全く.....私は貴女の護衛は受け持ちましたが、身回りの事は受け持った覚えはありませんよ」

「──────あぁ」

相槌なのか気力の薄れた溜息のどちらかを吐きながら、葉加瀬はぐたりと机に倒れ込んだ。

 本格的な第三魔法の研究を始めて三日が経過した葉加瀬。

 常識を根本から覆し、素数番街の全ての基盤を作り上げた天才でさえ神秘を体系化することにはまだ及ばない。毎度の事なのだろうが、そう言う彼女は煙草を吸う速度が数段と上がる。酷い時など一度に三本程咥えることもざらである。

「それよりも昨日、四季さんから連絡が入ったんですが、どうやら祐がヨハンと対面したそうです」

「.......ほう。この世創めての魔法使い様とのぉ。やっぱりあいつは大物になる奴だわい」

軽くほくそ笑むと葉加瀬は、そのまま死人の様に寝付けてしまった。特級品の胸が重たいのか机にドンと乗せる様を時雨は羨望的に見つめ、そして己の胸部を見降ろした。極限まで無いとは言い難いが、爪先はしっかりと見えてしまう。

「──────今更悔やんだところで、何に変わる訳でも無いですしね」

理路整然と口にはするが、時雨の眼は暗がりに包まれた。


 倉庫のゴミを集めてはそれを袋に詰め込み閉じる。そんな単調ながらに至極面倒な作業を時雨は繰り返し続けた。数にして十八個目を閉じた所で粗方のゴミらしきモノは研究室から失せたわけで。本来であれば住宅区域ごとに設置されたゴミ集積場にそれを運べばよいのだが、この一室はどの区域にも該当しない隠れ家。

「えぇとこの場合は、役所の管轄に届けなければならないんでしたね」

溢れかえるそれをぐるりと凝視すると時雨は一つ一つを虚空へと葬り去った。とは言えども当然の事全てではない。一つもゴミを持たずして、集積場等に行けば大方変人として扱われる。それは時雨としても本懐ではない。

「それでは数分で戻りますが、ご用心を」

小さく頭を下げると時雨は二つのゴミ袋を携えて研究室から姿を消した。

「気を付けてな........」

最期の気力を振り絞るような声で別れを告げると博士は忠告を無視して瞼を下ろした。


 

 ───事には、全て意味がある。無意味なモノと言う存在は存在しない。それと同時、運命と言う事柄にもまた意味がある。

 まさにタイミングは完璧の事であった。いやどちらかと言えば計ったのだろう。事日本では最強の用心棒として君臨する霧太刀時雨を避けたのだ。

「認識不明瞭、中和反応を元とした施錠管理を取り入れ単純化された結界術。若しやとは思っていたが、随分と鈍ったもんですね.......葉加瀬」

ギタリストのような黒色の鞄を背負った男は、季節外れの黒のロングコートを羽織っている。額にはに三本の汗筋が痕を残していた。

「───それに俺が入って来たってのに、気付かずに気持ちよくおねんねたぁ....まっ疲労困憊って所ですか」

換気扇の音を区切るように革靴が地面を蹴り付ける。寝顔のすぐそばに寄った男は咥えていた煙草を積み上がった吸い殻の上にひょいと乗せた。瞬間重心を逃したのかその建造物は大きく揺れ男は目を開く。

「やっぱり、第三魔法(完全なる掌握)の保管はあんたか」

男は髪を搔き上げると葉加瀬の加えていた新品の煙草を取り外しそれを己が口に備え付けた。机に置かれていたオイルライターで火を点ける。

 肺に残る煙はどこか重たい。まだ成人を迎える前に貰ったあの煙草を思い出すそんな初めての味に似通っていた。

 綺麗になりたての研究室をぐるりと見渡す男は、はにかむように笑う。

「あんたにしては随分綺麗だな。さっきお嬢の魔力が飛んでいったし、大方掃除してもらったんだろうがなぁ」

独り言は絶えずして男の口から溢れ続ける。

 寝ている彼女からの相槌を欲しているのか、将又ただ単に喋ることが好きなのかは男以外分かる訳が無い。

「あんたが居なくなったから、あの研究室は今は物置小屋だぜ。それに時々は四季のメンテナンスでもしてやったらどうですかい?あいつだって会いたがってるぜ」

「────────────」

無論返事は無い。まともな睡眠と言うモノを削り続けた葉加瀬は今夢の底に居る。

 

 吸った煙を吐き捨てると、自らが入ってきた鉄製の扉を見つめる。

(魔力......お嬢じゃねぇな。大方第三魔法を狙った魔術師風情って所か?──────ただあんな単調な結界を外すのに時間を掛けてる以上、大した野郎ではない事は確かか)

煙草を咥えると男は、背負っていたライフルケースを地面に投げ捨てる。

 胸ポケットに入ったナガンM1895を取り出すと、そこに模倣(トレース)した弾丸を詰め込んでいく。

 装弾数は七発。7.62*38mmRナガン弾を使用する仕様。

 形骸化した結界は音を立ててほろりと崩れる。

 男は装填を終えたそれを扉の先に突き付ける。


 鉄の扉はギイと音を立ててゆったりと開かれた。

 


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初見でしたら第零話から読んでもらえると助かります。

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