表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/34

21話 檻の中の魔法使い

 頭がクラクラする。アタシはどこにいるんだ? 地面がやけに冷たくて、固い。目をゆっくり開けると、警察署で見たような檻が広がっていた。周りを見ても、コーラもアイツもいない。はっ、ちょうどいい。今はアイツらの顔なんか見たくなかったんだ。あんな呆れるほどお人好しな奴らの顔なんかな。檻の中は窓一つなくて、息苦しい空気が漂っている。施設にいたときのことを思い出す。あそこも都会の悪い空気が入らないように、窓を閉め切っていて、その代わりに変な機械で換気をしていた。まるでアタシ達を、ウィルス一つ入ることも許されない実験動物みたいに扱っているようで、いい気がしない。アタシは檻の外に出ようとするが、何かが手に付いていることに気づいた。警察が犯人にかけるような手錠だ。アタシは引きちぎろうとするけど、ビクともしない。檻の中に手錠をしたガキ……か。本当に囚人みたいだな。このままずっと檻の中にいたら、頭がおかしくなりそうだ。アタシは助走を付けて、檻に体当たりした。檻は大きく揺れるが、折れる気配はない。すかさずアタシは、何度も檻に向かって体当たりをかました。全身がしびれるように痛む。金属を揺るがす鈍い音が、檻中に響き渡った。何回か体当たりをし終えて、ついに力尽きてアタシは地面に倒れる。走ったせいか、全身が熱い。アタシの行動を馬鹿にするように、檻はキズ一つ付いていない。胸の奥がムカムカする。せめて手錠がなければ。どうにもできないこの状況に、さらに腹が立った。助けを呼ぶ真似なんて死んでもしたくない。ましてや助けを待つなんてまっぴらごめんだ。そんな真似をするのは、あの甘ちゃん達だけで十分なんだよ。その時、檻の外側の通路から誰かの足音が聞こえた。洞窟で会ったあの弱虫な犬の怪物みたいに大きな足音だ。アタシはとっさに壁際に離れる。あの大きな足音は人間のものじゃない。馬鹿でかい怪物のものだ。足音は一直線にこっちに向かってくる。

「お嬢ちゃん、怪我はないかい?」

くぐもった低い声で、足音の主はアタシに向かって話しかける。アタシはおずおずと檻の向こうにいる怪物の姿を見た。それは大きかったが、あの犬の化け物ほどじゃない。でも、背中を丸めてやっとアタシと同じくらいになるほどだ。そいつは全身毛むくじゃらの大きい羊の怪物だった。悪魔みたいな大きい二本の曲がった角に、縮れた黄土色の鬣。顎も鬣と同じ色の、もじゃもじゃの髭が生えていた。緑色の目を光らせて、そいつはアタシを見ている。ハロウィンの仮装で施設の奴らが着ていたような、三角帽子とローブを着ていた。探検家のような茶色いリュックを背負い、そこから杖がはみ出ている。羊の大男には恐ろしく似合わない。

「それ以上近づくな」

アタシは追い詰められた動物みたいに、羊の大男を威嚇した。羊を威嚇する動物なんて見たこともないけどな。腰をかがめて、大男が手を伸ばした瞬間つかみかかれるような体勢でいた。

「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。私は君を傷付けたりしないからね」

羊の大男は駄々っ子をなだめるような穏やかな口調で語りかけてくる。信じるもんか。散々怪物共に酷い目に遭わされたんだ。あんなお人好しそうな顔をして、いざ近づいたらアタシを八つ裂きにするに違いない。アイツの口から覗いている羊に似つかわしくない牙と、毛だらけの手から生えた鋭い爪が何よりの証拠だ。アイツは羊の皮を被った狼。信じるはずがない。

「来んな! それ以上近づいたら……!」

アタシはとっさに手錠の付いた両手でポケットを漁る。そして、閉まっていた花を前に突き出す。間抜けなもんだ。手当たり次第とはいえ、花を化け物に突き出すなんて。その時、花は菓子の家で起こったように光った。明かりに包まれたまま。花はその形を杖に変えていく。大男も驚いていたが、アタシはそれ以上に驚いた。あのキザ野郎が言ったことは信用できないが、これも魔法なのか? 杖は大男がいる鉄格子に向かって、紫色の衝撃波を放った。衝撃波は大男の目の前にある鉄格子を粉々に破壊する。砂埃が舞い上がった。コーラを治したときとは明らかに違う。アタシが目の前にいる大男をぶっ飛ばしたいと思ったら、花が杖に変わった。これなら、大男に攻撃される前にぶっ飛ばせる。だが、一発撃った反動なのかアタシの体には、だるさが重くのしかかっていた。頭の中がぐらぐらする。目眩もしてきた。魔法とやらを使うのはこんなに体力が消耗するものなのか。くそっ、アイツをぶっ飛ばす方法を見つけたのに。

「おやおや、そんな強い魔法を使ったら君の身が持たないよ」

羊の大男は大きな足でアタシの元に寄ってくる。アタシはせめてもの抵抗で杖を向けたが、疲れているせいなのか魔法は出てこない。あと一撃でも食らわせれば……。足がもつれて、ついにアタシは地面にへたり込む。

「く……来んな……。近づくな……」

心臓の鼓動が早くなり、呼吸も乱れてくる。杖もただの花に戻った。こんな時……こんな時にアイツらがいたら……。いや、馴れ合いはごめんだ。アタシはあんな甘ちゃん共なんかじゃない。アタシはアタシ一人の力でここを出る。そんな空意地だけが、アタシを動かす気力だった。

「大丈夫、落ち着いて息を吸うんだよ」

羊の大男はなおも穏やかにな口調で語りかける。絶対信じるもんか。羊の大男は人の頭なんて握りつぶせるくらい大きな手で、アタシの背中をさする。アイツに肩を撫でられた時みたいに、優しい手つきだった。化け物に撫でられているはずなのに、呼吸が落ち着いていく。何で気を許しているんだ。あの大男は怪物だ。そのはずなのに、どうしてアタシは逃げないんだ。自分でも分からなくなっていた。

「怖かったんだね。よしよし」

大男は丸太みたいな腕でアタシを抱きしめる。いつもだったらその腕を引っぱたくのに、今は何故かこのままでいたいと思った。濡れた犬みたいな匂いかと思ったが、羊の大男からはいい匂いがする。昔、母さんが入れてくれた紅茶みたいなふんわりとした匂いだ。アタシはそのまま黙っていた。

「さあ、ここは危険だ。早く外に出よう」

聞き分けのない子供を説得するように、大男はアタシに言い聞かせる。あの緑色の目に見つめられたら、言うことをすんなりと聞いてしまいそうだ。大男は背中から杖を取り出して、アタシ目掛けて振った。すると、手錠はいとも簡単にアタシの手から外れる。あれも魔法なのか? わざわざアタシを逃がすようなことをするなんて、変な怪物だ。確かに、ここがどこだか分からないが、良い気がするような所じゃない。むしろ施設にいた頃を思い出させてくるから不愉快だ。でも、あの大男を完全に信用しているわけじゃない。コイツもあのニット帽の幽霊男と同じ怪物だ。いつ本性を現すか分かったものじゃない。

「待て、お前は誰だ? どうしてアタシを助けようとする?」

「私はセオドリック。このライブラ城は魔王がいる。君みたいな子供が来ちゃいけないんだ」

セオド……覚えにくい名前だな。羊なのに体が大きくて牛みたいだからムウムウでいいか。アタシは魔王の城の牢屋に捕まっていたのか。ということは、アイツらも、もしかしたら捕まっているのか? いや、アタシが助ける義理はない。もうアタシはアイツらの仲間じゃないからな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ