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外界機兵アナザイム  作者: 紅陽炎
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20/31

20:補欠の溜まり場

この世界では別段航路がこれと決まっているわけでは無い。

補給艦へのルートは確保すべきであるが、

最終的に着けばいいのであって、

どういうルートを通るかは自由である。


これの意味をするものは、

暗雲を避けて進めるということだ。

誰だって嵐の中を行こうとは思わない。

科学技術の発達したこの世界でも、それは同じだ。


無駄に危険に足を突っ込んだりはしない。

艦に何かあれば、ただでは済まない。

魚のように人は生きられないのだから。


しかし、この暗雲の下で一隻の艦が停止していた。

その艦の周囲を数機のテツビトが飛び回っている。

それは見ようによっては救援を求めてるように映ったかもしれない。


だが、その艦は特に故障した様子もなかった。

またテツビトは救援を探しているわけではなく、

何かを探すような動きである。


不思議なことに、そのテツビトは

アートラエスとラエカゴの二種類の姿があることだ。

明らかに敵対している相手のテツビト同士は

その艦主導の元、協力していた。


「櫛木艦長。何も発見出来ないとのことです。

 どうしますか? 調査を続けさせますか?」


「いや……帰還命令を出してくれ」


艦長である櫛木耕一の指示で、

オペレーターはテツビト各機に帰還命令をだす。


アートラエスもラエカゴも同じ艦に着艦していく。

本来、異様なその光景も、

彼らにとっては見慣れた光景であった。


成果が得られないのは今に始まったことではないが、

それでも気楽にいられるほど不真面目でも無い。

沈んだ空気が艦内を支配する。


「それにしても、桜木麻由は何故、

 今頃になって我々の下に戻って来る気になったのでしょうか?」


オペレーターの疑問には言外に

そのまま普通に暮らしていればいいのに、といった含みがあった。


「せめて専用機の時に私達に連絡を入れてくれれば、

 こっちが持ってる技術を提供出来たのに……」


「もしかしたら、連中を欺く為にやったことかもしれん。

 ……が、結局はこれだ」


惜しい事をした、と櫛木耕一はため息をつく。

春日和弘が専用機を受け取る話は彼らも聞いていた。

その際、こちらに連絡が入ると思っていたのだ。


そうすれば『彼らだけの技術』を使うことが出来る。

戦果も増やすことが出来るし、

あわよくば連中をおびき出すことも出来るかもしれない。


しかし彼らからは何の連絡も無かった。

それはつまり一般人として生きていくことを意味していた。

どちらが説得したのか知らないが、

彼らがそれを選んだのなら、それでいいと思っていた。


しかし突然こちらに桜木麻由から

回収してくれと連絡が飛んできた。

反応は確かなもので、急いできたものの、

既にそこには何も無かった。


「こうなってしまっては、手遅れだろう。

 奴らが使ういつもの手段だ。もう何も発見されまい」


このままここにいたのでは、

連中からの襲撃を受けるかもしれない。

そう考えて、櫛木は離脱支持を出す。


「計画はどうしますか?」


オペレーターの言葉に櫛木は一言だけ返す。


「計画通りだ」


艦は何事もなく動き出し、その海域を離れていく。

何も無いその海域は、和弘が命がけの戦闘をした、

あの場所だった。


そこはもう、何も存在しない。



◇◆◇



どこまでも続く青い海。

晴れ渡る青い空。


太陽が水平線から昇るその頃に、

朝焼けに照らされながら一隻の艦が大海原を行く。

戦闘艦と呼ばれるその艦は、

やがて二隻、三隻と数を増やしていく。


それらは一方向に向かって進んでいった。

大規模作戦と呼ばれる敵軍との決戦場へ。


まだ海に出たばかりの新米ならば、

戦闘艦と言えど、日常では殆ど出会うことがないのに、

一体、何処にこれだの数がいたのだろうかと驚いたことだろう。


指定されている決戦の地点では、

お互いの軍勢が睨みあうかのように対峙していた。


何十隻と並び立つ戦闘艦の壮観たるや、

これから始まる戦闘を考えれば、

高揚感を抑えられずにはいられない。


シーブルーとネイチャー。

どちらの軍も同じ数だけ、戦闘艦が並列に並んでいる。

これから試合に臨むスポーツ選手のように。


しかし睨みあうお互いの距離は遠い。

大地に住んでいた者であれば、

中心に大河が流れている図を連想するであろう距離。


まるでそこが不可侵の聖域のように。

それはある意味正しかった。

戦場の主役はテツビトなのだから。


大規模作戦と名はついているが、

その実態は複数艦が同じように戦うだけだ。

実質的に普段と何も変わらないわけだが、

今、正面に並び立つのはお互いにトップクラスの操縦士達なのだ。


近くで行われる仲間の戦いに影響しない者はいない。

敵味方共に熟練者ということもあり、

その戦いは凄まじいものになる。


トップクラスの艦の後ろについているのは、

それより一ランク下がる艦。

一番前で戦う艦に戦えるテツビトがいなくなれば、

交代して戦場に出ることになる。

一ランク下がると言っても、トップに掛かるほどの

腕前を意味するので油断は出来ない。


さて、このシステム。

腕前があるということは、

あまり落ちないということも意味する。


そもそも通常戦でも引き分けがあることを考えると、

実は大規模作戦に参加出来る艦は

精々が前から三列くらいまでだったりする。


トップクラスの戦闘を間近で見れるというのは意味はあるのだが、

基本的に戦果が無いと参加資格は無いと言われているに等しい。


そんな中、後ろから数えた方が早い位置に、

戦闘艦「けいちつ」は存在した。



◇◆◇



戦闘艦「けいちつ」の格納庫。

裕樹、栗生、トモ、美紀の四人は

自分の持ち場につかずに談笑していた。


申し訳程度にテツビトの近くにいるものの、

出番が無い事はみんな知っているのか、

艦長含め誰も気にする者はいない。


この時の話題はいなくなってしまった彼らのことが殆どだ。


「結局、麻由達は帰ってこなかったわね」


トモがため息交じりに漏らす。

以前はもしかしたら、という思いもあった彼女も、

今となっては戻って来ないと諦めていた。


いや、それはここにいる全員が思ってることだ。

別にトモだけじゃない。


「操縦士と整備士を投げ出すほど魅力なことなんて、ねぇ……

 栗生、あなたは何かある?」


「想像もつかないな」


専用機まで持ってる操縦士と整備士。

将来が約束されてると言ってもいい境遇。

それにも関わらず捨てるなどというのは正気の沙汰では無い。

普通に考えれば。


「まぁ、何か事情があったんだろうよ」


いつも軽口を叩く裕樹でも、それしか言えなかった。

もう何度となく同じ話題を繰り返していることた。


「何それ……」


突っかかるトモもいつもの元気は無い。

もう同じやり取りを何度もしたし、来ないのは分かっている。

彼ら全員が同じ話題には飽き飽きしていたが、

それでも口に出してしまい、こうして話している。


「どうせ和弘がいても大規模作戦で戦えなかったろうけどな。

 専用機持ちだろうと意味ねーしな! うん、意味ねーな」


「でも、麻由ちゃん達がいれば、

 もうちょっと前に出れたのは確かよ?」


裕樹が投げやりに言い放った言葉を

美紀が微笑みをもって返す。


「それよりもあなた達の行動が

 問題視されてるみたいだし」


「なんか変な事やったか?」


「横槍と不意打ち」


疑問を呈した裕樹に間髪入れずに言い放つ。

言われて思い出したのか、

裕樹はバツが悪そうに頭をかいた。


「専用機よりも、そっちが問題視されてるみたいよ。

 大勢で戦闘するのにマナー違反されたら困るってね」


裕樹と栗生は首を捻る。

二人にとってはそんなことをしたという記憶はすっかり忘れていた。

元々それをやったのは自分の為ではなく――――


「しょうがねぇじゃん。

 あんな隙だらけなのが悪いんだよ。

 戦果が増えるなら狙いたくなるだろ」


「ああ、隙だらけだったから仕方ない。

 戦果も欲しかったし、あれは事故だ」


裕樹と栗生は二人して、そう言い放った。

二人の真面目な様子に美紀が笑いだす。

何がおかしいのか、つられてトモも笑い出した。


「フフ……それならしょうがないわね」


そう言ってトモが席を立つ。

どこに行くのかと尋ねる裕樹に飲み物を

持ってくると言って廊下に消えていく。


「どうしたんだトモのヤツ?」


「あなた達、マナー違反を

 麻由ちゃんと和弘のせいにしなかったじゃない」


訝しがる裕樹に美紀は

笑みを絶やさず答えを言った。


「自分の為って言うのは本当さ」


答えたのは栗生だった。

彼も笑みを浮かべたまま席を立つ。

なんとなく照れくさくなって、

じっとしていたくなかったのだ。


「俺は食べる物でも持ってこよう。

 戦闘中継、見るんだろ?」


栗生に釣られるように

裕樹、美紀と次々に席を立つ。


「いっそ食堂行くか?」


「私、トモに伝えてくるわ」


そして格納庫には誰もいなくなる。


普通なら三機寝かされている筈のテツビトだが、

この格納庫には二機しか寝かされていない。

一機分は出撃中になっており、テツビトがいなかった。


この艦のクルーはみんな分かっている。

もう戻ってこないのだと。

それでも未練が残っている。

その未練こそ、この出撃中の空いた格納庫だ。


時間は誰にでも平等だ。

いつか未練も忘れ、この格納庫にも

別のテツビトが格納されるのだろうか。


それは誰にも分からない。


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