18話 檻の中の戦士
六話 檻の中の戦士
「オズワルド……。彼は夢の中でそう言っていた」
コーラの言葉で、僕は目を開ける。僕は確か、ルシアンが出した炎に襲われて……。そうだ、クリスは? 周りを見ても、コーラの姿はあったけど、クリスはいない。見つけないと。僕はクリスと一緒に元の世界に帰らなくちゃいけないんだ。僕は外に出ようとするけど、目の前の鉄格子がそれを阻んだ。僕は木の枝を剣に変えて壊そうとしたけど、こんな時に限って木の枝はうんともすんとも言わない。牢屋になんか入ったことないけど、囚人ってこんな気分なのかな。だとしたらテストのカンニングもやりたくなくなるね。暗いし、天井からは冷たい雫が垂れてくるし、地面も固くて座り心地が悪かった。通路の奥から微かに、誰かの話し声が聞こえる。やっぱり牢屋だから、ママがよく見てたドラマみたいに見張りとかがいるのかな。だとしたら助けを呼んでも気づかれちゃう。
「それに、オズワルドと話していたあの人……。あれは一体誰なの?」
コーラがうわごとで何か呟いている。どうしたんだろう。聞いたこともない人の名前を仕切りに言っていた。
「コーラ、一体どうしたの?」
僕の呼びかけにもコーラは反応しない。まるで幽霊にでも取り憑かれたみたいだ。ヒスイ色の目にも僕以外の何かが映っている様だった。僕はコーラの体を揺する。それでもコーラは目の焦点が定まっていない。
「しっかりしてよ! コーラ」
「ねえ、あなたは一体誰なの? どうして私の夢の中に出てくるの!?」
コーラは絶叫して、光の帯で頭(にあたる部分)を押さえた。普通じゃないよ。こんなに怯えたように体を震わせて。僕はコーラを落ち着けるために、体をさすった。その時、コーラの体が痙攣するようにビクッと動く。
「リ……アム?」
コーラの目に光が戻った。よかった、このまま夢の世界に引きずり込まれちゃったらどうしようかと思ったよ。コーラはぼんやりとしたまま、僕を見つめていた。僕はゆっくりコーラから手を離す。
「大丈夫? コーラ」
「ええ、ちょっとうなされていただけよ」
コーラは光の帯で額を撫でる。本当にうなされていただけなのかな? そうには見えなかった。その時、誰かがこっちに来る音が聞こえた。見張りかな。僕は早くここから出たかったけど、目の前の鉄格子がそれを許してくれなかった。ああ、こんな時にクリスがいてくれれば、もしかしたら檻を壊してくれるかもしれないのに。いや、あんな目に遭ったんだ。僕に協力してくれることはもうないと思うな。僕は何者かの足音を、ただ待つしかなかった。足音は軽快な足取りで迫ってくる。足音の主は、僕らの前で立ち止まった。
「二人とも、早くここから出て!」
檻の前には、一匹の獣人がいた。オレンジ色の体毛をした、子供の雌ライオンみたいだ。大きな黄色い目で、僕らを真っ直ぐ見ている。頭のてっぺんには、僅かに生えた赤い鬣が、ハート型の髪留めでポニーテールみたいに留まっていた。左肩の戦士のような赤い肩当て、体に対して大きすぎる白い胸当て、背負っている槍のような斧から、ここの警備兵みたいだ。子ライオンは不思議な形の鍵で、檻の扉を開けた。
「あなたは……?」
「ワタシはカレン。キミ達を助けに来たの」
女子特有の甲高い声で、カレンは僕らに呼びかける。僕は行こうとするけど、少し戸惑った。もし、この子もルシアンみたいに僕らを騙していたら? 外に出た瞬間、背中の斧で僕らに斬りかかったら? ルシアンに騙された今、僕の中には後悔と猜疑心しかなかった。外に出る足が止まる。
「どうしたの? 早くしないと看守が来ちゃうよ」
外に出ないことに痺れを切らしたのか、急かすような口調になるカレン。この子の話し方といい、服装といい、ジョージ兄さんの妹のハリエットを思い出すよ。ハリエットは僕と同い年だけど、いつもちょっと背伸びして中学生みたいな服を着ていた。ヒラヒラのドレスみたいなスカートに、バッジで着飾ってゴテゴテになったジャンパー。ハリエットはすごく強引な性格で、僕をよく無理矢理探検に連れて行ったんだ。危ない森とか、洞窟とかにも行ったことがある。それに、ハリエットはパーティが大好きで、いつも友達の女の子と一緒に変な色のお菓子を並べてパーティを開いていたよ。極めつけは、僕の八歳の誕生日の時に、招待されてもいないのに上がり込んできて、はしゃいで誕生日ケーキをめちゃくちゃにしたことかな。あれは人生最悪の誕生日だった。この女の子は悪くないのは分かるけど、どうしてもハリエットを連想する。
「本当に助けに来たの?」
コーラも壁側に離れて、警戒している。やっぱりコーラも相当応えたんだね。でも、僕も同じ考えだ。
「本当だってば!」
カレンは檻の中に入ってきて、僕の手を取る。女の子とは言えども、獣人だ。引っ張る力はすさまじかった。女の子ってみんなああなのかな。クリスも力は強かったけど、こっちは本物の猛獣だ。力はクリスの倍に感じる。肉球がデザインされた革製の赤い手袋が、僕の手と擦れる音を立てた。この子に逆らったら、手を握りつぶされそうだ。でも、この子の言葉が本当なら、ここを早く離れた方がいいかもしれない。簡単に信用していいのか分からないけど。
「……コーラ、今はここを出ることが先みたいだね」
「…………そうね」
コーラはまだ何か言いたげだったけど、口をつぐんだ。カレンはその気になれば背中の斧で僕を斬り殺せたのに、そうしなかった。だから少しは信じてもいいはずだ。通路の奥の方から、爆発音のようなすさまじい音が聞こえた。誰のものか分からないけど、ただならぬ音だ。ますますここが危険な気がした。
「…………分かったよ。行こう、カレン」
「信じてくれてありがとう! じゃあ、行くよ」
カレンはそう言うと、僕の手を掴んだまま早足で檻を出た。やっぱり着ぐるみとかじゃなくて、本物の獣人だ。ライオンの足をかたどった赤色の足袋で、軽々と地面を蹴っていく。これじゃあまるで僕は引きずられている獲物のシマウマみたいだよ。
「ちょっと! リアムをどこに連れて行くの!?」
コーラが僕らの後を追うのが見える。よかった、すっかり調子を取り戻したみたいだね。流れていく光景の中、息を切らして後を追うコーラを見て、少し安心したよ。




