4話 僕らはヒーロー!?
「……リアム……クリスティン……。起きて……」
透き通った声が聞こえる。一体誰だろう。僕は目をこすりながら起き上がる。視界がぼやけてはっきりしない。分かるのは、かび臭い湿った匂いがすることだけだ。誰かが明かりを消したように薄暗い。かび臭いって言っても、図書館にある古い本の匂いとは違う。もっと土が混じったような匂いだ。
「な、なんだ!? ……ここは」
クリスティンの声に、僕の視界は一気に開けた。氷柱のような石が、天井から伸びている。地面にはびっしり、赤黒い苔が生えていた。ここは……洞窟なのかな。少なくともあの図書館じゃない。図書館にこんな魔境があったなんて聞いたことがないからね。水滴の落ちる音が、洞窟の奥から不気味に反響する。クリスティンは泥がついた髪を乱暴に掻き上げた。
「こっちよ、二人とも」
またあの声だ。僕はあたりを見回した。岩……石……岩……。声の主は見当たらない。ふと、空中に小さな星のような光を見つけた。星はよく見るとヒスイ色の目が二つ付いていて、口と思しき部分もある。虹色に輝く体は、洞窟のライト代わりになっていた。クリスティンは恐る恐る、星(のような何か)に近づく。
「こんにちは。リアム、クリスティン」
星はあろうことか、僕たちのほうを向いてしゃべったんだ。僕は驚いてその場にへたり込む。クリスティンは猫みたいに後ろに下がって、いつでも攻撃できるように腰をかがめた。星は僕らの様子なんて意にも介さないで、宙にふわふわ浮いている。
「大丈夫、私はあなた達を攻撃したりはしないわ」
宇宙人のような淡々とした口調の星。当然僕たちも警戒は緩めなかった。クリスティンも星の宇宙人と一定の距離をとっている。星の宇宙人は野球ボールぐらいの大きさしかなかったけど、もしかしたら僕達を不思議な力で消しちゃう能力があるかも知れない。図書館の本で宇宙人にさらわれる男の人だって見たことがあるもん。
「お前……何者だ……」
クリスティンは地面に落ちていた石を掴み、脅すように宇宙人に突きつける。だめだ、刺激しちゃ。猛獣みたいな妹も怖いけど、相手はもっと得体の知れない生き物だ。何をされるか分かったものじゃない。でも、脅されても宇宙人は何食わぬ顔のままだ。
「私はコーラ。あなた達の案内人よ」
コーラ? 変な名前だな。……とは言っても宇宙人だからなのか名前だけよく聞こえなかったんだ。あえて僕たちの言語に置き換えると、“コーラ”が一番近いような気がした。コーラは僕たちに“付いてきて”って合図するように洞窟の奥を照らす。コーラの光が苔を鮮やかに照らしている。
「詳しい話は後でするわ。まずはここから出ないと」
僕は訳が分からず、その場で立ちすくんだ。クリスティンも頑なにコーラがいるほうへ向かおうとしない。珍しくクリスティンと意見が合った。もしかしたら僕たちをだまして、落とし穴にはめるかもしれない。相手は僕らと違う宇宙人だからね。
「誰が得体の知れない星クズの話を信じると思うか? 答えはノー、“付いて行く訳がねぇ“」
「ここ以外に出口はないわよ。それに、いつまでもいるわけにはいかないの」
突然、猛獣のような低いうなり声が聞こえてきた。僕は慌てて近くの岩陰に隠れる。唸り声はしばらく続いていたけど、声の主の姿は現れなかった。クリスティンもレンガを引きずるような低く恐ろしい音に、耳を塞ぐ。確かに、いつまでもここにいたらそこにいる星の宇宙人より怖いものに出くわしちゃうかもしれない。驚いたよ。妹も猛獣みたいだけど、あれはまさしく本物の猛獣のような声だった。
「こうしてはいられないわ。さあ、行きましょう」
コーラの言葉に、僕は戸惑いながらも頷いた。今はコーラだけが頼りだ。僕もクリスティンも、ここがどこなのか、どうして図書館からここに来たのか、それすら分からない。でも、とりあえずはこの洞窟を出ないと、僕らの命も危ないんだ。クリスティンは露骨に嫌そうな顔をしたけど、観念したのか渋々僕らの後を歩いた。僕らとの距離は限りなく離していたけど。意外と物分かりはいいんだ。てっきりこの宇宙人を捕まえてランプ代わりにこき使うかと思ったけど。
洞窟は進めば何か変わるかと思ったけど、石と岩ばかりで何も変わり映えしなかった。これなら僕の家の近くの公園の洞窟の方が百倍楽しいよ。歩くと、苔が僕の足を絡み取るようにスニーカーの裏に張り付く。洞窟に響くのは僕らの足音と、水滴が落ちる音と、たまに聞こえるあの恐ろしいうなり声だけだった。
二話 僕らはヒーロー!?
「……リアム……クリスティン……。起きて……」
透き通った声が聞こえる。一体誰だろう。僕は目をこすりながら起き上がる。視界がぼやけてはっきりしない。分かるのは、かび臭い湿った匂いがすることだけだ。誰かが明かりを消したように薄暗い。かび臭いって言っても、図書館にある古い本の匂いとは違う。もっと土が混じったような匂いだ。
「な、なんだ!? ……ここは」
クリスティンの声に、僕の視界は一気に開けた。氷柱のような石が、天井から伸びている。地面にはびっしり、赤黒い苔が生えていた。ここは……洞窟なのかな。少なくともあの図書館じゃない。図書館にこんな魔境があったなんて聞いたことがないからね。水滴の落ちる音が、洞窟の奥から不気味に反響する。クリスティンは泥がついた髪を乱暴に掻き上げた。
「こっちよ、二人とも」
またあの声だ。僕はあたりを見回した。岩……石……岩……。声の主は見当たらない。ふと、空中に小さな星のような光を見つけた。星はよく見るとヒスイ色の目が二つ付いていて、口と思しき部分もある。虹色に輝く体は、洞窟のライト代わりになっていた。クリスティンは恐る恐る、星(のような何か)に近づく。
「こんにちは。リアム、クリスティン」
星はあろうことか、僕たちのほうを向いてしゃべったんだ。僕は驚いてその場にへたり込む。クリスティンは猫みたいに後ろに下がって、いつでも攻撃できるように腰をかがめた。星は僕らの様子なんて意にも介さないで、宙にふわふわ浮いている。
「大丈夫、私はあなた達を攻撃したりはしないわ」
宇宙人のような淡々とした口調の星。当然僕たちも警戒は緩めなかった。クリスティンも星の宇宙人と一定の距離をとっている。星の宇宙人は野球ボールぐらいの大きさしかなかったけど、もしかしたら僕達を不思議な力で消しちゃう能力があるかも知れない。図書館の本で宇宙人にさらわれる男の人だって見たことがあるもん。
「お前……何者だ……」
クリスティンは地面に落ちていた石を掴み、脅すように宇宙人に突きつける。だめだ、刺激しちゃ。猛獣みたいな妹も怖いけど、相手はもっと得体の知れない生き物だ。何をされるか分かったものじゃない。でも、脅されても宇宙人は何食わぬ顔のままだ。
「私はコーラ。あなた達の案内人よ」
コーラ? 変な名前だな。……とは言っても宇宙人だからなのか名前だけよく聞こえなかったんだ。あえて僕たちの言語に置き換えると、“コーラ”が一番近いような気がした。コーラは僕たちに“付いてきて”って合図するように洞窟の奥を照らす。コーラの光が苔を鮮やかに照らしている。
「詳しい話は後でするわ。まずはここから出ないと」
僕は訳が分からず、その場で立ちすくんだ。クリスティンも頑なにコーラがいるほうへ向かおうとしない。珍しくクリスティンと意見が合った。もしかしたら僕たちをだまして、落とし穴にはめるかもしれない。相手は僕らと違う宇宙人だからね。
「誰が得体の知れない星クズの話を信じると思うか? 答えはノー、“付いて行く訳がねぇ“」
「ここ以外に出口はないわよ。それに、いつまでもいるわけにはいかないの」
突然、猛獣のような低いうなり声が聞こえてきた。僕は慌てて近くの岩陰に隠れる。唸り声はしばらく続いていたけど、声の主の姿は現れなかった。クリスティンもレンガを引きずるような低く恐ろしい音に、耳を塞ぐ。確かに、いつまでもここにいたらそこにいる星の宇宙人より怖いものに出くわしちゃうかもしれない。驚いたよ。妹も猛獣みたいだけど、あれはまさしく本物の猛獣のような声だった。
「こうしてはいられないわ。さあ、行きましょう」
コーラの言葉に、僕は戸惑いながらも頷いた。今はコーラだけが頼りだ。僕もクリスティンも、ここがどこなのか、どうして図書館からここに来たのか、それすら分からない。でも、とりあえずはこの洞窟を出ないと、僕らの命も危ないんだ。クリスティンは露骨に嫌そうな顔をしたけど、観念したのか渋々僕らの後を歩いた。僕らとの距離は限りなく離していたけど。意外と物分かりはいいんだ。てっきりこの宇宙人を捕まえてランプ代わりにこき使うかと思ったけど。
洞窟は進めば何か変わるかと思ったけど、石と岩ばかりで何も変わり映えしなかった。これなら僕の家の近くの公園の洞窟の方が百倍楽しいよ。歩くと、苔が僕の足を絡み取るようにスニーカーの裏に張り付く。洞窟に響くのは僕らの足音と、水滴が落ちる音と、たまに聞こえるあの恐ろしいうなり声だけだった。




