第六話:美味しい利権と、バルガスの完全浄化
『カイト・ミート』へようこそ。
今回は、お店の利権を狙ってやってきた、
カイトをかつて追い出した無能な文官バルガスとの対峙。
しかし、
カイトの進化しすぎた浄化魔法が、思わぬ奇跡を巻き起こします。
新メニューである『アースクエイク・ポークハンバーグ』の爆発的なヒットにより、
我が『カイト・ミート』の人気は、もはや商店街のキャパシティを完全に越えようとしていた。
溢れ出た肉汁にスプーンを突っ込んで感動の涙を流す冒険者や、
ハンバーグから得られるステータス上昇バフの恩恵により、その場で自分の腕を見つめて硬直する衛兵などで、連日店頭は押すな押すなの大騒ぎだった。
そんなある日の営業終了後、店を閉めてエレノアと片付けをしていた時のことである。
「おい、ここが『惨敗勇者』の開いた不届きな店か。ずいぶんと下賤な民どもを集めて、怪しげな呪肉を売り捌いているようだな」
バタン、と傲慢な音を立てて引き戸を開け、土足で店内に踏み込んできたのは、仕立ての良すぎる贅沢な絹のローブを纏った男だった。
男の名はバルガス。かつて俺が勇者として召喚された際、戦闘経験のなさを理由に「使えない無能」「税金の無駄遣い」と罵り、魔王討伐の失敗後には真っ先に俺を無職へと追い込んだ、王宮の財務部次官(無能な文官)である。
バルガスの後ろには、これまた険しい顔をした、公認の鑑定魔導師と数人の衛兵が控えていた。
「……バルガス様。ここは私的な商業店舗ですわ。王宮の役人とはいえ、夜間の不法侵入は我が国の法において厳罰の対象になりますが?」
カイトが口を開くより早く、割烹着のエプロン姿でコロッケのヘラを握ったエレノアが、冷徹極まる王族の眼光でバルガスを射抜いた。
「お、おぉ、エレノア様……!
まさか本当に、このような薄汚い肉屋で、泥に塗れてコロッケなどという庶民の食べ物を作っておられるとは……!
王族の血を引く貴女様が、あのような惨敗無能男に誑かされるなど、我が国の恥ですぞ!」
バルガスはハンカチで額の汗を拭いながら、芝居がかった仕草で大袈裟に嘆いてみせた。
「誑かされてなどいませんわ。
私はカイト様の『お肉の質』と『お人柄』に惚れ込み、
自らの意志でこの店の女将を務めているのです。
用件がないのでしたら、お引き取りを」
「フン、用件ならありますとも!」
バルガスはエレノアの気迫に一瞬怯んだものの、
すぐに卑しい笑みを浮かべて、
俺の前に一枚の羊皮紙を叩きつけた。
「カイト! お前が『無限浄化』なる胡散臭い術を使い、
魔物の肉からバフ効果を引き出して暴利を貪っているという噂は、
すでに王宮の耳にも届いている。
魔物はすべて国の資源だ。
よって、本座をもって、この『カイト・ミート』の経営権、およびその解体・浄化技術のすべてを王宮財務部へと『無償で譲渡』してもらう!」
バルガスは一点の曇りもない真面目な顔で、とんでもない横暴をのたまった。
要するに、魔王戦で役に立たなかった俺を追い出したものの、
その俺が始めた店が国の一大利権クラスの価値を持つと知り、
美味い汁だけを横取りしにやってきたというわけだ。
「技術の無償譲渡、ですか?」
カイトは怒るよりも先に、ただただ困惑してバルガスを見つめた。
「そうだ! 不服か?
これは国命であるぞ!
断れば、お前を『違法な魔物肉の販売による国家転覆罪』で即座に投獄しても良いのだからな!
さあ、そこに控える鑑定魔導師に、お前の『浄化の術式』をすべて白状するのだ!」
バルガスが顎で指図すると、後ろにいた老魔導師が、
仰々しい鑑定用の水晶玉を構えて前に進み出てきた。
「カイト様、このような無礼、私が王宮に掛け合って即座に――」
エレノアが激怒して一歩前に出ようとしたが、
カイトはその肩を優しく手で制した。
「いいよ、エレノア。
バルガス様、技術を教えるのは別に構いませんよ。ただ、俺のやり方は前世のお肉屋さんの勘に基づいているので、言葉で説明するのは難しいんですけど……それでもいいですか?」
dishonesty
「ふははは! やはり惨敗勇者、脅せばすぐに尻尾を振るか! 構わん、その術の構築をこの天才魔導師に見せるが良い!」
バルガスは勝利を確信し、誇らしげに胸を張った。
「分かりました。じゃあ、ちょうどさっき仕入れてきたアースクエイク・ボアの残りの半身が、まだ『無限浄化・格納』の空間にあるので、それをここで浄化・解体しますね。術式をよく見ていてください」
カイトが空間にそっと手をかざす。
その瞬間、バルガスたちの前に、眩い聖なる光の渦が広がった。
「――『無限浄化』、全開」
カイトが呟いた刹那、調理場、いや、店の敷地全体が、目も開けられないほどの圧倒的な神聖魔力によって満たされた。
レベル999に達したカイトが放つ『無限浄化』の出力は、教会の教皇が一生をかけて行う大儀式の数百倍の密度を誇る。
「ぎ、ぎゃあああああああ!? な、なんだこの魔力はぁぁぁ!?」
バルガスがその神聖な圧力だけで床に這いつくばり、悲鳴を上げる。
後ろに控えていた鑑定魔導師にいたっては、構えていた水晶玉が「ピキ、ピキピキ……パリン!!」と、カイトの魔力数値を測定しきれずに音を立てて爆発四散した。
「ひ、ひえぇぇぇ! 測定不能ですじゃ! 魔力値が無限に達しておりますぞ!」
老魔導師は顔面を蒼白にしながらガタガタと腰を抜かして震え出した。
しかし、異変はそれだけに留まらなかった。
レベル999の経験値バグによって極限まで進化したカイトの『無限浄化』は、物質の瘴気を抜くだけの能力を超越し、対象が持つ『精神の歪み』や『ドス黒い悪意』さえも分子レベルで分解する、精神浄化の領域へと至っていたのである。
カイトから溢れ出た清らかな聖なる光の粒子が、床に這いつくばるバルガスの全身を優しく包み込んでいく。
「あ、あ、熱い……いや、温かい……? なんだ、これは……私の胸の奥の、ドロドロとしたものが……消えていく……?」
バルガスの濁りきっていた瞳から、すうっと邪気が抜けていき、澄み切った本来の輝きを取り戻していく。
光の渦が収まったとき、バルガスは恐怖ではなく、ただただ圧倒的な多幸感と自己の醜悪さへの気づきに震え、その場に両膝をついた。
「……私は、一体なんてことを……」
ポタポタと、バルガスの目から大粒の涙が床へと溢れ落ちた。
『無限浄化』によってこれまでの強欲や悪意を綺麗に洗い流された彼は、本物の真っ当な人間へと変貌を遂げていた。真っ当になったがゆえに、過去に自分が犯してきた数々の悪行が、激しい罪悪感となって脳裏に溢れ出してきたのだ。
「カイト殿……! エレノア様……! 申し訳ありません、申し訳ありませんでしたぁぁぁ!」
バルガスは額を床に叩きつけ、涙と鼻水を流しながら、声を震わせて許しを請うた。
「私は自らの出世のため、国費を横領し、無実の商人を罠に陥れ、利権を貪ってきました! 魔王戦で傷つき、必死に戦ったカイト殿を無能と罵り、無職へ追い込んだのも、すべては自分の失策を隠蔽するための、醜い自己保身だったのです……っ!」
あまりにも劇的なバルガスの改心と大号泣っぷりに、衛兵たちも「えぇ……次官殿が急に聖人みたいになった……」と戸惑うばかりである。
「私は明日、自ら憲兵隊へ出頭し、これまでの余罪をすべて白状いたします! この経営権譲渡の書類も、今ここで破棄します! 本当に、本当に申し訳ありませんでしたぁぁぁ!」
バルガスは涙ながらに書類をビリビリに引き裂くと、なおも「本当に、すまなかった……っ!」と泣き崩れながら、自分の罪を償うべく、自首をするためにふらふらと店を出ていった。
「……行っちゃいましたね。なんだだか、すっきりした顔をしていましたけど」
「カイト様の浄化の光が、彼の腐りきった根性を根本から叩き直してしまったのですわね。これでもう、この店に理不尽な横槍を入れる無能はいなくなりましたわ」
エレノアは感心したように微笑むと、ヘラを置いてカイトの隣に並んだ。
王宮の上層部の悪意すらもその圧倒的なスキルで完全浄化してしまった『カイト・ミート』。バルガスが自首して罪を数え上げることで、お店の社会的地位と安全性は、皮肉にも国家レベルでより強固なものへと押し上げられていくのだった。
(第七話へ続く)
第六話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
カイトのレベル999の『無限浄化』が、物質だけでなく人間の悪意まで完全浄化し、バルガスを真っ当な人間へと変貌させて大号泣の懺悔をさせる回でした。
毎回、お読みいただいた最後に皆様からの感想や評価をいただけるのが、何よりの励みになります。
もし「バルガスの劇的な改心にスカッとした!」「浄化魔法が万能すぎる!」と思ってくださった方は、ぜひページ下部にある【ブックマークに追加】や、評価の【⭐︎⭐︎⭐︎︎︎︎︎︎︎︎⭐︎⭐︎】(星5つ!)をポチッと押して応援していただけると幸いです!
これからもどうぞよろしくお願いいたします!




