第十三話:生贄の斡旋と、神話級の親子喧嘩
『カイト・ミート』へようこそ。
若いドラゴンに売られて登場した父親ドラゴン。
カイトの圧倒的な実力を前に今度は親子が一緒になって「さらなる上の世代」を身代わりにしようと、大真面目な親子喧嘩を始めるお話です。
「おい、親父ーーーっ! ちょっとここへ来て生贄になってくれーーーっ!!」
白銀に輝く竜の巣に、実の父親を食材として差し出そうとする息子の絶叫が響き渡る。
あまりにも躊躇のない倫理観が完全に崩壊したスタイルの身代わり斡旋に、さすがの前世でお肉屋さんの二代目をやっていた俺もただただ目を丸くして立ち尽くすしかなかった。
直後、巣の奥にある巨大な横穴から、ドス、ドス、と霊峰全体を激しく揺るがす地響きが近づいてきた。
「やかましいわ、この親不孝者目がぁぁぁーーーーーーっ!!!」
凄まじい咆哮と共に姿を現したのは、先ほどの翡翠のドラゴンを一回り以上も上回る重厚な漆黒の鱗を纏った巨大な古竜だった。
その全身からは、千年の歳月を生き抜いた証であるドス黒い瘴気と圧倒的な威厳が立ち込めている。
漆黒の古竜は、出てくるなり凄まじい速度で前脚を振り下ろし直立不動で命乞いをしていた息子の頭を目がけて強烈な拳骨を叩き込んだ。
ドゴォォォォォン!!!
「ぎゃふんっ!?」
哀れな息子竜は頭を地面に叩きつけられて白目を剥いた。
「お前という奴は!
自分の命が惜しいからと千年間育ててくれた実の父親を人間に食材として売り渡そうとするとは何事だ! これだから最近の五百年生まれの若造は、根性が腐っておるのじゃ!」
「い、痛い、痛いのじゃ親父!
しかし、あの人間を見るのじゃ!
あの包丁に纏っている魔力を見るのじゃ!
あれはただのお肉屋さんではない我ら一族を骨一本残さず綺麗に三枚おろしにする、歩く超天災の暴力そのものなのじゃぁぁぁ!」
頭に巨大なタンコブを作った息子竜が、涙目で必死に弁明する。
古竜は「フン、たかが人間に何を怯えて――」と、ここで初めてカイトの方へと視線を向けた。
そして、その瞬間。
レベル999に達したカイトが、ただ純粋に「お肉の品質」を見極めるために全開にしていた食材鑑定の視線と、無自覚に漏れ出ている異次元の神聖魔力の波動が、古竜の全身を真っ正面から直撃した。
「――っ!?」
古竜の巨躯が、目に見えてビクンと硬直した。
千年以上を生き抜き、世界のあらゆる強者を灰にしてきた神話の竜。その極限まで研ぎ澄まされた生存本能が、今度は親の方の脳内で大真面目に警報を乱打し始めた。
(な、なんだこの人間は……!?
ただ立っているだけだというのに我が千年の鱗がまるで薄皮のようにもぎ取られる錯覚に陥るほどの圧倒的なプレッシャー……!
包丁を一振りされただけで私のロースとバラの境界線を正確に両断される未来が視えるぞ……!)
「なるほどお父さん。確かに息子さんとは貫禄が違いますね」
カイトは感心したように頷きながら、肉切り包丁(聖剣)の刃をそっと指先で確かめた。
「漆黒の鱗に覆われているということは、大気中の魔力を限界まで吸い上げて硬化させている証拠だ。
その肉質は筋肉の密度が極めて高く、適度な歯ごたえと、噛むほどに溢れ出る千年の熟成された重厚な旨味が期待できそうだ。ガストロ公爵の注文である『最高の千年熟成肉の尾肉』として、これ以上ない完璧な素材ですよ」
カイトが至って真面目な顔で、ステーキにした時の食感を思い浮かべながら一歩前に足を踏み出す。
すると、漆黒の古竜は、大真面目な顔でガタガタと巨躯を震わせながら、次の瞬間には息子と全く同じポーズで地面に両前脚を突き、涙を流して猛烈に頭を下げ始めた。
「ま、待ちたまえ!
私の話も聞いてほしいのじゃぁぁぁ!
この親不孝な息子が言ったことはすべて真実なのじゃ!
私は確かに千年以上生きておるが、肉の熟成度合いで言えばまだまだ現役で硬すぎるのじゃ!
お肉屋さんとしての調理の手間を考えれば、私を捌くのはあまりにも非効率的ではないか!?」
古竜はプライドを完全に犬に食わせたレベルで、大真面目に自分の肉の欠点をアピールし始めた。
「ええ……。でも、仕入れに来たのに手ぶらで帰るわけにはいかないしなぁ」
カイトが困ったように眉をひそめると、親ドラゴンは隣で這いつくばっている息子をバシバシと前脚で叩きながら、さらにとんでもない声を張り上げた。
「ならば、さらなる代替案じゃ!
私の肉よりもさらに長生きでさらに極上の熟成度合いを誇る『究極のドラゴン』を、
今ここで斡旋してやろうではないか!」
「……え? また別の身代わりですか?」
カイトが呆気にとられる。
「そうじゃ!
私を育てるために、さらに千年以上……いや、数千年の歳月を生きてきた、私の『父親』がこの霊峰の最深部に眠っておる!
あやつの肉こそ、まさに天上の奇跡、究極の熟成肉にふさわしいのじゃ!
おい、じいさんーーーっ! ちょっとここへ来て生贄になっておくれーーーっ!!」
「「じいさんーーーっ!! 美味しいお肉になっておくれーーーっ!!」」
今度は親と子が一緒になって、さらに上の世代のじいさんドラゴンを食材として売り渡そうと、大真面目な顔で大声を張り上げ始めた。
世代を超えて受け継がれる、あまりにも躊躇のない「身代わり斡旋」の精神。その神話級の親子喧嘩と擦り付け合いの光景を前に、世界最強のお肉屋さんであるカイトは、ただただ深い引きつった笑みを浮かべるしかなかった。
(第十四話へ続く)
第十三話(第二章をお読みいただき、本当にありがとうございました!
ドラゴンのプライドを完全に捨て去り、
生き残るためにじいさんドラゴンを売り飛ばそうとする神話級にズレた親子のコメディ回でした。
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次回、さらに呼ばれて出てきた「おじいちゃんドラゴン」が登場しますが、その肉質にとんでもない問題が……? どうぞお楽しみに!




