第十四話:老いた神話と、究極の衛生管理
『カイト・ミート』へようこそ。第二章の第3話です。親子に売られて出てきた最長老のじいさんドラゴン。しかし、肉が半ば腐りかけて売り物にならないと判断したカイトが、お肉屋さんとしてのプライドから、異次元の『無限浄化』で彼を大真面目に治療(若返らせる)してしまうお話です。
「「じいさんーーーっ!! 美味しいお肉になっておくれーーーっ!!」」
白銀の竜の巣に響き渡る、親子の恥も外聞もない大絶叫。
地獄の番犬ケルベロスをロース肉としてサクッと仕入れた俺だったが、まさか本命のドラゴンの巣で、これほど倫理観の崩壊した身代わりの擦り付け合いを見せられるとは夢にも思わなかった。
直後、巣のさらに奥深く、霊峰の深淵から「ゴホゴホ、ゴホッ……」という、ひどく掠れた老人のような咳払いが聞こえてきた。
「喧しいぞ、若造どもめ……。千年以上生きたこのワシを、人間に売るなど……ゲホゲホッ」
ゆっくりと姿を現したのは、全身の鱗が長年の歳月で白化し、あちこちがボロボロに剥がれ落ちた、超巨大な古代竜――この巣の最長老たる、じいさんドラゴンだった。
数千年の時を生き、かつては世界を裏から支配していたとされる生ける伝説。しかし、その体からは、おぞましい暗黒の魔力と共に、何とも言えない不穏な匂いが漂っていた。
カイトはお肉屋さんの二代目としてのプロの嗅覚、そして『食材鑑定(SSS)』のスキルで、そのじいさんドラゴンの全身をじっと見つめた。
「……あー。おじいさん、これはちょっと、お肉屋さんとしては売り物に出せないな」
カイトは肉切り包丁(聖剣)を構えたまま、非常に残念そうに眉をひそめた。
「ぬ……? ワシの肉を売らんとな? ふ、ふはは、やはりワシの神話級の威厳に恐れをなしたか……ゲホッ」
「いや、威厳とかじゃなくて、単純に年を取りすぎて全身の肉が半ば腐りかけてるんだ」
カイトの身も蓋もない一言に、じいさんドラゴンは「え?」と大真面目な顔で硬直した。
「数千年も生きているせいで、体内の魔力の循環が完全に滞ってる。そのせいで全身に古い瘴気がヘドロみたいに溜まって、赤身の繊維がズタズタに傷んでるよ。これじゃあ千年の熟成肉どころか、ただの鮮度の落ちた傷み肉だ。うちのお店は『美味くて滋養がある』のが売りだから、こんな衛生環境の悪いお肉はお客様に絶対に出せない」
カイトはお肉屋さんとしての徹底した品質管理のプライドに基づき、本気でダメ出しをした。
「な、なんじゃと……!? ワシの身体は、ただの老衰ではなく、千年前の神々との戦いで受けた不治の呪いによって腐敗が進行しておるのじゃ! どんな聖職者の最高級ヒールでも治せなかった、由緒正しき呪い肉を、鮮度が落ちたなどと下賤な言葉で片付けるなぁ!」
じいさんドラゴンは大真面目に悔しそうな顔で、自身の呪いの格式の高さを言い張った。
「呪いだろうが老衰だろうが、お肉が傷んでることに変わりはないよ。……よし、仕方ないな。うちの店のクオリティを保つために、ちょっと手入れしてあげるよ」
「手入れ……? 何を言って――」
「――『無限浄化』、部分集中照射」
カイトがじいさんドラゴンに向かって手をかざした瞬間、眩い純白の聖なる光のレーザーが、その巨躯をピンポイントで包み込んだ。
レベル999の出力から繰り出される『無限浄化』は、物質の瘴気だけでなく、数千年前の神々の呪いや、肉体の経年劣化による老廃物さえも分子レベルで完璧にフィルタリングし、消滅させる。
ジジジジジッ!!! と、じいさんドラゴンの全身からドス黒いヘドロのような呪いの霧が、一分子残さず綺麗に蒸発していった。
「ほにゃああああああああ!?!? な、なんじゃこれはぁぁぁ! 身体が、身体が軽い! 数千年間、ワシを苦しめていた骨の軋みが消えていくのじゃぁぁぁ!」
光の渦が収まったとき、そこにいたのは、ボロボロだった白い鱗がすべて瑞々しい極上の純白に生まれ変わり、全盛期の圧倒的な生命力を取り戻した、ピチピチの若返った超巨大ドラゴンだった。
肉質も一瞬にして、最高級の弾力と、数千年の旨味が凝縮された究極の霜降り肉へと完全修復されている。
「よし、完璧だ。古い瘴気も呪いも綺麗に抜けて、最高の『数千年熟成肉』に若返ったよ。これなら自信を持ってガストロ公爵に出せるな」
カイトが満足そうに包丁を握り直すと、若返ったじいさんドラゴンは、全盛期のパワーを取り戻したはずの身体でガタガタと激しく震え出し、息子や孫と全く同じポーズで地面に平伏した。
「ま、待ちたまえ! 確かに身体は若返って最高の肉質になったが、ワシはもっと生きたいのじゃ! 食べられたくないのじゃぁぁぁ!」
呪いを解いてくれた命の恩人を前に、大真面目に涙を流して大号泣するじいさんドラゴン。
神話の竜たちが三世代揃って地面に這いつくばり、必死に命乞いをするという、前代未聞の奇妙な光景が霊峰の頂上に完成していた。
(第十五話へ続く)
第十四話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
呪いの傷み肉を完璧にピチピチの極上霜降り肉に若返らせ、結局三世代で命乞いをさせてしまうカイトの日常(仕入れ)回でした。
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次回、若返ったじいさんドラゴンが、さらなる生き残りをかけて「ドラゴンの神」を斡旋してきます。
どうぞお楽しみに!




