日常は崩れ去る
東里 玲「とうりあきら」
主人公。ぼっちで運動してて体力はそこそこある。
西城 楓「さいじょうかえで」
幼馴染で染めた髪に緩いパーマはお姫様みたい。噛まれる。
宝塚 理人「たからづかりひと」
俺の大親友で少し太めのゲーム友達。後のくそデブ。
桜井 深雪「さくらいみゆき」
楓の友達で仲が良い。たぶん殺す。
北山 聡「きたやまさとし」
陽気な奴で野球部のエース。頼れる兄貴だが玲は聡が嫌い。
幼馴染ってさ、夢があるじゃん? 小さい頃から一緒に過ごすと知ってる仲っていうかさ。そりゃ、あの頃は楓も可愛かったよ。
「玲くん、一緒にあそぼ!」
とか言ってついてくるのよ。俺も可愛いと思ってたし一緒に遊んでいたさ。
「しゃーねーな。今日は何しようか」
そう言って可愛い楓と遊んでいた記憶は遠くて古い。幼馴染は頼れる素敵な存在とか幻想だよ。
「ちょっと、玲? 早く行けよ。あんたが急がないとあたしのお昼ご飯が無くなるんですけどー?」
本当に変わったよな楓……いつも俺の後ろをついてくる可愛い幼馴染の面影なんて無い。そりゃ、俺から見ても可愛いよ? 髪の毛は染めてギャルっぽいけど軽くパーマを掛けてお姫様って感じでな。
「なんで俺が……」
「はぁ? あたしが命令してるんだから早く行きなさいよ」
クラスのみんなも見慣れた光景で今更こいつを止めようとはしない。っていうか、クラスのみんなも俺を楓の犬だと思っている。
「楓がお願いしてるんだから行きなよ」
楓の友達――深雪もそんな言葉を俺に掛ける。人って変わるよなぁ……深雪とは同じクラスになった事があるけどもっと優しい目をしてたよ? 今は虫けらを見るような目に変わってる。
俺はクラスでも冴えない部類の人間……そりゃ、引っ込み思案な所は認めるよ。皆の人気者とは真逆で俺は目立つ人間じゃない。そんな俺だから楓に命令されて知り合いには変な目で見られるのかな。
「東里も行ってあげなよ……西城さんも困ってる見たいだし……」
「宝塚まで、俺を虐めるのか……」
俺と放課後は空き部室でたむろってる少し太めの親友は西城楓に弱い。そりゃ、見た目は可愛いしアイドルって感じだから分からなくも無い。だけど、俺をもっと助けてくれてもいいんじゃないかな。
「僕は虐めて無いよ。ほら、西城さんが困ってるみたいだし……」
宝塚理人! おまえが甘やかすから楓も調子にのるんだよ。
「しゃーねーな。行ってくるわ」
「さっさと行けばいいのよ」
学校の昼食時間。俺は購買部に向かうために教室を出た。俺自身は弁当を持参してるから出る必要の無いはずなのに!
憤りを感じる。楓に対して俺の対応が悪かったのかな。小さい頃は楓を虐める奴をやっつけたりしてたのにこのザマだ。スクールカーストとか俺が知らないだけで実はあんのか? バカバカしい。普通は平等だろ? イケイケな陽気キャラも楓を上げて俺を下げる。理不尽だと思う。
「あら東里くん。今日はお弁当を忘れちゃったのかい?」
「おばちゃん。俺は忘れて無いんだけど楓の奴がさ……」
「あらあら東里くんは西城さんに優しいのね」
俺が優しい……購買部のおばちゃんは何も知らない。なら、そのままでいいや。他人に優しいという評価は悪くないと思う。実際は都合の良い御遣いなんだけどおばちゃんは知らなくてもいい。
「鮭おにぎりと焼きそばパンをお願いします」
「あいよ」
小さい頃を思い出す。俺が鮭おにぎりで楓が梅おにぎりを選んで二人で食べていた。
「玲くん。梅が食べられないです」
「あー、楓にはまだ早かったか。俺の鮭と交換するか?」
「うん! ありがと玲くん、鮭美味しい」
そんな思い出があるし、鮭でいいだろ。アイツ我儘だからついでに焼きそばパンを控えておく。教室に戻ると楓が俺の姿を見つけた。
「買ってきた?」
「鮭おにぎり」
「はぁ? これだけ? あんたはおにぎり一個で足りるの?」
「……あと、焼きそばパン」
「あるなら早くいいなさいよ。このグズ」
神様、俺は楓との付き合い方を間違えていたのかな……気持ち悪い幼馴染も昔は天使だったんだよ。俺はそっと手を差し出す。
「何その手」
「え、お金……」
「ある訳ないじゃない。あんたの奢りよ」
「はぁ? ふざけんなよ」
わざわざ買ってきてやったのにこの仕打ち。
「あんたもあたしに奢れるんだから光栄でしょ? あんただけなんだからね?」
そんな特別待遇は要らない。
「もういいよ」
俺はそっと席に座って弁当を食べる。宝塚に至っては既に食べ終えて携帯でゲームをして遊んでるなぁ。まぁ、いいさ。一人で美味しく弁当を食べますよっと。
昼食を食べて机で寝ていると午後の授業が始まるチャイムが鳴った。楓のせいで終わるのが早く感じる。この幼馴染とお別れしたい……運悪く高校最後の一年が同じクラスとかマジで地獄だろ。
「午後の授業を始めます」
先生が教卓についた時に異変が起きて、一斉に電子音が鳴り響いた。どうせ避難訓練とか遠い所の津波か地震の速報か? もし地震なら逃げるルートを考えないとな。津波は海が遠いので考えなくてもいいはずだ。
そう思いながら俺は携帯電話を開いた。クラスの皆も先生も全員が確認する。緊急事態ならそれこそ迅速な対応が必要なはず……なのだが内容が変だな。
「先生! これってどういう事ですか?」
「うーん。わからん。悪戯か何かの間違いか……」
携帯電話に来た警報の内容は一度読んでも意味が分からなかった。要約すると、日本中で暴動が起きているので自宅に待機してくださいという内容……暴動?
すると、車が何かにぶつかった音が聞こえた。クラス内の興味はその轟音に奪われる。
「あ、見て……変じゃない? あの人」
窓際の奴が校庭を指さしながら叫ぶ。俺も窓際の席に近いので指した方向を見ると女の人が歩いていた。白い服は赤に染まりとぼとぼと酔っ払いの様な足取りで校舎に向かっている。何よりも異質に感じたのは……。
「あの人、腕が無い……よね?」
あぁ、俺の目でも見える。片腕が無い。そこから点々と赤い――血が流れている。クラス中がざわついた、先生も生徒も野次馬の如く全員が窓際に押し寄せる。
「あれって何かの撮影?」
「でも、腕が無いよな」
「誰かの悪戯?」
そんな声が響く。この現状は何だろう……俺達が歩く人影を眺めていると遠くに見える道路で車が事故を起こした。
「あっちで事故ったよ」
「あー、マジだ。俺初めて見たよ」
「え? 火が出てない?」
教室から見える風景はいつもと違って騒がしい。そんな中、ゲームオタクの宝塚がそっと呟いた。
「ゾンビ……かな? 僕はゲームや映画でしか見た事ないや」
宝塚の声を聞きとれた人が顔を見合わせる……まじか? 本当か? と言った疑念の表情で生唾をのむ。
「あ、美穂! 大変な事になってるっぽいね」
楓の声が聞こえた。窓から遠い位置にいる楓は人込みに押されて窓に近づけていない。だからこそ、彼女は気付くことが出来た。教室の出入口で美穂が立っている事に。
でも、様子がおかしい。廊下と出入口を行ったり来たりして廊下側の窓に頭をぶつけたりしている。美穂は確か、楓の友達で偶に遊んでいた記憶がある。
「ちょっと、美穂大丈夫? 体調悪いの?」
そう言って楓が扉に手を掛けた。その瞬間に宝塚が叫ぶ。
「楓さん! あけちゃ駄目だ!」
「えっ?」
ガラガラと開く扉の音に反応して美穂が楓に近づく。その顔は虚ろで生気が感じられない。とぼとぼと近づいて楓に両腕を上げながらゆっくりと近づいていく。
「どした? 大丈夫って美穂?」
「西城」
北山聡が楓の手を引っ張った。彼は野球部で皆の人気者、そして宝塚の声を聞いていた一人。
「きゃっ」
楓が引っ張られる事で体制を崩してしまった。美穂も前のめりに倒れ込む。
「ちょっと、聡? 何すんのよ! いたっ」
美穂が楓のローファーに噛みついている。この光景が異質だった……知り合いが幼馴染の靴を噛んでいる。聡は美穂に蹴りを入れると楓を引っ張った。獣の様に唸る美穂に視線が首付けで教室内に静かな沈黙が訪れる。しかし、聡がその沈黙をぶっ壊した。
「おい宝塚。さっきゾンビとか言ってたよな? 俺はどうしたらいい?」
「えっ、あ、ええっと。とりあえず隔離だ! その人を隔離しよう」
「分かった。皆も手伝ってくれ」
聡が机をひっくり返して美穂の周りに敷き詰める。彼女は身動きが取れずにゴツゴツと机にぶつかって藻掻いていた。
「これでいいのか」
「た、たぶん」
心もとない返事だ。それを見ていた先生もどうしたらいいのか分からない様子。
宝塚が神妙な面持ちで楓を見ている。いつものアイドルを見る目とは違っていて不気味だった。
「西城さん……さっき痛いって言ったよね?」
その一言でクラスの皆が楓を見た。
「え、さっき靴を噛まれて……」
「……感染した。聡! 西城さんから離れるんだ!」
楓は理解出来ない様子で怯えていた。教室内の三十人程の視線を浴びる事なんて珍しくない。しかし、その視線に恐怖が混ざっていれば話は別だ。
「皆どうしたの? 何かの冗談?」
野球部の聡は教室の後ろにある自分のロッカーからバットを取り出した。
「聡? ちょっと、バットなんか向けてどうしたの?」
「動くな西城」
「え……」
バットを向けられるなんて経験したことない。楓もそうだろう。怯えた様子で皆を見ている。
「先生!」
宝塚は見ているだけの先生に向かって叫んだ。
「は、はい! 何ですか」
「避難しましょう。様子が変です。西城さんは隔離しましょう」
「ままま、待ってください宝塚さん。西城さんも一緒に避難を……」
「見て分からないんですか! そこに襲い掛かってきた人が居るじゃないですか。西城さんも襲う様になりますよ」
「で、でも」
この先生は新人だったな……すぐに行動を起こす事が出来ない様子だった。俺自身も状況が理解出来ない。その状況に油を注ぐように周りから悲鳴や怒鳴り声が鳴り響いた。
「先生! 早くしないと!」
「分かりました! 皆さん落ち着いてついてきてください。西城さんは倉庫で待っててください」
「嘘よね? え? みんな? 深雪もおかしいと思うわよね?」
そう言われた友達の深雪は視線を外してごめんと呟いた。
深雪の言葉を聞いて楓は目を大きく見開いて絶望していた。
パニックでゾンビです。
全国の美穂さん申し訳ないです。まだ初期症状なので治る可能性はあります!
治しませんが!




