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外界機兵アナザイム  作者: 紅陽炎
21/31

21:スリーピングなんとか

体が宙に浮いているような、

非常にあやふやな意識が徐々に形作られている。


和弘はふと自分が眠っていると自覚した。

いや、眠っているのではなく、

眠りから覚めようとしているといった感覚。


自分は何をしていただろうか?

同時に混濁していた記憶が組み立てられていく。


眠っている麻由を起こそうとしたはずだ。


最初に思い出した思考がそれだった。

故に、目を開けた時に麻由の顔が見えた時に

和弘は言った。


「……逆じゃないか?」


麻由は和弘を目が合うと

和弘の寝ていたベッドから逃げるように離れた。

そんな麻由の様子に気づくことなく、

和弘は起き上がって周囲を見渡した。


「ここ、何処だ……?」


麻由の様子よりも周囲の異常な光景があったからだ。

まず目に映るのは緑。見渡す限り木々が生えている。

木々は奥までずっと生い茂り、その先は見えない。


言うならば、そこは森の中だった。

その中で和弘と麻由のいるところだけが

ぽっかりと空間を開けたようになっている。

空を見上げると円形に開かれた青空が見えた。


(外……?)


取りあえず和弘はベッドから降りる。

落ち葉によるカーペットが葉擦れの音を鳴らす。


和弘が寝ていたベットはアルミパイプで

出来ているような簡素なもので、

この場面に似つかわしくなく、

シュールさが際立っていた。


せめて模様だけでも周辺の木を意識したものであれば、

おとぎ話の雰囲気に似合うのではないかと思い、

一度、麻由に視線を向け、またベッドに戻した。


「やっぱり逆だな」


どうせならお姫様が寝るべきだろう。

和弘はそんなこと思った。

恐らく彼の頭はまだ寝ぼけていた。


だが、今はそんなことを考えている場合では無い。

ようやく現状に気づいて麻由に声を掛けようとして、

ここでようやく和弘は麻由の様子がおかしいことに気が付いた。


和弘から一定の距離を取り、

顔を合わせず、かと言って離れもせずに、

こちらの様子を伺っていた。


「なぁ……」


出来るだけ気さくに言ったつもりだったが、

ビクッと反応して、近づいた分だけ距離を取る。

以前、小動物みたいだと思ったことはあったが、

今の彼女は怯えた小動物のようだった。


(参ったな……)


ガリガリと頭をかく。

現状が分からないなら分からないで、

同じ情報を共有できる人がいれば、

それだけで気は楽になるものだ。


取りあえず麻由と会えれば、

何とかなると気楽に考えていただけに、

その前の時点で躓いてしまった感じだ。


「取りあえず歩いてみるかなぁ」


麻由の方をチラチラと見ながら、

考えた言葉をそのまま口にする。

何か反応してくれればなといった希望的観測と、

これからの行動指針を伝える為だ。


本来ならば説得が先かもしれないが、

この場が危険なら、すぐに移動しなければならない。


(そう、考えたけど……)


やっぱり説得が先なのだろうと思い直す。

何に怯えてるのかしらないが、

麻由がこんな様子では気になってしょうがないし、

何かあってからでは対処できない。


(どうせ対処できそうにないけどな……)


和弘は一人自嘲する。

いつも肝心なところで自分の無力さを痛感する。

自分以外の人間ならば、もっと適切な行動を取るに違いないと。


しかし和弘にはそれが出来ない。

自分に出来る事など殆どない。

それが適切でないとしても、他に方法を知らなかった。


「麻由……えっと、大丈夫か? 怪我とかは、無いか?」


言いながら、どうしてもっとまともな言葉が出ないのかと一人で悔いる。

あれほど頭で考えているのに口から出るのは、

ちゃんと通じるかも怪しい自分の言葉。


麻由はハッとしたように顔を上げ、

和弘を見て、何かを言いかけようとして口を開こうとして、

また口を閉ざして俯いてしまう。


(駄目か……)


もっと他に適した言葉があるのは分かっている。

それは分かっているのに、その言葉が分からない。


(嫌われてるようじゃないのは確かだけど……)


麻由は別に和弘から逃げるわけじゃない。

一定の距離を保っているし、こちらの様子を伺っている。

それでいて何かを言おうとして結局止める。

その行動を繰り返していた。


麻由の苦しそうな表情を見れば、

こちらの外見がおかしいという意味ではなく、

彼女自身の問題だということがは和弘でも分かる。


しかし和弘はそれを後押しする言葉を持たない。

だからこそ麻由から口が開くのを辛抱強く待った。


「どうして……」


「ん?」


「どうして怒らないんですか?

 どうして……責めないんですか?」


ようやく口を開いた麻由の言葉は悲鳴に近く、

その顔は泣きそうに見えた。


「私は……和弘さんを見捨てたんですよ!?」


「まぁ、知ってたしな」


和弘は当然といった様子で返答する。

実のところ和弘は麻由の行動に対して特に怒ってはいない。

あえて言うならば『やっとこの時がきたか』である。


そもそも和弘は別世界に来たことに関して

『折角、拾った命だから前向きに生きて行こう』

などとポジティブに思えなかったのだ。


様々な符号や違和感、調べて分かる情報などを

突き詰めていった結果、和弘が得た結論は

『俺はそのうち殺されるのか』である。


あえてポジティブな部分を挙げるなら

『可愛い女の子の為に死ぬのなら、まぁいいか』

そんなところだろうか。


だからこそ麻由が脱走した時、

和弘はすぐに後を追うことを決めた。

自分が殺される為に。

おそらく麻由がそう望んでいるだろうと考えて。


ところが麻由の考えは違っていた。


和弘の実力ならば自分がいなくても大丈夫だと思っていた。

和弘を生かす為に、わざわざ置いてきたのだ。


その助けようとした和弘が自分を助けばっかりに、

得体の知れないこの場所で、死ぬかも分からない状態になっている。

そのことが自己嫌悪となって麻由を苦しめ自暴自棄にさせていた。

しかしそれに和弘は気づいていない。


故に、二人の考えは似てるようでまるで正反対だった。

この状況で会話をしても、意味が通じているようで通じていない、

すれ違いのような違和感を感じるのである。


言葉を交わしていくうちに

和弘の焦った顔が、麻由の泣きそうな顔が、

段々と疑問顔に変わってくる。


すなわち、


(なんか変だな)


と。


どうもおかしいと、二人して薄々勘づいてきたようだった。

このまま話を続けても、何の進展も無いだろうと。

根拠は無いが妙な確信が二人にはあった。


それに気づくと、あれだけ荒れていた心が

冷や水を被せられたように一気に冷めてしまった。


「一度、二人でちゃんと話す必要があるな」


「そ、そうですね。

 ここも何処だか分かりませんし……」


二人がほぼ同時に落ち着いたのは息がいいのか悪いのか。

和弘の言葉に麻由も頷いて、

この状況を把握しようと辺りを見回した。


≪話は終わりましたか?≫


不意に聞こえた声に、

思わず和弘も麻由もビクリと震わせる。


それは異質な声だった。

人の言葉を喋る声に混じるエコーとでも言おうか。

まるでスピーカーを通したような機械的な声。


間の抜けた空気が緊張し、二人を支配する。

声のする方向に目を向けると、

そこはさっきまで和弘眠っていたベッド。


だが、誰もいなかったはずのベットには、

蒲団が掛けられており膨らんでいる。


(いつの間に!?)


明らかに誰かが眠っている。

いや、先程声を掛けたのがコイツならば、

今まで寝ていたということになる。


二人の知らないうちに?

どうやって?


ベッドの主はゆっくりと起き上がる。

自分の起きるときもこうだったのかと、

和弘はそんな場違いな感想を抱いた。


それは子供だった。

くせのある髪は短くボーイッシュな雰囲気を感じさせ、

少年とも少女とも取れる中世的な顔立ち。


しかし、その瞳に光は無い。

本来、人を和ませるはずの笑顔も

感情を感じさせないものだった。


≪自己紹介をさせて頂きます。

 私は中央政局管理局拠点機監視用個体No.600309-A。

意思疎通用デバイスです≫


機械音声で挨拶する少年とも少女とも分からない子供。

その言葉を和弘は何も理解することが出来なかったが、

麻由には理解出来たようだった。

その震えた指先で子供を指す。


「……調停、者…………!?」


麻由の震えた声に対して、

子供の声はどこまでも機械的だった。


≪そう認識頂いて結構です≫


調停者と言っていた麻由の言葉には和弘も聞き覚えがあった。

ただし噂として、だ。


そして和弘はその噂は事実無根の都市伝説だと思っていた。

いくら和弘が政治に興味が無くても、

世の中がそんな簡単に回ってないことは想像できる。


(聞いた話は悪者退治と人類の数調整とか言ってたが……)


異常とも言えるほどに震えている麻由がいるせいか、

和弘は冷静でいることが出来た。


麻由の様子からして、目の前の子供が嘘を言ってない事は分かる。

しかし噂通りの存在かと言えば、とても信じることは出来ない。


(政治家のスキャンダルだって、

 仕事の良し悪しと関係無い所もあるしな……)


ならば噂とは別の部分、それも深い部分で

世界に影響する存在ということだ。

和弘が想像しえない程に深い場所に。


そんな存在が和弘と会うのか分からない。

それならば本当に会うはずなのは麻由の方なのか。

しかし和弘の考えを読んだかのように子供は話す。


≪春日和弘、我々の目的はあなたです。

 あなたは我々に対して選択する資格を得ました≫


「資格……?」


思い当たることが何も無い和弘は麻由の方を見るが、

麻由も首を横に振るだけだった。


そもそも何も分からない。

ここが何処なのかすら。


「申し訳ないけど、どういうことか一から説明して欲しい」


思えば分からないことだらけだ。

麻由が勝手に出て行った理由も不明のままで、

答えの出ないまま、立て続けに分からないことが増えていく。

これ以上考えても思考が悪い方向ばかり傾いてしまいそうだ。


≪その前にあなたは選択をしなければなりません≫


そんな和弘の思いをも子供は無慈悲に打ち砕く。

一体、何を判断して選べば良いのか。


≪今、ここで我々のことを知れば後戻りは出来ません。

 しかし、何もかも忘れるのであれば、

 今まで通り操縦士に戻ることが出来ます≫


もし、この場に和弘一人ならば、

逆切れでも起こしていたかもしれない。

あるいはヒステリーか癇癪か。


しかしここには麻由がいる。

そのことが和弘を自暴自棄になる一歩手前で踏み止ませていた。

微かに残った冷静な部分が訴える。

元々の目的は何だと。


(俺は麻由と話をして……いや、違う)


元の生活が心地よかった。

しかしそう思っていたのは和弘だけだったようだ。

ならばこそ、言って欲しかった。


(せめて話をしたかったんだ。

 理屈だけでも納得できるように……)


少なくとも調停者のいざこざに巻き込まれる為ではない。

子供はただじっと和弘の言葉を待っていた。


「麻由は、どうなる?」


≪どちらにしても然るべき処置を取ることになります。

 あなたは彼女の役割を知っていますか?≫


分からないなりに考えた末の言葉を質問で返され、苛立ちが増す。

その為に思わず口から出かかる怒鳴り声を無理矢理飲み込んだ。


(それをこれから聞くところだったんだよ!)


ここで爆発してもどうにもならないだけでなく、

むしろ状況が悪化することだけは和弘にも分かった。


子供がダダを捏ねても親が言うことを聞く可能性は少ない。

ましてや相手は人ではないのかもしれないのだ。

より合理的に判断することだろう。


「知らない……」


≪桜木麻由は正規に認められた整備士ではありません。

 今まで放置していたのは特に害が無いと判断していたからです≫


麻由が正規に認められた整備士でないのは知っている。

整備士は操縦士と相性の良い者が選ばれる。

そもそもこの世界の人間ではない和弘につく整備士など、

選ばれなかった者しかあり得ない。


しかし、それが今どういう意味を持つか

という所までは和弘の頭は回らない。

和弘はヒーローではない。凡人だ。


≪もし、あなたがいつも通りの生活を望むのであれば、

 従来通り、あなたには然るべき精査をした後に

 相性の良い整備士が付くことになります≫


ここまで言われてようやく和弘も気づいた。

選択の余地は無かったのだと。


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