この感情は一体
「ねぇ、華椰葉ちょっと待ってもらえるかしら。これから手を組む前に一つ聞きたい事があって」
華椰葉は動きを止めた。
「はい、何でしょう」
「あなたは一色家で詳しいと思うから聞くけど」
一色家と聞いてドキッとする。
「軍は地下人の窃盗を制圧するときに地下人を殺すじゃない?」
「はい」
「それって、殺しを目的として戦っているの?」
一体何を言い出しているんだろう。
殺しを目的?
「殺しを目的とは......そんなことは絶対にありません!軍として、国民の生活を守らなければならないため窃盗犯を追い出す行為として出動します。しかしその過程で軍に危害を加えられそうになる事があり、応戦として対応します。なのでこちらから地下人を殺す目的など絶対にありません......しかし、そういう疑問があるという事ですから地下人の目にはそう映ってしまっているのかもしれません」
そう思われてしまってもおかしくないと、華椰葉は心が痛んだ。
「えぇ、ずっと私はそうだと思って生きてきた。地下人が自由を求めるために必要な金品を揃えようとすると、軍が無差別に殺してくると。でもそうよね、あなたたちの生活を守るためにはそうするしかないんだもの。私たちが自由を求めるためにそうしているように」
ここで初めて燦羅の本音を聞けた気がした。
「あなたを信用している。安易に人を殺すような人ではないこともわかっている。だからこれからもよろしく頼むわ!」
華椰葉の地下街の任務は一旦ここで終了した。
燦羅とは連絡を取り合い、また会うことにしている。
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「憂斗ー」
「なんだよ」
憂斗と泊は2人で手合わせをしていた。
そして少し休憩を取り、水分補給をしていた。
「単刀直入に聞くけど、憂斗は華椰葉のこと好きなの?」
突然の言葉に水が喉を通らなくなり
ゲホゲホっ
「きゅ、急に何を言い出すんだよ!」
「そんな反応するなよ〜! 完全黒の反応だよ」
「一体何を根拠にそんなことを」
「あー、朝霧先生だよ」
◆
「憂斗って華椰葉のこと好きなんでしょ〜!」
「そ、そうなんですか!」
「あれは確実だな! この間だって華椰葉のこと抱きしめてたしな。憂斗はそんなに距離感の近いやつじゃないから怪しいと思って」
「そのとき僕、魂抜けてたときですよね。見ておけばよかったぁーーー!」
◆
「ってことで、どうなんだ」
「......これが好きという感情なのかはわからない。でも、華椰葉にはもう苦しまないでほしい。幸せになってほしいし、守りたいとも思う。でも、今の自分では守れない矛盾もあって......よくわからないんだ」
「憂斗はほんっとそこら辺、鈍感だよなぁー。それが好きっていう感情じゃなかったら、なんていう感情なんだよ!これだから無自覚モテモテ野郎は......」
呆れた顔で泊はその気持ちの正体を教えた。
「そ、そうなのか」
「まっ、とにかく気持ちは思っているだけじゃ伝わらないぞ! ましてや華椰葉なんて、憂斗と同じで鈍感なところがあるからな!」
憂斗の背中をポンっと叩いた。
「なに知ったような口聞いてんだよ! も、もしかして泊はそういう知識あるのか!」
少し照れくさそうに言うと、
「あるわけないだろうが!! そんなもんあったらキラキラなお姉さんと付き合ってるわ!」
怒った。
そのままの流れで休憩は終わり、更に激しい手合わせが開始したのだった。
陽が傾いてきた頃
「あれー、2人ともお疲れ様!」
寮に戻ってきた華椰葉の声がした。
「お! 華椰葉おっつー! 任務帰りか」
「うん! 2人は手合わせ?」
「あぁ、そうだ。でももう終わったから僕は先に帰るよ!」
手合わせしてる最中の気もしたけど......
「そっか! ゆっくり休んでね!」
泊はヒラヒラと手を振ってすぐに部屋へと行ってしまった。
「泊帰るの早いねー!」
くるっと憂斗の方を見る。
するといつもと違う顔をしていた。
夕陽のせいなのだろうか。
顔が少しピンク色にも見える。
「華椰葉」
「ん? どうかした?」
「俺は華椰葉を守れるほど強くはない。でも、華椰葉の幸せのためにならなんでもできると思っている。この気持ちにさっき気づいたんだ」
急にどうしたのだろうという顔で憂斗を見つめていた。
「......好きなんだ。華椰葉のことが」
鈍感な華椰葉は思ってもいなかった言葉を告げられて、ドキッとした。
でもこの心臓の鼓動は、驚きの方じゃない。
辛いとき、自分を見失いそうなとき、そばにいてくれたのは憂斗だった。
自分自身この気持ちに気づかないようにしたかった。
だって私はもう忍術学校を辞めるのだから。
ここで私が好きと言ってしまえばどうなるのだろう。
憂斗をひとりぼっちにさせてしまうのだろうか。
よくない考えばかりが次々と出てくる。
華椰葉は手を握りしめ、
「ありがとう、憂斗」
にこっと答えた。
その答えに憂斗は安堵の笑顔を浮かべ、
「そ、そしたら!」
続きのありそうな言葉を遮り、
「ありがとう、でもその気持ちを受け取ることはできない」
「え」
憂斗は唖然とした。
しかし、華椰葉の顔を見るとどこか苦しそうだった。
これは俺の伝えた事が嫌だったから?
それともそれ以外に何か理由が......
とにかく、理由を聞く気にもならなかった。
「そっか、ごめん。今のは忘れてくれ」
華椰葉は何かを言おうとしたがそれをやめて、憂斗はそのまま部屋へと戻っていった。
「ごめんね、憂斗」




