25話 立ち塞がる者
やっぱりコーラとアイツだ。アタシは二人に近づく。だが、手が伸ばせるか伸ばせないかぐらいの距離を置いた。アイツらと一緒にいるあのチビは何者だ? さっき合った兵士と似たような格好をしている。それに、アタシはもうアイツらの仲間じゃないんだ。いや、こんな奴をもう一度仲間にしてくれるはずがない。新しい仲間も見つけたっぽいし、アタシはいらないだろう。アイツも、少し気まずそうな顔をしていた。
「クリス、無事だったのね」
コーラがアタシを見て、嬉しそうに言う。フン、どうだか。内心は勇者ごっこがまたできると思っているんじゃないのか。アタシはしかめっ面をしたまま応えなかった。
「この子がクリス?」
チビの雌ライオンが、馴れ馴れしくアタシに近づく。背中の斧さえなければアタシがぶっ飛ばしてやったのに。アタシはチビに構わず、そっぽを向く。
「初めまして、ワタシはカレン。よろしく!」
チビライオンはアタシの様子なんて気にせず、そのまま自己紹介を始める。冗談きついぞ。アタシの代わりの旅の仲間が、こんな騒がしい奴だなんて。
「カレン! カレンじゃないか!」
アタシの後ろから、ムウムウがすごい勢いで走ってくる。そして、あのチビを優しく抱きしめる。アタシも驚いたが、アイツらも驚いていた。
「おい、どういう事だ?」
「ああ、すまない。この子が私の娘のカレンなんだ」
ムウムウの発言に、アタシは耳を疑った。羊の父親にライオンの娘なのか!? 顔も性格も似てなさ過ぎる。まるでアタシとアイツみたいだ。
「ええっ、この人がカレンのお父さん!?」
「ああ、初めまして。私はカレンの父のセオドリックと申します」
ムウムウは丁寧に自己紹介する。どうやら、アタシとアイツらはお互いに父親探しと娘捜しをしていたみたいだ。……よかったな。家族と出会えて。喜ばしいことなのに、素直に喜べなかった。
「ありがとうございます。娘と合わせて頂いて」
「いえ、こちらこそ。クリスを助けてくれてありがとうございます」
丁寧に受け答えをするコーラとムウムウ。その間。アタシとアイツは気まずそうに見つめ合っていた。たまらずアイツは、固く閉じた口を開く。
「ね……ねぇ、クリス。一緒に元の世界に帰ろうよ」
「…………」
アタシは黙った。本当は嬉しかったのに黙った。アイツはなけなしの勇気を振り絞って、アタシに提案している。なのにアタシはそれに応えられなかった。奴のことを信じて罠にはまったからじゃない。元の世界に帰ったところで、アタシはアイツと暮らせるか不安だったんだ。また、心ないことを、アイツに言っちまうかも知れない。それに、この世界で暮らしていくのも悪くないと思ったんだ。この世界にはムウムウがいる。今アタシが信じられるのは、ムウムウしかいなかったんだ。アタシがいつまで経っても応えないのを見て、アイツの顔が俯く。
「君達は、本当に元の世界に帰るんだね」
ムウムウが名残惜しげに聞く。本当は帰りたくなかったけど、アタシはそうだとしか応えられなかった。ムウムウだって独りじゃない。娘に会えたんだ。それはいいことだろ? そう自分に言い聞かせていた。アイツとコーラも頷く。それを見て、ムウムウとカレンは悲しそうな顔をした。
「元の世界に帰るには、この先の門をくぐって、魔王の城に行くしかない。……けど」
言うなり、ムウムウは震える手で背中の杖を取り出す。感情を捨て去ったような瞳を、ムウムウはアタシ達に向けた。
「悪いけどここを通すわけにはいかないんだ。君達を殺したくはない、すぐに立ち去ってくれ」
ムウムウの杖には風が渦巻いている。まるでそれ以上近づいたら本当に命を奪うぞ、と警告するように。カレンも、身の丈ほどある斧を構えていた。冗談だろ!? ムウムウは魔王の手先から助けてくれたじゃねぇか。なのに……どうしてっ!
「あなた達は、魔王の手先だったの!?」
「ごめん、キミ達のことを騙したりして。でも、魔王様の命令は絶対なんだ」
コーラの言葉に、カレンはわざと冷たい口調で答える。……なんだよ、結局あのニット帽が言っていたことは本当だったじゃねぇか。一杯食わされた気分と同時に、激しい怒りがこみ上がってきた。やっぱりムウムウも、平気で人を騙す怪物だったんだ。あんな優しい顔をして、娘を探すふりをして最初からアタシをはめるつもりだったんだ。だったら逆に清々しいな。これで敵って割り切れるんだからな。
「ねぇ、カレン、セオドリックさん。どうしても、僕達を通してくれないのかな。僕達、別に魔王を倒そうとしているわけじゃないんだよ」
「キミがそう思わなくても、きっとそうせざるをえなくなるよ。だからワタシが、ここで食い止めるの」
「お願いだ……。どうかここを離れてくれ……」
お人好しの要求を突っぱねるカレンと、苦しげに呻くムウムウ。もうこれで分かっただろ。元の世界に帰りたいなら、コイツらを殺すしかない。散々アタシ達を騙してきたんだ。心置きなく殺れるだろ。
「…………要するに、お前らをぶっ殺すしか、先に進む道はないんだろ?」
花を手にして、アタシは二人の前に立つ。アタシの気持ちに応えるように、花は杖に変わった。杖の先が、禍々しい紫色の光を帯びる。アタシがアイツらを憎めば憎むほど、その光は強くなった。それを見て嫌な予感がしたのか、あのお人好しも木の枝を構える。
「……君達を攻撃したくない。分かってくれ」
ムウムウは一歩も退かず、アタシに最後の忠告をしてくる。命乞いか。アタシを騙してきた奴が、今更何を言うんだ。そんな哀れっぽい声を出して、許されると思っているのか。今度こそ弱みは見せねぇ。見せてたまるか。
「……ハッハッハッ! よかったじゃねぇか! 死ぬ前に家族と再会できてよぉ!!」
胸の内に渦巻く黒い感情を吐き出すように、アタシは二人を嘲笑った。アイツは怯えた顔でアタシを見ている。そうだ、アタシはアンタらと一緒にいるべき奴じゃない。汚れるのはアタシだけでいいんだ。アタシは杖の先を、裏切り者達に向ける。
「クリス! 駄目よ!」
「クリス、あの二人だって好きで戦いたいわけじゃないんだよ!」
コーラとアイツの訴えに、アタシは耳を貸さなかった。アイツらが好きで戦いたくねぇのは、目を見れば分かる。見ろよ、アイツらの震えている手を。一歩近づくごとに、覚悟を決めて歯を食いしばる様を。アタシだってできれば戦いたくねぇ。だが、裏切られたこの怒りがそれを許しちゃくれねぇんだ。アタシは引導を渡すように、杖を大きく振り上げる。
「親子仲良くくたばりな!!」




