57-2 ラーメン屋の一戦
毎日投稿一日目。
そろそろ己の自堕落さにカチキレそうな今日この頃。マジで今日から頑張る!!
では楽しんでください!!
魔術師は慢心と言う文字を捨てた術式を祐に叩きこむ。
壁に埋まったカウンターの机は物の見事に砕けた。それは回転性を持った鈍器で穿たれた、一発である。
「おいおい!!ここは店ん中だ.....ぞッ!!!!」
数本の麺が残る丼を左手に祐はそれを避ける。幸いに人は居ないが、無論店員は居るわけであった。尋常ならざる騒音に厨房から飛び出してきた。
「お客様困りますよ!!!」
祐にラーメンを運んだホールの一人が、駆けつけ一言口にした刹那に魔術師は視線を祐から外す。
「Get lost!!」
殺気のこもった視線は次第に具現化されるようであった。術式に魔力が練り込まれ槍に変装する。
「見境なしか!?」
左軸の後ろ回し蹴りをこめかみに向かって蹴り抜く。
しかしながらにピタリと空で停止した。
(魔力の防御璧......魔力装甲か?)
橋爪戦で味わった完全無欠の不可視の防御。それは神の御業と呼べる頂上の超常。だがそれは種を知らない盲目の信者のみに許された花畑。種を知った奇術を嘲笑するように足に巫力を入れ込んだ。
どれ程の力を込めても割れないオランダの涙。その尾を砕けば先端が砕けるように、魔力装甲はホロリと崩れる。
「What!?」
槍と化した視線は、店員の眼前にて空に止まりそして解けた。首をぐるりと返した魔術師に踵が爽快と叩きこまれる。
ぐにゃりと身体の軸を拉げると魔術師は磁力に引かれるようにカウンターに叩きつけられた。
それはもう豪快に。
「えぇっと店員さん?他の客とか働いてる人、一旦外に連れ出してもらえると非常に助かる」
この世の歪みを初めて網膜に取り込んだ男は蝋人形のようにその場で固まっていた。
「良いから!!!!!!!」
丼の中身を零す手前まで体を揺らしたその咆哮は、魂の抜け落ちた傀儡には程度が良かったのだろう。鞭を叩かれた馬の如く機敏であり正確に祐の指示の完遂を目指す。
(手応えはそりゃあったけど、俺に手を出してきたんだ。この程度で倒れるわ────
小さな鮮血。
視線を戻した祐は、見てからの反射で槍を避けはした。だがそれでも右耳を掠める。中途半端に手を加えたささくれのような痛ましさを残しつつも祐は不気味と微笑む。
「That`s a good reaction. But,next time I`m going to kill you」
腰を地べたに下ろしたまま魔術師は祐を見つめていた。
口こそ微笑みはするが、当然の如く眼には光など宿っていない。
何処ぞで会った赤髪の魔術師。大陸一の魔術師にして、魔法使い。
─────序のラーメン屋の魔術師。
「どうも魔術師って奴らは、血気盛んなようで......キル何てあんまし使うもんじゃねぇぞ」
見下ろしながら祐はそう呟いた。
蹴り込まれたはずの魔術師の首は、赤さこそ残ってはいる。それでも身体に支障をきたしていない。
「I have one question for you. Where is the Third Magic? If you tell me, I won`t kill you」
「あのさぁ.....俺なんかが英語を理解できる訳ねぇだろ?片言でもいいから日本語喋ってくれないと」
立ち上がりざまの言葉を祐は質問とさえ知らずに口を開く。
日本語を理解できるが喋れず書けない魔術師。
相対するは、英語を理解も出来ず喋れず書けない一人の阿呆。
会話が成立するわけがなく。
「Hmm...Well, even if you don`t know, I can just ask someone else. No concessions. you`re going to die」
相も変わらず分かる訳のない異質の言葉を紡がれた祐は、首を傾げる。
途端、魔術師の顔から笑みが無くなった。初めから虚ろと変わりのない貼り付けられた笑顔は、ついぞ浮き上がることも無い。
(今のところ攻撃手段は、槍を生み出してそれを射出するってだけのモノか。けどタネが分からねぇ────詠唱してる素振りも無いし、それを繰り出すための手順を踏んでるようにも見えない)
「─────こりゃ厄介」
魔術師の視線は、祐の全身を捕らえながらも少々正中線から逸れていた。
胴体の一部。急所。中央に無い乱立の器官の要。人体の全て。
(心臓か!?)
ある種の賭けに興じた祐は、正中線を軸とし体を左に旋回する。脇の下を逸れた槍は威力は壁に十センチほどの穴を開けたと同時に炭酸の様に消失した。
崩れた牙城の柱を落とすように魔術師は、祐との距離を詰める。
ショートレンジの間合い。左の拳が脇腹に砲弾の様に装填され、前に押し出された。
右肋骨の下。そこは鍛えようのない臓器の急所。祐の右膝が砕けた。左手に握られていた丼は宙を舞い下で砕けた。
(魔術師って距離感を大切にするって話じゃねぇのかよ!?.......)
奥歯を噛み締め早朝の景千代の言葉を頭で反芻する。
だが同時に疑問も浮かび上がる。
──────何故、槍で穿とうとしなかったのか。
折れ曲がった膝の少し上。平均的な肉付きよりかは細めなそこにピンポン玉程度の穴が穿たれた。
「Checkmate」
勝ちを確信した声は妙に上ずる。
人を殺せると確信した声は妙に耳に障る。
そして油断した人間の声は穴がある。
魔術師は崩れ落ちる祐の顔に掌をくるりと見せつけた。無論手相を見て欲しい何て話じゃない。魔力が凝縮しみるみるとそこに一つの弾が生成される。言わば魔弾とでも言えよう。ハンドボール程の大きさは、手に乗る紫月と同じである。
十二分の殺傷能力を持ったそれ。合図も無く主の手から独り立ちする刹那の時。
祐は魔術師の腕を逆手の掌底で思い切り押し上げた。狙いを外されたそれは、天井を轟々と破壊する。魔術師は上を見た。そして、
──────油断した。
開いた水月に祐は、景千代の型で正拳を叩きこんだ。足の裏と地面とが磁力で引かれ合うように後ろに音を立てて滑る。
急所への一撃。かつ油断した為に魔力装甲を疎かにした弊害。二つの噛み合いは、それの一撃を剛に引き上げた。
「No way! How can you move?」
噛み締める声は妙に震えていた。
疑心を思う声は妙に籠っていた。
魔術師は咄嗟に目線を上げる。その先には足を広げ腰を下ろし、右の拳を前へと突き出す人間が居た。いや人間と言う表現は間違っているのかもしれない。顔も上げず狙いを定めた様子は無い。恐らく勘のみで繰り出しただけの拳。それは洗練された凶器。
「────魔術師。漸くお前の術式のネタが分かったぜ......判別まで十手。景千代さんならもっと速いのかな?」
「What`s?」
拳を下げると同時、顔と腰を上げると祐は目を細め片の口角を上げていた。
「お前は三度。いや厳密には四度かな?俺を串刺しにできる瞬間があったよ。けどお前はしようとしなかった。それは何故か?────理由は簡単さ、出来なかったからだ」
祐は右足を引きずりながら姿勢を正すと魔術師との距離を離した。
「どういう原理で働いているかはさておき、お前の魔術は視線を槍に変化させるモノ。最初は作って射出するってモノだと思ってたけど、それなら俺は余裕で避けられるしな。それにそれだけが特技なら魔術師って名乗れねぇんだろお前らは」
口を開けば開くほど、魔術師の顔は歪んでいく。
痛い所を突かれた子供がいじける様に、その歪みは次第に赫怒を持ち始める。
揺れた瞳は、次第に的を射て行きそして固定化される。
「Die!!」
荒げた口調と共に視線は槍と化す。一定の範囲を同時に攻撃する、根本も先端も発生も硬直も無いような脱法的な魔術。
しかし種が分かればそれは奇術と大差がない。
「Holy...........」
「──────後なぁ、お前乱発しすぎなんだよ。流石に見えて来たし、感じて来た」
その槍は祐の眼前十センチから先が無くなっていた。そこに見えない塀があるようなそんな違和感。
「術式が練られて、視線という骨組みが魔力によって肉付けされる瞬間。─────綺麗だ。生きていたら見ることの無い異能の具現化。悪くねぇ」
勝利は祐のモノであった。それは紛れも無い事実であり、確定された未来。
傲慢に取れる確証。しかしながら祐の瞳から得ただけのモノではない。
敗北は魔術師のモノであった。それもまた紛れも無い事実で、確定された未来。
謙遜に取れる確証。しかしながらにそれは魔術師の瞳から得ただけのモノであった。
崩れ落ちる魔術師に祐は渾身の一撃を付け加えた。白目を向いた魔術師は、ついぞ祐と会う事は無い。
「─────はぁぁぁ。飯食いに来ただけで、まさかここまで血を流すとはねぇ。ってか足が痛い.....四季さんなら治す魔術とかも持ってるかな?」
祐は掘削機で削り取られたような穴から地面を見透かすと、けたりと微笑んだ。
「そう言えば金払わねぇとな。えぇっと財布財布っと」
左の後ろポケットに手を伸ばした祐。そんな中、自動ドアが開いた音が祐の鼓膜を揺らす。誰かが入ってきたのだろう。
─────しかし誰が?
ぞろぞろと数人とは考えにくいような足音の連鎖に祐は顔を向ける。
「警察だ!!そこを動くな!!!!」
忘れていた訳では無い。
己が夜行にのみ動くことを許された異能の人間であるという事実を。
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初見でしたら第零話から読んでもらえると助かります。




