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全てはお前のせい

 先生が先導して皆を非難させる。その中央にいる楓の野球部が前後に居てバットで逃げない様に捉え続けている。


「ねぇ、みんな? 本当にあたしを置いて行くの?」


「ごめん」


 教室を出て廊下から階段に向かう途中に扉がある。そこは倉庫になっていて普段は授業で使う物を置いていた。扉の前について立ち止まり宝塚が扉を開けると倉庫への道が開かれた。楓が歩くための道が。


「嘘でしょ? あ、(あきら)? どうにかしてよ」


 こんな時に俺を頼ってどうするんだ……俺自身も飲み込めて無いんだよ。それになんだろう、不謹慎かもしれないが皆のアイドル楓ちゃんがこんな仕打ちを受けている事について何も思う所が無い。


「緊急事態っぽいし楓はそこで待っていてくれ」


「置いてくの? どうして? あたしが美穂に噛まれたから一人で此処に居ろって言うの?」


 懇願する表情の楓に宝塚が追い打ちを掛ける。


「何が起きるか分からない。だから、少しの間だけ此処に居てください。何も無ければすぐに助けますから」


 そう言って宝塚が聡に視線を合わせた。それを合図に聡がバットを前に向けて楓を倉庫へと追い込む。迫りくるバットにたじろぎながら倉庫へと歩みを進めた。そして、倉庫に入ると扉を閉めようとした瞬間に楓が声を上げる。


「待って! 噛まれたって言うなら玲も噛まれてる!」


 こいつは何を言ってんだ? 俺は誰にも噛まれてない。しかし、その声を聞いた皆が俺を見る。


「宝塚? 俺はずっとお前の近くに居たよな? だから、噛まれてないって」


「玲の腕を見てよ。ケガしてるでしょ?」


「これは今朝転んで……」


「玲ごめんな」


「おい、嘘だよな? これは噛まれてないって」


 俺に関しては扱いが雑だった。皆で倉庫へと放り込むと扉を閉める。


「おい、ふざけんなよ。開けろよ」


 反対側で誰かが抑えている。そして、声が聞こえた。


『机を持ってこい』


 その声のあとガチャガチャと机を運ぶ音が聞こえる。


「おい宝塚ァ! 開けろって。おい! このくそデブ」


 お前だけは俺の味方じゃねーのかよ。ちくしょう。


「待っててくれ玲、絶対に何も無ければ助けに来るから」


 くそデブの声が響いて足音が去っていく。


「おいデブしね! マジでふざけんなよ。なんで俺が……」


 そうだ。全ては楓が悪い。俺に濡れ衣をきせて倉庫へと追いやったのはこいつが元凶だ。


「おい楓」


 振り向くと倉庫で座り込んでいる楓がいる。


「お前が変な事を言うから俺まで閉じ込められちまったじゃねーか」


「だって……皆が怖くて……」


「ふっざけんな。お前ひとりで閉じ込められてろよ」


「はぁ? 幼馴染を一人にするき?」


 何で俺はキレられてるんだ? こいつは昔と違って本当に糞だ。


「お前なんかが幼馴染なだけで俺の人生は狂ってんだよ。考えた事あるか? なぁ? ねぇよな? お前に命令されて無視した時の周りの視線を知ってるか?」


 本当にこいつはムカつく。


「だって……玲は……」


「知らねぇよ。それに何だよ。マジで開かねぇじゃねーか。はぁ……」


「ねぇ、あたしどうしたらいいのかな?」


「俺が知る訳ないだろ?」


 クッソウザいのに今にも泣きそうな顔で見るなよ。まるで俺が悪者みたいじゃねーか。泣きたいのは俺の方だよ。


「とりあえず待つぞ。くそデブが言ってただろ? 何も無ければすぐに開くさ。それまでは大人しく一緒にいてやる。だけどよ楓! ここから出たらお前とは絶交だ。今後の縁を切る。今までは幼馴染のよしみで目を瞑っていたけど我慢の限界だ」


「……ごめん」


 そこから楓は黙って静かになった。倉庫の大きさは教室の半分以下くらいの大きさで物が乱雑としている。窓が一つだけあり、そこから見れる景色が外の情報を得る唯一の場所なのだが、道路が薄っすら見えるだけで広くは見渡せない。俺は取り合えず倉庫の電気を付けて床に座ることにした。この倉庫には誰が置いたのか知らんがボロいソファーが一つだけ置いてある。二人掛けの黄色いソファーはシミだらけで見た目は汚い。でも床に座るよりはマシかもな。


「そこに座ってろ」


「うん」


 俺の言葉に従い楓はソファーに近づくと大人しくソファーに座っている。こいつと二人っきりなんて何年ぶりだ? 見て分かるくらい落ち込んでいる。気まずいな。


「どうせアレだろ? 美穂も何か疲れていただけだよ。立ち眩みみたいな? それで皆も気が動転しててさ。あのタイミングで携帯電話も警報がなるしびっくりしただけでよ。一時間もすれば落ち着くだろ」


「そう……かな。美穂の顔が何か怖かったの。それにあたしは見えなかったんだけど皆で外の様子を見てたよね? 何を見ていたの? 腕がとか聞こえたんだけど」


 俺はそっと思い出す。車が事故を起こしていて校庭には、とぼとぼと歩いている人の白い服に赤い模様が入っていた。その人の片腕が無い様に見えたが、最初から無い人かもしれない。表情までは距離があって見えなかったが……。


「気にすんな。何かの見間違いだろ? それに警報なんて誤作動の可能性もあるしさ」


「そう……よね。すぐに、ここから出れるわよね」


 携帯電話を持ってれば良かったな。あの時は警報を確認した後に机の中に仕舞ったのは失敗だ。席を立ってからは一気に物事が運んでついていけてない。何をしたらいいのか分からない。


「楓は携帯電話とか持ってないのか?」


 俺が持っていなくてもこいつが持っているかもしれない。


「あ、ええっと……あるけど電池切れてる」


「つかえねーな」


「……ごめん」


 いつもなら悪口を言いそうなのに調子が狂う。それから俺達は黙ったまま助けが来るのを待っていた。あれからどのくらい経っただろう……体感的には一時間くらい過ぎたんだけど最初と違って叫び声も聞こえなくなってきた。みんな遠くに避難しているのかな……安全が確認されたら戻ってくるだろうしもう一時間くらい待てば助けが来ると思う。


 そんな事を考えながら呆けていると楓が俺の様子を伺っている風に見えた。


「どうかしたか?」


「その……」


「はぁ? 聞こえねーよ」


「……おしっこしたい」


 恥ずかしそうに顔を背けながら楓が聞こえるくらいの微かな音量で言った……聞きたくなかった。

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