戻れない時間
祖父、隆の話をベッドの横で真剣に聞いていたタカヒロ
どれくらいの時間が経ったのだろう
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どれくらいの時が過ぎたのだろう、、、
「じいちゃん・・で、2部はどうなったの?舞台でほんとに燃やしちゃったんだ。」
「あぁ。親父の事や自分の将来の事・・今思えばなー単純で馬鹿だったかも知れないと思う。
けどこのままじゃダメになる気がしたんだよ。俺も、そして親父もな。
あの後な、保護者が職員室に駆け込んで一部始終を話したみたいでな。二部は中止になった」
「・・・・そうなの?じゃ、律子さんと二人でする予定だった曲は出来なかったって事?」
「そうだ。・・文化祭終了後、俺は顧問に呼ばれ二人で校長室に行った。
俺は無期限停学処分になった。しかも軽音楽部を廃部する事にもなっちまった。
進学校だったしな、昔なんかは音楽をやってるってだけで不良みたいな扱いもされてた時代だ。
問題起こす事は分かってたみたいな言い方された上にな、待ってましたとばかりの廃部宣言だった。
顧問はな理解ある先生だった。何度も何度も頭を下げてくれたんだよ校長に。」
先生に言われたよ。今までいろんな生徒を見てきたがこんなにも一生懸命で熱い生徒はいなかったと。
しかし、さすがに火はなぁって。そりゃそうだ。
俺は、みんなに合わす顔がなかった。申し訳ない事をしたと・・心から思ったよ。
・・・・律子には、一番、律子には迷惑を掛けた。アイツらが作ったのによ・・」
「じいちゃん、謝ったんだろ?」
「俺な、その後自分から退学届けを出したんだよ。自分のした事には責任取らなきゃならんだろ。当たり前だ。
家に帰ってから親父はなんにも言わなかった。
俺はしばらくして・・ありったけのこづかいを手に家を、そして街を出た。もうこの街にはいられねえだろ。
文化祭以来・・誰にも会わず、なんにも言わねぇでさ 俺は他所の街に行きライブハウスでバイトしながら暮らした。
親父が亡くなったって知らせを聞いたのが・・いくつだったか忘れちまったけど街に戻って来たのは女房と子供と一緒だったなー。」
「律子さんの事好きだったんだろ?それで良かったの?・・もう忘れてたの?」
「そんな訳ねぇ・・だけど、それもまた人生なんだ、タカヒロ。
いろいろな出会いと別れを繰り返すんだよ人は。
俺はあんなに好きになった女はいねえ。愛とか、恋とか、そんな安っぽい言葉で片付けられる女じゃねぇ。
忘れることはなかったよ。それは今でもだ。67歳になったこんな年寄りでもだ。
俺の心の中にはずっといるんだ。ずっとな。」
「心って・・なんか死んだみたいじゃん。」
「みたいじゃんって お前は知ったような事言うな」
「同級生の噂はいろいろ聞く。律子も結婚したらしいって話までは知ってる。どっかの街で幸せになってたらそれでいいんだ。」
「ほんとに?僕だったら探しに行くな。」
「タカヒロ、お前は若い。一年、二年前の話じゃないんだぜ?俺が今ここで話した話は50年も前の大昔の話だよ。生死もわかんねえ。例え生きていてもだ、お互い変わってる。環境も、見た目もな。笑うぜ全く。」
「逢いたい?律子さんに・・・」
「馬鹿言うな。はいはい、もう終わり。この話はおしまい。
正直な話、お前に話しをしている途中な、何度か気持ちが昔に戻ったよ。律子の歌ってる声とか思い出したらたまらなくなったよ。」
「そう・・・。 あ、もうこんな時間。俺ちょっと行ってくるわ!現代のりっちゃんに会いに!」
「ん?おー、あのりっちゃんかー。近い内に紹介してくれよ」
「うん。・・戻って来たら今日は帰るよ。帰りに楽器屋に行くし。」
そう言って隆はいつもの雑誌も持たずにテラスに向かった。
祖父の前では動揺を隠して聞いていたがタカヒロは心が苦しかった。
二人の切なすぎる過去の話に。
二人で歌う予定だった事や律子がみんなの前でTシャツを脱いでまで祖父を守ろうとした事、
それぞれが自分の生き方に真剣に悩み、それでも真っ直ぐに進もうとした事・・
今の自分と同じ年の頃の話なのに全然違う。
ポケットの写真が汗をかきそうなくらいポケットに手を入れ何度も触るタカヒロ。
<ごめん。りっちゃん。そんなにも、こんなにもじいちゃんの事を思っていたのに、、
じいちゃんも大切に直していたこの写真を・・僕は・・僕は・・嘘をついた。>
胸の中に何万、いや何十万もの小さい虫がいるかのようにザワザワ ザワザワしていた。
タカヒロはいつも律子と座る指定の場所があった。テラス入口から一番近いハナミズキの白い花の下のベンチに座るのだ。
出会った頃は美しい白い花をつけていたが今は緑の濃い葉っぱだけの木になっていた
花を見上げる事なんてしないタカヒロだったが律子と出会って少しづつ何かが変わっていった
タカヒロは緑の葉っぱだけを見上げながら、真下のベンチに腰をかけた。
するとベンチにハンカチが置かれていた。
いつか律子が栞を出した時のハンカチだった。
藍色の布に美しい紫の紫陽花が刺繍された律子らしいハンカチだった。
そっとハンカチを手に取ると畳まれたハンカチの中から1センチ程の白い紙が見えていた。
タカヒロはハンカチを開くと絵手紙に使われるハガキが出て来たのだ
[山村タカヒロ様
タカ、今日は急に検査が入ったのでそこには行けません。ごめんなさい。
朝に先生から言われたので急だったの。
先日から手術した後がシクシクと痛んでいたの。先生は心配ないっておっしゃったから大丈夫です。
心配はしないでね。3日後また、この場所で待っています。 広沢 律子]
タカヒロは改めて気付く
僕達はなんにも知らない間柄、タカヒロって字さえ知らない。お互い何階から来ているかも知らない
そんな僕たちが毎日同じ時間の同じ場所で会って、しかも祖父と過去に繋がっていた
奇跡に近い事だったんだ・・全てが・・
ハガキに書かれた短い手紙を見ながら肩を落とすタカヒロ
「あさってから、学校なのにな。どうしよう、、、」




