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退魔の英雄  作者: 明太子
外界之魔陰
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57 ラーメン屋の一戦

毎日投稿一日目。

ガッチガチに風邪をひいて一生寝込んでました。ってなわけで今日からまた頑張りますのでよろしく


では楽しんでください!!

 イメージは水ヨーヨー

 限界まで水を蓄えたその風船を吊るす紐の先端。それが脳であり意識である。

 紐は上半身であり風船は下半身。分離すれば風船は地面へと堕ちていく。

「もっと細く。それじゃあまだリソースに無駄が生じてる」

あれから数時間の話。

 祐の足元には水溜りが出来ていた。

「んなこと言ったって......これ以上細めると──────だぁああ!!途切れた!!!」

極限の集中による闘力操作は、臨界点を越えぷつりと消失した。

「自分の力に頼った弊害だな。二時間も経って維持は愚か、成功すらできないとは.......」

呆れに近しい軽蔑の眼差しは直視すらままならない。

「ってかそもそも。あれ以上細める必要ってあるのか?」

「あるに決まってるだろ!!死合いの最中は鍛錬中の細さよりもずっと太くなる。今のお前じゃあ練度不足ですぐに力に頼って結果力切れになるのが目に見えてるぜ。事実、零との闘いでそうなったんだろ?」

白鞘の大太刀と比べても遜色のない切れ味に祐は口をバツにして閉じた。

 

 記憶の端から存在した癖と言うのは、三年の月日を千年もの感覚に引き上げる。

 それが無意識のうちに刷り込まれていた体内感覚であれば不治の病と大差がない。

「まぁそれでもその量の闘力をそこまで扱えるのは、才能ね.......それじゃ今日の朝練はここら辺で終わり」

「やっとか...........ん、朝練?.........」

不意に祐の背筋をなぞる寒気。

 鍛錬という文字が朝練に変貌するだけで跳ね上がる威力は、祐の思考すらも打ち崩す。

「これからお前は、四季さんと一緒にパトロール。んで帰って来たら、夕練。────お前が基礎の動きを完璧にできるまで暫く続くから」

祐の否定も疑問も何もかもを受け付けないと言わんばかりに景千代は自室へ戻っていった。

 汗に濡れた服は、重たく上手く風に靡かない。

 荒れた呼吸もまた重たく上手く息を運ばない。ひたすらに酸素を取り込み、二酸化炭素を吐き出す機会と化した祐は空を見上げなけなしに溜息を吐いた。



 苗字のない四季という女性は、やはり機械じみていると祐はしみじみ感じた。

 仕草。言葉遣い。


 そして魔力と。

 京都の街並みをひたひたと歩く二人は景色に馴染んでいるとはお世辞にも言えない。一人はチャラチャラとした白髪で、もう一人は緑に近しい髪。傍からすれば不良のカップつにでも映る様相。

「なぁ四季さん。こういう人通りの多い場所って巡回する必要ある?」

『返答:どうしてですか?』

「素数番街以外でどういう風に怪事件が起きるのかは知らないけど、基本的に人気の無い場所で殺されてるイメージがあってさ」

堅苦しい口調にも慣れた祐は軽やかに言葉を口にする。

『解析:確かに鬼川祐様のおっしゃた通り、かの街ではそのような変死体が多いと考えられます。論理:しかし外の街では比較的突然人が死にます』

「へぇ.....同じ魔陰だってのに、被害状況が全然違うもんなんだ、」

電流と同等。またはそれ以下の速度で魔力の情報が頭に刻まれる。

 反応は祐の方が一歩速かった。だが差は数フレームの話ではある。

「四体.....いや五か」

『報告:純度の高い魔力反応を確認。地理的位置からも人頭は相当と見られます』

魔力の先は四車線を挟んだ向かいの歩道側。ただ頻りと車が走り続け、合間を抜けるのは闘力以前に厳しい話であった。

(上を飛ぶ.....けど、流石にこの人だかりでそれは)

夜行性のように活動する祐にとって、これ程の人間の前での異能は避けたい手なのだ。

「どうする四季さ....ん?」

『行動規定:迎撃態勢に移行。術式:疑似領域と飽和砲撃の両立。対象を殺します』

穏やかな魔力の波長は途端に飛沫を上げた。四季と言う一人の女性がまるで台風の目のように活動し、魔力が辺りに飛散する。

 回転の要領に近しい運動は次第に距離を広げ、高さを広げる。

 祐の知る魔術とは、一癖も二癖も違ったそれは、まさしく本物と言えた。

 偽物の定義など祐は知らない。それでも本物であると確信に及ぶ。

───パチン。と小さく四季は指を鳴らした。命令とも取れ同時に膨れ上がった風船に針を刺すようにも取れる。


 瞬間、五体の魔陰は頭から串刺しにして死んだ。

 それは紛れもなく現実という時間軸の結果である。しかしながら無慈悲で残酷であった。

『報告:五体の魔陰討伐完了致しました。行動規定:日常態勢に移行。提案:では引き続き、見回りを』

何事も無かったように四季は祐に頭を下げた。ヨハンを彷彿とさせる要素は髪色だけではなく、魔術のそれもまた大方であった。

「......魔術ってすげぇ。一々拳で戦うとか阿保らしくなってくるわ」

祐は乾いた笑みを含むと遠ざかる四季の背に駆けた。

 

 二人一組を基本とする退魔の規則。祐の知る中で二人はそれに該当して居なかった。

 那須世嗣と機械式の魔導士。

「そう言えば四季さんって、今日は俺が居るから二人何だよね?」

『返答:そうですね。普段私のような魔導士は一人で感知、迎撃、事後処理、などの仕事をこなせるので経費的な意味でも私は一人ですね』

簡潔な説明は、堅苦しくもよく祐の頭で(ほぐ)れた。

「まぁ実際あれ位の動きがポンポン出来るんだったら、俺みたいな近距離野郎とか要らないしね」

自嘲気味に祐は言葉を口にすると四季は珍しく顔をほころばせる。

『論理:いえ。それは私を過大評価していると言わざるを得ません。現に、魔導士や魔術師とされる人間は至近距離を最たる程苦手とします。この距離間で私と鬼川祐様が殺し合えば間違えなく私は負けると言いきれます。故に私が一人なのは、見方を必要としないからではなく一人である程度をこなせるからという結論に至ります』

「な、なるほど......」

はいそうですね。と肯定すれば良いモノを四季は饒舌に否定する。真面目であり、不器用でもある。

『論理:同時に、鬼川祐様はただの近距離野郎とは明確な違いが存在します』

「何それ?」

祐は顔を顰めながら聞き返す。

『それは魔法の領域に近しい魔力感知です。私の搭載された感知魔術は、魔術としてはこれ以上に無い程の性能を有しています。ですが先程、私のそれは鬼川祐様に一歩後れを取りました。そこから思考して近距離野郎とは言い難いと私は考えます』

「あ、ありがとうございます......」

気恥ずかし気に祐は頬を掻くと、目線を道路へと反らした。

 車の通りは(まだら)でありバスの方が何処となく多く見える。


 何て事のない祐の昼過ぎまでの一時は、主に付く従者のように過ぎていった。

 魔陰を見つけてそれを四季が殺し。

 人が死んでいればそれを四季が保存し。

 人が困っていればそれを四季が解決した。

 機械仕掛けのような四季は、存外に人間臭さがあった。

「そろそろ昼も過ぎたし、飯食いたいんだけど」

街灯の間隔規則を守って立つ時計に目を向けた祐はそう提案する。時刻は十三時二十分。平均的な高校生であれば腹の虫が鳴る頃。

『解答:畏まりました。それでは私は引き続き見回りを致しておきます。十四時頃に鬼川祐様を迎えに行きますので、それでは』

ぺこりと頭を下げると四季は、後ろ髪を引かれる様子もなく祐から離れていった。

「四季さんは........」

言いかけた寸での所で祐は言葉を詰まらせた。くるりと振り返った四季は祐を不思議そうな目で見つめる。

『質疑:どうか致しましたか?』

「.......いや。何でもないよ。それじゃあ後で」

愛想笑いを浮かべた祐に対し四季は丁寧に頭を下げる。本心であるのか組み込まれた行動規定に過ぎないのか、祐にはとんと不明であった。

 

 不意に目に付いた、天下一品に祐は腰を下ろした。昼のピークから一歩引いているからか存外人は居ない。

「中学の頃土屋と一回来たきり行って無かったな......久々にこってり行くか」

蓮華が鈍角から鋭角にゆったりと変動するようなこってり具合に腹を鳴らしながら祐は麵を啜る。

(やっぱし上手い。千二百円なのは痛いけど.....まぁこんなもん毎日は要らねぇしな)

無心に啜る。もしかしたら着ている白シャツに飛び散るかもしれないなど、脳裏にすら映り込まないよう只ひたすらに。

 地表に露呈した断層面かのように丼の端に薄い層が重なる。

 いつ頃から居たのかはさておきとして、祐の隣に一人の男が居た。恐らく外人。しかしながら何の怪奇かその男まるで空気から滲み出当たように現れたのだ。祐は麺を啜りながらその男を横目に見る。

 四十代半ばに洋式の男らしさを魅せるカールする口髭を備え付ける男は、格闘技経験があるように筋骨隆々であった。

「..........Hey.Is there something on my face?」

「ふぁっ?........」

記憶上初めての本物の英語に祐はたじろぎ、啜る麺を止めた。

「So!! Is! there! something! on! my! face!?」

祐の情けない声を疑問詞として捉えたのか、男は一単語一単語を区切り強調する。されど祐には須らく分からない。

「悪い。お前が何言ってるかよぉ分からんけど........





 お前。魔術師だろ」


たった一言。されど一言。そのたった小さな御伽の言葉に男は怯んだ。まるで罠にかかった狐のように。

 罠にかかった狐は足を噛み切り握る。

 随分と残酷であり、野生を奔放と表す表現。それはかの男にも言えた。

 

「I never thought I`d be found out」

どうやら魔術師は、日本語の聞き取りはこなせるようだ。

 にたりと微笑む魔術師を横に祐は残りの麺を啜った。


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初見でしたら第零話から読んでもらえると助かります。

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