22:真実ひとかけら
特に意味の無いスーパー説明回。半分くらいまで流し読みOK。
この世界に大地が残されていた頃は、
和弘の住んでいた世界と殆ど文明体系が同じだったらしい。
違う所と言えば、やはりというか和弘の元居た世界よりも
もう少し文明レベルが発達していたという所か。
高度な情報ネットワークは世界中の何処へでも連絡を可能とし、
量子力学の実用化により、世界中の何処へでも移動が可能になり、
また高性能な翻訳機により、世界中から国境は無くなった。
そこに問題点があったとすれば。
発達し過ぎた文明に人類の社会システムが
対応できなくなった点であろう。
まずそれは愛国心の剥離から始まった。
様々な国に行くのも隣町へと同程度のレベルでしかなく、
暮らしにくければ、さっさと国替えする人間まで現れた、
それは若者が最も顕著に表れた。
他よりも個を優先する価値観。
自国への執着が無くなった若者によって、
選挙は年長者のみが行われるようになり、
政治は票を得る為に、年長者が有利になる政策ばかり作り出す。
発展した技術は人間という概念をも発展させる。
年長者が老人となり、その寿命が尽きたとしても、
その時は機械に頼るだけで十分に政治を回すことが出来た。
出来て、しまっていた。
年が進むにつれ、政治の概念は希薄になり、
もはや国がどうやって存続するか誰も気にしない。
ただ表面のやり取りだけで暮らしていける。
そんな歪な世界観が出来上がってしまった。
しかし、それでもなお人が生きるのであれば、
別に構わなかっただろう。
だがここで人類にとって致命的な事件が起こる。
戦争である。
今、和弘がやっているものではなく、
正真正銘、和弘が思っているような戦争だ。
発達したファジーな電子脳による計算は完璧で、
恐らく人がやっていても、戦争に発展しただろう政治摩擦。
追い詰められ、逃げ場の無い国が蜂起せざるを得なかった。
それは周りを巻き込んで伝染し、拡大させていく。
武器を取れ。
国を、そして大切な人を守れ。
死にたくなければ敵を殺せ。
困ったのは何も知らずに暮らしている人々である。
国と言う概念が希薄となって
既にどれだけの年月が過ぎたか。
戦争、政治、国。
それらの確執に発達した技術が加わることで、
悲劇は倍増する。
様々な国が入り混じって戦う状況。
何処からともなく現れる敵。
国籍の違う隣人が武器を向ける。
逃げ場が何処にも無い袋小路。
そして何よりも。
彼らの価値観では、それを理解することが
出来なくなってしまっていたのだ。
だが、それも今までと一緒。
よく分からないまま人を殺し、身を守った。
何しろ、原因が分からない以上、終わらせ方も分からない。
このいつ終わるとも分からない悪夢を終わらせたのは、
また皮肉にも発展した技術であった。
理不尽なエネルギーを受け続けていた地球が、
急激な地殻変動を起こし、大地を飲みこんでしまったのだ。
そして人は水上で生きることを余儀なくされる。
人が暮らす艦の建造やテツビトを生み出し、
今の世界を作っている。
その基礎を作ったのは、勿論この政治を行っていたシステムである。
約定やこの世界での新しいルールの制定と、技術レベルの制御。
調停者とは、この政治システムの後継であり、
この世界を形作った存在の延長で、今なお人類を管理している。
◇◆◇
そうやって今の世界は動いているのだと、
調停者と呼ばれる子供は言った。
長々と説明されたが、
ようするに噂の調停者はちゃんといて。
裏で世界を管理しているというわけだ。
「ふむ……」
和弘はため息を一つつくと、椅子に深く腰掛けた。
立体データで出来てる椅子は特に軋む音もなく、
和弘の身体を支えている。
今、和弘達がいる部屋は、
殺風景な部屋で、何処となく会議室を連想させる部屋だった。
広さとしては、やや狭いだろうか。
そうは言ってもたった3人では広く感じてしまう。
この部屋は先程まで居た森と同じ場所だった。
森の風景は全て立体データであり
本来の壁にも映像は映しているだけ、というのを、
目の前の子供が実際に操作して見せた。
(長い自己紹介だったな……)
そう思うものの、ここまで説明されなければ、
和弘自身も納得できたか怪しい所だ。
それに一部分は身に覚えのある話もあるせいだ。
まさか和弘のいた世界も同じ道を辿るとは思えないが、
どのみち今の和弘には知りえないことである。
しかし、あくまでもこれは自己紹介だった。
何故、和弘と麻由が調停者に呼ばれたのか?
まだ肝心の部分が聞けていない。
≪まだこの話には続きがあります≫
そう言って調停者は麻由を促した。
≪春日和弘、あなたは彼女が
どんな立場にいるか知っていますか?≫
和弘は首を横に振る。
分かっていたなら、恐らくこんなことにはなっていない。
≪ならば先に彼女の正体をハッキリさせた方が良いでしょう。
桜木麻由、あなたが話しますか?≫
麻由はただ俯いて黙っているだけだった。
調停者はそれを答えと捉えて、また話出す。
≪春日和弘、今はこうやって話しましたが、
あなたは別の世界からやってきたようですが、
この世界のあり方について何も感じませんでしたか?≫
「それは……」
今度は和弘が沈黙する番だった。
違和感は確かにあった。何かがおかしいと。
ただ彼はそれ以上の思考を放棄してしまったが。
和弘の沈黙をどう受け止めたのか、
調停者が話を続ける。
≪あなた以外にも違和感を感じた人はいたのです。
彼らは同じ考えの者を集め、行動を起こし、
私達の存在を突き止めるまでに至りました。
そして……≫
もう一度、調停者の手が麻由の方を差す。
≪私達は彼らを『革命軍』と呼んでいます。
革命軍は私達を倒し、人類の未来を勝ち取ろうとしています≫
(なるほど……春日和弘が何処にもいなかったわけだ)
彼は確かに特筆すべき操縦士だったに違いない。
しかしそれは革命軍の中でのこと。
世界の裏側に潜ってしまっていては、
表の世界で知られなくても不思議ではない。
真実を知ろうとする。
調停者に抗おうと戦う。
その結果、調停者に殺されてしまう。
「そうやって邪魔なヤツを殺していったのか?」
≪私達が人間を殺害するには一定のルールが存在します。
革命軍と言えと、基本的には無視して良い存在でした。
……ある人物が現れるまでは≫
「ある人物……?」
言われて思い出したのはここに来る前の戦闘だ。
こちらの武装がまるで通じないくせに、
相手は必殺である本物の武器を使っていた。
そうまでして殺そうとした人物は――――
「……私じゃ、ないですよ」
振り向いた和弘の視線を受け止めて麻由は言った。
その言葉は酷く弱々しい。
≪その者の名は桜木美月。
桜木麻由の姉に当たる人物です≫
麻由に姉がいるというのは、
昔、麻由がこぼしていたのを
和弘は思い出した。
≪彼女は天才でした。
この世界を危うくするほどの才能がありました≫
なおも調停者は言葉を紡ぐ。
制限された技術も人の手で生まれた者ならば、
また別の人の手で生み出すことも可能。
それを実践出来たのが桜木美月だった。
桜木美月は現存する技術を解き明かし、
調停者が制限されてる技術に辿り着いた。
彼女の才能はそこに留まらず、解析した技術を
更に進化させようと歩を進めた。
「だから殺した?」
≪その時、体を張って助けたのが――――≫
「……春日和弘か」
やっと、自分との接点が出てきた。
だが、それ以上の話は無かった。
桜木美月の話はそれで終わりだと言うように。
だが、彼が殺されたということは恐らく……
「だからって……」
不意に。
今まで黙っていた麻由がポツリと言葉を漏らす。
まるで触れてはいけない部分に触れたような、そんな気配。
「だからって、そんな簡単に殺していいと思ってるんですか!?
そんな理由で、私の姉さんを!」
麻由にしては珍しく机を乱暴に叩き、
目の前の子供を睨みつける。
殺された肉親の為に怒っている。
姉を大切に思っていたのだろう。
そんな麻由を見て、和弘は思った。
それと同時に――――
姉について何一つ聞かせて貰っていないことに気づき、
和弘は少し悲しくなった。
≪あなた方は勘違いをしているようですね≫
それに対しての調停者の返答は、あくまでも冷静だった。
淡々と物事を運ぶそれは、機械そのものである。
だが、この次の台詞は和弘にも予想しないものだった。
≪私達、調停者は別にあなた方に
やられても構わないと思っています≫
人類の管理という目的の為に徹底した枠組みを作り、
それを少しでもはみ出そうとする者には殺害も厭わない。
散々それを強調しておいて、今の言葉は些か矛盾が過ぎる。
≪だから勘違いと言ったのです≫
本来ならば呆れた表情と声を出すであろう、
そのシーンもどこまでも表情も変わらず声の抑揚も少ない。
≪私達の役目は世界の仕組みを作り、人を管理することです。
もし人が私達の管理を望まず、新しい仕組みを作るならば、
私達は倒されても構わない。そう言っているのです≫
和弘の知っている創作物でも機械が人類を管理しているという話はある。
大抵この場合は、自由を求めて機械を相手に人が反乱を起こし、
人類が勝利して自由に未来を生きる。そういう内容なのが殆どだ。
機械はあくまでも反乱を起こした者を
イレギュラー認定して、攻撃を仕掛けてきた。
鎮圧して今まで通りの管理を行う為だ。
だが、目の前の機械は倒せるなら倒してしまっていいと言う。
人類が自由に未来を選びたければ、それで構わないと。
(そうか……!)
ようやく和弘は気が付いた。
この機械は何処までも正常に動いているということに。
(普通なら『我々は人より偉い!』とか
『我々が管理するから人類は幸せなのだ!』とか
言いそうなものだけど……)
調停者はあくまでも人の為を第一に考えており、
加えて自分達のやり方が一番の方法ではないと言っていた。
本当に人がそれを望むなら、自分を破壊しても構わないとも。
≪ですが、本当に人間が望んでいるのか。
その進む方向に未来はあるのか。
それを判断する必要がありました≫
彼らの示したルールはとてもシンプルだった。
こちらの出す武力を制し、その意思を見せつける事。
調停者を壊すのならば、相応に命を賭けて貰う。
ただ、それだけのことだった。
(いつの世も最後は闘いか。あれ……?)
和弘の頭に何かが引っかかった。
さっきの言葉に心当たりがあったのだ。
似たような話を最近聞いたような……
「でもそれで和弘さんを……? あっ!」
麻由が気づいたように声を上げ、和弘の方を向く。
まだ良く分かっていない和弘は自分の後ろを
差してるのかと勘違いして後ろを向くが、
当然ながら、そこには何も無い。
≪先に言ったはずです。
私達は春日和弘、あなたに用があると≫
調停者にも言われ、しばらく考えた後、
和弘はようやく思い出した。
(そう言えば俺は……)
命のやり取りをした。
思い出すのもおぞましい恐怖の感覚とストレス、
そもそも和弘の目的に調停者が全く関係無い事が相まって、
今の今まで忘れていた。
「あれ、そういう意味だったのか……」
こうして頭の良いだろう連中に囲まれると
自分の間抜けさが浮き出るようで恥ずかしかったが、
そんなことにはお構いなしに調停者は話を続ける。
≪さて、春日和弘。
あなたは私達の話を聞く選択をしました。
そして今は二つの選択があります≫
和弘はこの世界の成り立ちを聞く方を選んだ。
この話を聞いてしまったならば、いつも通りの生活は送れないだろう。
それは常に彼らの存在に怯えながら生きることを意味する。
聞かないで帰れ、というのは正しかったのだ。
そして今までの話を聞いたならば、
次の選択は容易に想像できるものだった。
≪一つは私達に協力する道を選ぶ。
もう一つは……≫
調停者と呼ばれる子供はそっと目を伏せる。
この仕草だけは人間のようだと和弘は思った。
≪私達のデータを革命軍に渡すことで調停者を排除し、
新しい人の未来を創ることです≫
実を言うと。
「俺は――――」
和弘の考えは最初から決まっていた。
「――――調停者を、手伝おう」




