第十二話:神話への洞穴と、若き竜の命乞い
『カイト・ミート』へまいど。
第二章『エンシェントドラゴン討伐章』がいよいよ開幕です。
ショートカットの洞穴を抜けて竜の巣に到着したカイト。
レベル999の威圧で一瞬で命乞いを始めた若いドラゴンが、生き残るために大真面目にとんでもない提案をしてくるお話ですお楽しみに
冥界の入り口で発見した時空が歪んだかのような未知の洞穴。
俺がその暗闇の奥へと足を踏み入れると一歩進むごとに周囲の空気が一変していった。
ついさっきまで立ち込めていた地獄の瘴気が完全に消え去り、代わりに大気そのものが黄金色に輝いているかのような圧倒的に濃密な神聖魔力が肌を刺す。
お肉屋さんの二代目としての『食材鑑定(SSS)』のレーダーがビキビキと激しい音を立てて反応していた。
間違いない。
この洞穴の先は百乃の森を抜けて半月かかるはずだった前人未到の霊峰――あの『エンシェントドラゴン』の住処のド真ん中へと直結している。
「本当に便利な抜け道だな。
これならお肉の鮮度が落ちる前に、ガストロ公爵から頼まれた『千年の熟成竜肉』を仕入れて王都へ帰れそうだ」
のんきに笑いながら洞穴を抜けると、そこは雲海を見下ろす白銀に輝く巨大な竜の巣だった。
「グルルルルルッ……! 何奴だ、神聖なる我が領域に立ち入る不届きな人間め……!」
凄まじい風圧と共に、岩陰から巨大な影が姿を現した。
全身を硬質な翡翠の鱗で覆い、背中には天を覆うほどの巨大な翼を持つドラゴン。
その眼光は鋭く口からは一吹きで山脈を消し飛ばすという超越的な魔力光線の余波がパチパチと漏れ出している。
「おお、さっそく見つけたぞ。
見たところ鱗のツヤもいいし、筋肉の引き締まり具合も最高だ。これは良い肉が取れそうだな」
カイトは職人としての歓喜に瞳を輝かせ、腰の肉切り包丁(聖剣)にそっと手をかけた。
「フン、思い上がった人間めが! 我が千年の――」
「あ、ちょっと待って一瞬で終わらせるから。
お肉の繊維をミリ単位で傷つけないように痛む暇もなく綺麗に捌いてあげるからね」
カイトが微笑みながら、スウと息を吐いて包丁を構えた
――その刹那。
レベル999に達したカイトから溢れ出た、世界を何十回も滅ぼし再構築できるレベルの異次元の神聖魔力と、絶対的な『暴力の気配』が、巣全体を、いや霊峰全体を押し潰さんばかりに炸裂した。
ドゴォォォォォォォォォッ!!!
と、大気が悲鳴を上げて結晶化していく。
「――ひ、ひえっ!?」
さっきまで傲慢に吠えていたはずの翡翠のドラゴンは、カイトの放った無自覚なプレッシャーのド真ん中を浴び、大真面目な顔のままガタガタと全身の鱗を震わせた。
竜の鋭い本能が、大真面目に叫んでいた。
(アカン、この人間はヤバすぎる。
包丁が一ミリでも動いた瞬間、私は骨と肉を完全にセパレートされてこの世から消滅する……!)
「ま、待ちたまえ!
命乞いをさせてくれ!
私は、私はまだ死にたくないのじゃぁぁぁ!」
ドラゴンは突如直立不動の姿勢のまま地面に両前脚を突き、涙と鼻水を流しながら猛烈な勢いで頭を下げ始めた。
生ける神話としてのプライドなど、カイトのレベル999の威圧の前に一瞬で消し飛んでいた。
「え? 命乞い? でも俺、予約注文が入ってるから仕入れないといけないんだけど……」
「そこを聞いてほしいのじゃ! 実は私は、この巣の中ではまだまだ若い下っ端のドラゴンでな! 千年以上どころか、まだ生まれて『五百年』ほどしか経っていないのじゃ!」
「えっ、五百年? 千年以上じゃないの?」
カイトが包丁を持ったまま首をかしげる。
「そうなのじゃ! 五百年ぽっちの若造ゆえ肉の熟成も甘くバフの効果も非常に薄い
そんな肉を貴殿のような至高の御方に提供するなど、お肉屋さんとしての看板に傷がつくだけではないか!?
だから、命だけは助けてほしいのじゃ!」
ドラゴンは大真面目に必死な顔でなぜかお肉屋さんの経営を心配するような言葉を並べて懇願した。
「うーん、五百年かぁ……。
確かにガストロ公爵からは『千年以上の熟成肉』って指定されてるから、
五百年の若造だとお肉の深みが足りないかもな……。
困ったな、仕入れのやり直しは面倒なんだけど」
カイトが真剣な顔で悩んでいると、翡翠のドラゴンはパッと顔を輝かせ涙を拭いながら調子の良い声を上げた。
「ならば安心するが良い!
命を助けてくれるのであれば、私が今から、もっと長生きで肉質の良い『別のドラゴン』をここに斡旋してやろうではないか!」
「えっ、斡旋してくれるの? 身代わりを?」
「そうじゃ! あやつなら間違いなく千年以上生きておるし、肉の熟成度合いも私とは比較にならんほど極上のはずじゃ! おい、親父ーーーっ! ちょっとここへ来て生贄になってくれーーーっ!!」
翡翠のドラゴンは巣の奥の洞窟に向かって、大真面目な顔でとんでもない大声を張り上げた。
「……え、お父さんなの?」
あまりにも躊躇のない、実の父親を食材として売るスタイルの身代わり斡旋に、さすがのプロのお肉屋さんであるカイトも、ただただ困惑して目を丸くするばかりだった。
(第十三話へ続く)
第2章 第十二話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
世界を滅ぼすドラゴンを無自覚にビビらせまさかの「実の父親の肉」を斡旋されるという、
本作特有のシュールな回でした。
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次回、呼ばれて出てきた父親ドラゴンと息子の、大真面目な親子喧嘩が勃発します。どうぞお楽しみに!




