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抗えない



「忍術学校をやめなさい」



突然のことだった。


「い、一体なにを言っているのですか」


「色々と予定が変わってな」


「予定って、私は必要ないから忍術界に売ったのに、今更戻れって......私の人生は一体なんなのですか!」


華椰葉は手をぎゅっと握りしめた。


「今回に限っては今すぐとは言わない。2年生になる前に辞めればいい」


「......」

すぐにではないことで、これまでと比べればまだ良い方だという考えになってしまう。


「そもそも華椰葉も続けるのは不可能だと思っていたろ。2年からは青森校になり、軍との両立はできないからな」


「では、忍術学校ではなく軍を辞めさせるという選択肢はあるのではないですか」


キリッとした目で父親を睨む。


すると父親は笑いながら、

「華椰葉も軍は辞めたくはないだろう」


図星だ。

今更辞めるだなんて、そんな無責任な事はしたくはない。


華椰葉の思っている事は父親は全て見通しているのだろう。


「とにかく、そういう事だ。退学に関しては年度末までにこちらでも話をつけておく」


華椰葉はその言葉に返事もせずに部屋を出ていった。







「そんなにぼけっとしててなんかあったのか」


「うわっ! 憂斗」


夕食を食べているとちょうど憂斗も夕食の時間だったようだ。


「気づかないなんて、よっぽど悩んでいるんだな」


「いや、考え事をしてただけ!」


憂斗は華椰葉を少しの間見つめていた。


そして、

「来週からまた、新しい任務らしいな」


「うん、そうなの! 私が地下人のことを軍人としての立場からではなく知りたいと思ったから。地下街の任務をお願いしたの」


「地下街の任務は普通やりたがる奴はいないから、人手不足なんだよな」


そう、地下街の任務は誰もやりたくない。

まず犯罪者が送られる地域は無法地帯。その印象だけで忍者は行きたいとは思わないだろう。また、情報を集めたところでどうという話ではないから報酬も少ない。事が起きれば軍が制圧してくれている分、忍者が足を踏み入れる必要もないのだ。


「とにかく無理すんなよ」


「うん、ありがとう」


その言葉を聞くと心の底から安心して、いつもはありがたいと思える。しかしこの時は、退学のことを考えていて華椰葉の心に響く事はなかった。



そして、心に響いていないことを憂斗は気づいていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



地下街任務がはじまる。


朝霧先生曰く、忍術界が持つ地下街の情報はほとんどないからどんな内容の調査でも構わないそう。


忍術学校では任務として指示された情報を収集することと、いつか売れそうな情報を収集しておく2パターンがある。

依頼などそう頻繁にあるものではないから、最近は後者が多い。


華椰葉は地下街に潜入して、地下人が窃盗を繰り返す理由を突き止めて犯罪が地上で起きないように阻止する事。そして、地下人がなぜ忍術を使えるのかを調査する。


軍人一色華椰葉としての敵は一体誰なのか、どのような組織なのか。





そして華椰葉はある地下街に到着した。

そこは陽が差し込まず暗くジメジメとしているものの、一昔前の地上のような景色が広がっていた。


食品を扱う店があり、酒を飲む場所があり、広場では子どもたちが楽しそうに遊んでいる。


先日出会った地下人の忍者Xが言っていたように、みんながみんな窃盗犯ではない。


華椰葉は地下人になりきり、目立たないようにしていた。


そう、今回の任務は忍者の格好で行くものではない。

侵入することだって簡単な事。

だから普通に地下人として見られればそれでいいのだ。


それでもやはり華椰葉の美しさは目立ってしまうようだ。


「あら、そこのお嬢ちゃん。美人さんね! ちょっと手伝ってくれないかね、人手不足で」

中年の女性が話しかけてきた。

飲み屋の店主なのだろう。


困っている人を放っておけないし、飲み屋はいい情報源にもなるからと手伝うことにした。




ザワザワ




「やっぱりあんたみたいな若い子がいると繁盛するもんだねぇ! ありがとさん華椰葉ちゃん」


「いえ、とんでもないです! それより何も分からずすみません」


そう、華椰葉はここまでラフな飲食店に行った事がなく、接客方法がわからなかったのだ。

しかし店主が優しく教えてくれたため、やっと調子が出てきた。


「お嬢ちゃん! ビールおかわり!」

「はい!」

「俺もよろしく!」

「もう2杯頼む!」


そして、だんだんと酒が回ってきている様子だ。


すると、


「くそーっ! もうここでの暮らしは懲り懲りだ! 早く地上での生活がしてぇ」


華椰葉はその言葉を聞き逃さなかった。


「あぁ、そうだな。1日も早く陽を浴びて、美味い飯を食って、まともな仕事を見つけたい」


飲むペースも落ち着いて、仕事がなく暇になっていた華椰葉は

「あのぉ、例えばどんなお仕事をしてみたいのですか」


男たちは急に話しかけてきた華椰葉に一瞬驚くが、先程までの働きっぷりを見ていて親近感が湧いたようで、

「ずっと立ってるのは疲れたろ! この椅子空いてるからよかったら座って話そう」


「あ、ありがとうございます!」

そう言って空いている椅子にちょこんと座った。


「で、どんな仕事かって話だな。そうだなぁ......農家とか、先生とかだろうな」

「おお! いいなそれ! 俺もやってみたいな」


「農家と先生......その理由はお聞きしてもいいですか」


「あぁもちろんだ! 農家は地下街ではできない仕事だからな。たくさんの陽を浴びて、たくさんの水を撒きながら美味しい野菜を育てる。憧れるよなぁ」


そう、農家は地下人にはできない仕事だ。


「先生ってのは、もっと子どもたちにこの世界について知って欲しいからだ。どうせ今俺たちのいる地下街なんてゴミ溜めくらいにしか思っていないのだろう。でもそれは違う。一生懸命に国に抗おうと生きているんだ」

1人の男がそう言うと、

「そうだ。俺たちは盗みなんかしたくない。地下になんか居たくない。どれだけ昔の先祖が地上で盗みを働いたのか俺たちは知る由もない。ただここに生まれ落ちたんだ」


「その......国に抗おうとしていて、でも盗みをしたくなくてとは......盗んで国への対抗心を表明するのではないですか? 失礼ですが一貫性がない気がするのです」


「ははっ! 面白いことを言うな! 確かに一貫性がないように感じるだろう。でも、国に抗う力を保つためには金品が必要なんだ」


「それは...... 武力的にってことですか!」


「当たり前だ。武力を行使せずどんな解決策がある。対話なんてもってのほかだ」




そうか、私たち地上人は地下人との対話を求めた事があっただろうか。

野蛮だから対話なんてしてくれないと決めつけている。実際今、こうやって私と話してくれている。

野蛮だったのは......私たちなのでは。




「もう閉店時間だからお開きにしてちょうだい!」


「あぁ、もうそんな時間か!」


「今日は手伝ってくれてありがとさん! 明日もまたきてくれると嬉しいんだが、どうかね」


「もちろんです! 手伝わせてください」




こうして華椰葉は飲み屋の手伝いをしながら、情報収集をしていた。



飲み屋の手伝いをして5日たったある日。


カランカラン


扉が開いた。



「ただいまー」



入ってきたのはあの時の?!




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