38話 かつてあったはずの物語
オズワルドの声と共に、人影達が一斉に僕の元に襲いかかってきた。モーガン、アルバート、リチャード、カレン、セオドリックさん、ヴィンセント、そしてルシアン。彼らはまるで僕が誰なのか全く覚えていないように、容赦なく攻撃してくる。僕にはもう、身を守る術がない。ひたすら避けるしかなかった。彼らの顔は、インクで塗りつぶされたようにどす黒い。その首元には、黒い鎖が付いていた。モーガンは容赦なく僕を噛み砕こうとする。泣き虫だった面影すら残さずに。アルバートが無慈悲に僕を切り捨てようとする。僕に一言も発することを許すまいと言わんばかりに。リチャードが口から光線を吐いてくる。役割に忠実な恐ろしいドラゴンとして。カレンが斧で僕を両断しようとする。門番として戦ったときより非情に。セオドリックさんが杖で風を巻き起こす。僕らを運んだ風より遙かに荒々しい風を。ヴィンセントが放射状に雷を放つ。紅茶を飲んで話した僕らの姿をかき消すように。ルシアンが僕をヨーヨーで絡め取ろうとする。使命に背いた自分をぬぐい去って。為す術もなく、僕はヴィンセントの一撃を食らった。稲妻の槍に肩を貫かれて、僕は暗闇に沈むように倒れる。
「君が今まで会ってきた人も、もう君のことなんか覚えちゃいない。いずれ君も、この暗闇の中で全てを忘れるんだ」
オズワルドの嘲笑う声が遠くから響いてくる。そんな……。みんなは、もう僕のことを覚えていないのか……? 本当に、全部忘れちゃったのか? 攻撃の手を止めない彼らを見ていると、涙が止まらなくなった。
「みんな思い出してよ! 僕だよ、リアムだよ!」
僕は喉が枯れるまで叫び続けた。どうか……どうか誰かにこの声が届きますように。でも、カレンが僕の胸元を切りつけた。シャツが切られて真っ赤に染まる。それと同時に頭の中の、全ての思い出が黒一色に塗り潰された気分だ。ガラスが割れる様に、記憶の断片が崩れていく。操り人形のように、行進を進める魔物達。あれ……僕はどうして戦っているんだっけ? 頭の中が霞がかっていく。目の前の白い霧のように。さっき受けた痛みすら、僕は忘れかけていた。今まで僕は、何をしてきたんだろう。あの魔物達は、どんな魔物だったんだろう。響き渡る足音に耳をそばだてながら、僕はその場に立ち尽くす。僕の記憶が、暗闇に溶けていく。目の前で何が起こっているのかも分からなくなってきた。僕はどうしてここにいるんだ。何か、胸の奥に風穴が空いたような感覚だ。僕は一体、誰なのだろう。
「おいおい、しっかりしろよ。お前さんはあの嬢ちゃんと一緒に元の世界に戻るんじゃなかったのか?」
僕の胸の奥まで響くような声で、誰かが語りかけてくる。誰だろう? 霧がかかって思い出せない。だけど、この声を聞いていると胸がすごくざわつく。声の主はどこを探してもいない。魔物達がゆっくりと僕の元に来ているだけだ。僕がぼんやりとしていると、声の主は苦笑した。
「まあ、オレのことを思い出せなくても良いさ。ただ、お前さんの中には忘れちゃいけねえモンがある。お前さんにとって大切なモンがな」
その言葉と同時に、僕の中の霧が晴れていく。大切なもの……。そうだ、僕には大切なものがあった。コーラ、クリス。二人を助けないと。胸の中でそんな思いが一気に吹き出すと同時に、僕は一歩踏み出す。その姿を見たのか、声の主は満足げに笑う。
「ったく、これが最後だぜ。小さな勇者さん」
声がだんだん消えてくると同時に、暗闇の中に一陣の煙が舞い上がった。魔物の中の一匹の首の鎖が音を立てて砕ける。ヨーヨーを持っていたその魔物は……ルシアンの姿は消えていった。そうだ、忘れるはずがない。僕は元の世界に戻るために、ここまで来たんだ。そしてその中で、ルシアン達と会ったんだ。例え彼らが忘れても、僕は忘れはしない。僕はモーガンに駆け寄って、その頭を撫でた。固い石像のような感触。間違いない、モーガンのものだ。モーガンも大人しくなって、僕に身を預ける。すると、モーガンの首の鎖が砕け散った。それと同時に、モーガンの姿も消えていく。僕が立ち塞がる動作をすると、アルバートが消えて、僕が戦おうとする姿勢を見せると、リチャードが消えていった。襲い来るカレンとセオドリックさんに戦いたくないことを告げると、彼らは満足げに笑って消えていく。彼らだって僕のことを忘れたわけじゃない。いくら記憶を書き換えられても、思い出まではぬぐい去れないんだ。
「へえ、ここまで来ただけはあるね。だけど、この魔王を打ち負かせることはできないだろ。元勇者の魔王はね」
オズワルドの声と共に、人影達が一斉に僕の元に襲いかかってきた。モーガン、アルバート、リチャード、カレン、セオドリックさん、ヴィンセント、そしてルシアン。彼らはまるで僕が誰なのか全く覚えていないように、容赦なく攻撃してくる。僕にはもう、身を守る術がない。ひたすら避けるしかなかった。彼らの顔は、インクで塗りつぶされたようにどす黒い。その首元には、黒い鎖が付いていた。モーガンは容赦なく僕を噛み砕こうとする。泣き虫だった面影すら残さずに。アルバートが無慈悲に僕を切り捨てようとする。僕に一言も発することを許すまいと言わんばかりに。リチャードが口から光線を吐いてくる。役割に忠実な恐ろしいドラゴンとして。カレンが斧で僕を両断しようとする。門番として戦ったときより非情に。セオドリックさんが杖で風を巻き起こす。僕らを運んだ風より遙かに荒々しい風を。ヴィンセントが放射状に雷を放つ。紅茶を飲んで話した僕らの姿をかき消すように。ルシアンが僕をヨーヨーで絡め取ろうとする。使命に背いた自分をぬぐい去って。為す術もなく、僕はヴィンセントの一撃を食らった。稲妻の槍に肩を貫かれて、僕は暗闇に沈むように倒れる。
「君が今まで会ってきた人も、もう君のことなんか覚えちゃいない。いずれ君も、この暗闇の中で全てを忘れるんだ」
オズワルドの嘲笑う声が遠くから響いてくる。そんな……。みんなは、もう僕のことを覚えていないのか……? 本当に、全部忘れちゃったのか? 攻撃の手を止めない彼らを見ていると、涙が止まらなくなった。
「みんな思い出してよ! 僕だよ、リアムだよ!」
僕は喉が枯れるまで叫び続けた。どうか……どうか誰かにこの声が届きますように。でも、カレンが僕の胸元を切りつけた。シャツが切られて真っ赤に染まる。それと同時に頭の中の、全ての思い出が黒一色に塗り潰された気分だ。ガラスが割れる様に、記憶の断片が崩れていく。操り人形のように、行進を進める魔物達。あれ……僕はどうして戦っているんだっけ? 頭の中が霞がかっていく。目の前の白い霧のように。さっき受けた痛みすら、僕は忘れかけていた。今まで僕は、何をしてきたんだろう。あの魔物達は、どんな魔物だったんだろう。響き渡る足音に耳をそばだてながら、僕はその場に立ち尽くす。僕の記憶が、暗闇に溶けていく。目の前で何が起こっているのかも分からなくなってきた。僕はどうしてここにいるんだ。何か、胸の奥に風穴が空いたような感覚だ。僕は一体、誰なのだろう。
「おいおい、しっかりしろよ。お前さんはあの嬢ちゃんと一緒に元の世界に戻るんじゃなかったのか?」
僕の胸の奥まで響くような声で、誰かが語りかけてくる。誰だろう? 霧がかかって思い出せない。だけど、この声を聞いていると胸がすごくざわつく。声の主はどこを探してもいない。魔物達がゆっくりと僕の元に来ているだけだ。僕がぼんやりとしていると、声の主は苦笑した。
「まあ、オレのことを思い出せなくても良いさ。ただ、お前さんの中には忘れちゃいけねえモンがある。お前さんにとって大切なモンがな」
その言葉と同時に、僕の中の霧が晴れていく。大切なもの……。そうだ、僕には大切なものがあった。コーラ、クリス。二人を助けないと。胸の中でそんな思いが一気に吹き出すと同時に、僕は一歩踏み出す。その姿を見たのか、声の主は満足げに笑う。
「ったく、これが最後だぜ。小さな勇者さん」
声がだんだん消えてくると同時に、暗闇の中に一陣の煙が舞い上がった。魔物の中の一匹の首の鎖が音を立てて砕ける。ヨーヨーを持っていたその魔物は……ルシアンの姿は消えていった。そうだ、忘れるはずがない。僕は元の世界に戻るために、ここまで来たんだ。そしてその中で、ルシアン達と会ったんだ。例え彼らが忘れても、僕は忘れはしない。僕はモーガンに駆け寄って、その頭を撫でた。固い石像のような感触。間違いない、モーガンのものだ。モーガンも大人しくなって、僕に身を預ける。すると、モーガンの首の鎖が砕け散った。それと同時に、モーガンの姿も消えていく。僕が立ち塞がる動作をすると、アルバートが消えて、僕が戦おうとする姿勢を見せると、リチャードが消えていった。襲い来るカレンとセオドリックさんに戦いたくないことを告げると、彼らは満足げに笑って消えていく。彼らだって僕のことを忘れたわけじゃない。いくら記憶を書き換えられても、思い出まではぬぐい去れないんだ。
「へえ、ここまで来ただけはあるね。だけど、この魔王を打ち負かせることはできないだろ。元勇者の魔王はね」
オズワルドの声と共に、ヴィンセントが両手の剣で僕に斬りかかる。感情のないロボットみたいに。
「もういいんだ! ヴィンセント。役割通りに動く必要はないんだよ!」
剣戟を躱しながら、僕は必死に訴えかける。ヴィンセントは苦しげな声を上げながら、僕を斬りつけた。戦っているんだ。ヴィンセントも支配から逃れようとしているんだ。僕は何度もヴィンセントに呼びかける。
「そいつは僕が書いた本の勇者だったんだ。だけど、カーラを死なせないために、この物語を繰り返せるために僕が最強の魔王に書き換えたんだよ」




