若葉の頃<8>
「軽音学部の皆さんでした ありがとうございました!
第二部は午後1時30分開始です」
暗幕が開き会場に光と風が入り込む
生徒、 一般客がぞろぞろと会場を後にする
メンバーも楽器を片付けだした
隆は舞台袖に用意してあった
ストラトキャスターを持ち出しレスポールと交換した
ジャン!と弾きだす
退場しかけた生徒たちは、「サービスか?」 「おー隆じゃんか!」 と口々言った
隆は個人でも表彰される程の腕前で学校でも有名だった
そしてDEEP PURPLEの曲を弾きだした
みんなが舞台前に集まって来る。退場しかけた保護者も一部、後方で見学していた。
その中にはメンバーの保護者の姿も見える
隆の父親と母親もその中にいた
母が言う「あのギターおとうさんが隆に買ってあげたものよ。あの子、大事にしていたのね」
「ほう。そうなのか?私は楽器なんてまるっきり興味ないし、解らないからな、とにかく最高のものを店の中から探して隆にプレゼントしたんだがな。
アイツも小さい時は素直だったんだがな、、最近では何を考えてるのか さっぱり解らんよ。
こんなチャラチャラした事もどうせ今だけだろう。
後で、PTAの人と校長に挨拶に行ってくる。それから帰る事とする。」
「・・はい」
冷めた口調の父親が言い放つ
一方、隆はオーディエンスの熱が上がった頃を見計らい3曲目、JIMI HENDRIXの曲に移る
メンバーは舞台から下りず隆の演奏を袖から見守っていた。
10分位演奏して隆は軽くお辞儀をする 隆の頭にはビデオのワンシーンがそのまま描かれていた
<JIMI HENDRIXはオーディエンスに軽くお辞儀をした
ギターを床に置く・・
ポケットからオイルライターを取り出す・・
目の前のギターに軽く振りかける・・
いつのまにか手には炎が見える
そしてギターに炎を放つ
燃えたギターを両手で持ち次は破壊行動へと移す 暴れまわるJIMI HENDRIX>
何度も何度も繰り返し見たビデオの中の男の行動
隆はマイクを握ると叫んだ
「俺らは年明けたらこの学校を後にする。自由が何かって事も・・本当は理解してるんだ。
親には感謝してるよ。お前らもそうだろ?おまんま喰わせて貰って今日まで来たんだ。
とうちゃん、かあちゃん ありがとう!!!」隆は親の方に向かって手を上げる
「あの子ったら。」隆の母親は笑顔で見守る
ジャン!時折、ギターでメロディを奏でながら話を交える隆
「アイツ恰好良すぎるぜ。全く」同級生がいい表情で隆を見る
「だけど、このままでいいのか?おまえら?親の用意した金と、親の敷いた枕木の上を歩く人生、
しかもその金が黒いと来たらどうなんだ?」
「あいつ・・何言ってるんだ・・」河本が舞台袖で呟いた
「この最高の音色のこのギター、幾らか知ってるかお前等!!俺ン家はいろんな大人が出入りしてた
そのいろんな大人が来るたびに俺はいろんなものを強請った。
こんなギターまだ何本もあるぜ!」ジャン!
「おい!下野!」 舞台袖の下野に向かって隆が叫ぶように言う
「お坊ちゃまだから?お強請りしたらなんでも手に入る?大当たりだったぜ!」
「誰か、アイツ止めろよ。ヤバクね?」舞台前の生徒が呟く
反対に「そうだそうだ!!金持ち坊ちゃま~~~!お父さんはお偉いさ~~ん!」ヤジに似た声も飛ぶ
一部始終を目の前で見ながら、
隆の父親は口を一文字に縛り丸く握った両手の拳は震えていた。その横で母は下を向く。
隆は幼い頃から親が町の議員で良い思いをした事は一度もなかった。逆にイジメに近いものさえあった
いろんな深い・・今までの思いが隆を追い込む
隆は最後に会場を唸らせる程の見事なギターリフを見せると
そっとギターを置き
丁寧にお辞儀をした
そして
ポケットからオイルライターを取り出し、オイルをギターに掛け
火を点けた
JIMI HENDRIXが彼に憑依したかのように。
舞台袖にいた河本が飛び出し、隆の体を押さえた
隆は魂が抜けたように力を失っていた。河本にきつく腕を掴まれる
そこへ律子が近付き自分の着ていた濡れたTシャツを恥かしげもなく手をクロスさせながらゆっくりと脱いだ。
キャミソール姿になりながらも冷静でいた
脱いだTシャツを燃え続けるストラトキャスターにそっと被せた
ジュッ・・ 鈍い音をたてる
下野も続いて自身のTシャツを脱ぎ 今度はギター全体を覆うように被せた
ストラトからは白い煙が立ち舞台には、きな臭い臭いが充満した
機転を利かせキーボードの一年が<yesterday>のメロディを震える手で弾いた
律子は泣きそうな心と声を押し殺し 部長としての言葉を言う
「びっくりさせてごめんなさい!以上!!1部の終了です!!ありがとうございました!!」
「なんだよ~~~演出かよ~~びっくりしたな~」生徒達はそう言いながら会場を後にした
保護者は無言で立ち去った
隆の両親は怒りと情けなさと入り混じった表情のまま素早く体育館を出た
河本は「タカ!タカ!おいしっかりしろ!」隆の肩を揺さぶりながら隆に話し掛ける
「余計な事しやがって」捨て台詞のように河本に言う
次の瞬間、隆の顔面に河本の拳が当たっていた
「お前は何したか判ってんのか!ここは学校なんだぞ!路上でも、ライブハウスでもないんだぞ!!
りっちゃんが・・りっちゃんがどんな思いで・・・」言葉を失い男ながら涙を浮かべる河本
「河もん・・もう止めよう。いいよ。ありがと」律子は下を向く隆の腰に手を回した。力が抜けた隆も律子に少し体重を預けた
二人は体育館を後にして階段を上っていった。
「タカ、大丈夫?言ってくれれば一緒にやったのに。私はタカの味方よ。信用してよ。」
「律子・・ごめん」
「うん」
二階へ上がると展示場になってる教室は昼休みの為ガランとしていた。
隆はその部屋へ律子を引っ張った。
ダンボールで出来た迷路の部屋の奥に行き二人は
キスをした。
桜の樹の下で初めて交わしたキスとは違う・・二人とも泣いていた。
涙の塩味を確認するかの様に 律子は隆の頬に伝う涙の上にキスをした、そして
舌を絡めあったのだった。二人はきつく抱き合った。
律子には痛いほど隆は律子をギュっと抱いた・・・・・。
律子は隆が愛しくて仕方ない気持ちになる
隆の髪を何度も撫でる。キャミソール姿の律子の首元に優しくキスをする隆
誰も居ない教室。なんのデザインも施されていない綿のカーテンが時折ふわりと二人を包んだ。




