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第3章:血と泥の自立、そして搾取

※本章には一部過激な描写が含まれます。

ストッパーを失った狂気の家から少しでも長く離れるため、そして誰の力も借りずに生き抜くため、俺は定時制高校への進学を選んだ。

だが、そこから始まったのは、自らの命を前借りするような過酷な日々だった。学費は当然のように自分で払わなければならず、行く意味すら見出せない学校のために身を粉にして働くという矛盾。

朝方はまだ暗いうちに起き出して新聞配達のバイクを走らせ、それが終わるとオープン前のスーパーへ向かい、裏でひたすら開店準備をこなす。そして9時から14時までは中華料理店で油まみれになって鍋を振る。息つく間もなく、17時から21時までは定時制高校の教室で重い瞼を開けて机に向かうのだ。

指先には新聞のインクが黒く染み付き、制服からは常に中華のラードとスーパーの生鮮の匂いが混ざり合った異臭が漂っていた。睡眠時間は極限まで削られ、慢性的な疲労で視界は常に霞んでいる。文字通り、血を吐くような思いで身体を酷使し続けた。

同時に、俺は自ら身を投じていた暴走族という狂気の世界から完全に決別する決意を固めた。

だが、不良の世界から抜け出すには、相応の「ケジメ」という名の痛みを伴う。ある夜、冷たいアスファルトの広場に呼び出された俺を待っていたのは、十人以上の仲間たちだった。

逃げ場のない円陣の真ん中に立たされ、制裁が始まる。一人目、二人目と、容赦ない重い拳が次々と顔面を捉えた。口内がズタズタに切れ、鉄の味が広がる。そして三人目――ついに「ケツ持ち」である裏組織の男が目の前に立った。その無慈悲な拳が視界を覆った瞬間、脳髄が激しく揺れ、俺の意識は深い闇へと落ちた。

次に目を覚ました時、顔面は自分のものとは思えないほど肥大化していた。まるでアンパンマンのようにパンパンに腫れ上がり、目は塞がり、顎の骨が軋んで口を数ミリ開けることすら激痛が伴う。

そんな凄惨な状態の俺の枕元にいたのは、あの義母だった。彼女は箸を使い、腫れ上がった俺の唇の隙間から、うどんを一本、また一本と無表情に口の中へ押し込んできた。普段は俺を虐待するくせに、瀕死の重傷を負った時だけ見せるその不気味でいびつな「母親ごっこ」は、ケジメの拳よりもよほど背筋が凍るものだった。

ボロボロになりながらも必死に働き続けたのには、理由があった。

しかし、現実は俺の想像を絶するほど腐りきっていた。中華料理の過酷なバイトを終え、泥のように疲れて帰宅した俺の耳に飛び込んできたのは、自分の部屋から漏れ聞こえる獣のような喘ぎ声だった。

ドアの向こうでは、親父と義母が俺のベッドで情事に耽っていたのだ。あろうことか、この大人二人は一切働かず、俺が睡眠時間を削って稼いだ金に完全に寄生して生活していた時期もあった。プライバシーも尊厳も、そこには微塵も存在しない。

その頃、あの義母が三人目となる子供――今度は女の子――を妊娠し、入院することになった。

ある日、俺は原付に乗り、義母のためにパジャマや日用品を病院へ届けるよう使いに出された。その道中だった。不意の交通事故。アスファルトに叩きつけられ、身体中に痛みが走る。だが、この事故によって俺の手元にはまとまった「保険金」が転がり込むことになったのだ。

時を同じくして、2000年9月。あの「東海豪雨」が街を飲み込んだ時のこと。

俺は親父から「お前に紹介したい女がいる」と一人の女性を引き合わせられた。それは奇しくも、あの大雨の夜、裸足でさまよっているのを見かけ、密かに一目惚れをしていた相手だった。微かな運命を感じ、俺は彼女と交際を始めることになる。

だが、運命の女神は俺に対してどこまでも残酷だった。

ある日、高校の前に彼女と、親父、そして義母の三人が車で迎えに来たことがあった。その車内で、彼女の口から信じられない言葉が飛び出したのだ。

「実は……お父さんと関係を持ったことがあるの」

息が止まった。自分が愛した女は、すでに自分を生んだ男に抱かれた「お下がり」だったというのか。

激しい怒りと吐き気に襲われ、俺はすぐさま親父を問い詰めた。だが、返ってきたのは悪びれる様子すらない、耳を疑うような言葉だった。

「別にお前が付き合う前やから、ええやんか」

泥まみれの事実。それでも当時の俺は、孤独を埋めたいという強烈な飢餓感から、そのおぞましい事実を無理やり飲み込み、交際を続けてしまった。自分の尊厳をドブに捨てるような決断だった。

そんな砂上の楼閣が長続きするはずもなかった。

あの原付の事故で得た、文字通り血の滲むような保険金。俺はその全額を、彼女の「自動車学校の合宿代」として貢いでしまったのだ。

だが、その見返りはあまりにも惨めなものだった。男女別の旅館で行われた合宿中、彼女はあろうことか、そこに仕事の出張で泊まりに来ていた見ず知らずの宿泊客と浮気をしたのだ。

親父からの精神的凌辱、そして彼女からの決定的な裏切り。

俺の中で、何かが完全に音を立てて折れた。

自分で行きたくもない学校の学費を稼ぎ、親に寄生され、唯一信じた恋人に裏切られる。こんな無意味な生活に、一体何の価値があるのか。

「もう、学校なんて行っている場合じゃない。ひたすら働いた方がマシだ」

そう悟った俺は、あっさりと定時制高校を中退した。

恋も、学校も、自立へのわずかな希望も、すべてがこの時、果てしない徒労感とともに終わりを告げたのだった。

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